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制約? 誓約? 違いって何ですか?
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森の正確な位置を、フィムは理解していなかった。
そもそも、フィムがまだ夕香だったころ、池から池を繋ぐ方法などなかったし、魔法は存在していなかった。
多少はそう言った事に興味を持ち調べたり真似事をしたりそんな世界に憧れはしたがそれは子供の頃の話しだった。
特別な存在になりたい。そう思った事はあれどこれだけは誰にも負けないという強みもなく、諦めも速い夕香にそれは絶対に不可能な事だった。
『着いたぞ』
ダンディの声に止めていた息と閉じていた目を開き、ふはぁーと息を吸う。
『お前には精霊の加護がある故、呼吸も出来ると言っておるだろうに』
「だって! なんかこう、確かに出来たけど心の準備が必要なの! 今みたいに急には無理なの!」
全然濡れないのもすんごい不思議だし! とフィムが自分の衣服をくるくる回りながら確認する。
『まぁいい。少し離れていろ。水を払う』
「はーい!」
フィムとは違い、精霊の加護を受けていないダンディはフィムを咥えていた口元以外はしっかりと濡れており、重そうにしていた。
とてとてとフィムが走り離れたのを確認し大きく体を振るう。何度か繰り返せばましになり、よし、とフィムの方を向けばいつもなら居る筈の姿がない。
『フィム?』
呼びかけにも応えず、やれやれとダンディはのそ、と歩きだす。
『その匂いを隠さねば直ぐに見つかると言うておろうに』
スンスン、と鼻を鳴らし匂いの濃さを見ればまだ近い様でそう慌てる距離でもないか、とダンディはゆるりと尾を振った。
空を鳥が飛ぶ。それは当り前の事だ。問題は、その大きさにある。
フィムの家にも鳥はやって来る。それはどれも手に乗る小さなサイズばかりだった。
「わわっ!」
上を向きながら後を追いかけるのは思いの外危ない。
「く、歩きスマフォの時も思ったけど、避けるの難しいのって人よりも建物だよねぇ」
ぶつかりそうになった木を避け、ひょい、と上を向くと先ほどよりその影は大きい。
「やっぱり、おっきぃー!」
鷲かな、とそう詳しくもないので想像だけを膨らませる。木を避け、時折上を向き鳥の位置を確認する。そうして走って行けば大きく開けた野原に出た。
「あれ?」
見覚えがある。と辺りを見渡すと、一角に焼けた跡がまだ残っていた。
「やっぱり、ダンディが焦がしたとこだ」
まだ草生えてない、とフィムが焦げた土に手を当てる。カサカサと乾燥した灰とも土ともつかぬ物がパラパラと落ちた。
焦げ付いた周りは小さな草が生え少しずつ元に戻りつつある様子によかった、と胸を撫で下ろす。
妖精と契約を結んだ時にお願いして加護を与えて貰ったからその内元に戻るとは言われているがやはり気にはなるのだ。
「早く元に戻るといいよね」
さて、と上を向く。鳥は、と流石にもう見えないかと諦め半分に空を確認したフィムは、一目散に森へと走った。
「待った! 待った! 待ったぁー!」
大きい。大き過ぎるだろ、と全力で走るが逃げ切れるとは到底思えない。開き迫る足はフィム程度の子供なら簡単に掴めそうな程に大きい。
目の前に、足を伸ばす様にして迫った鳥は恐らく、フィムを食料として見てる。フィムの中の何かが、恐らくは第六感的な何かが逃げろ、食われるぞ、と言っている。
「ダ! ダンディ!」
掴まれる、と助けを求め叫ぶ。こけ、と足がもつれ転び、頬や腕、足に痛みを感じ涙が滲んだ。
振り返るまでもない。むしろ怖すぎて振り返れない。
「プールウ!」
ぎゅ、と目を瞑りダンディから呼ぶな、と言われている名を叫んだ。
『ガァウ!』
下から吹き上げた風を感じれば、唸る犬の声と、ギシャァ、と何かの叫び、そしてべチャリと液体が落ちる音を聞いた。
『フィム!』
ダンディの声に目を開けば森から一目散に掛けて来るダンディが見えた。
「ダンディ!」
ほ、と安心し手を伸ばす。直ぐに傍まで来たダンディはフィムを咥え、距離を取った。
『まったく。あの犬っころは呼ぶな、と言ったはずだが』
だがまぁ今回は仕方なしか、とダンディが唸る。背に乗れそうな程に大きな鳥がプールウ達――大きな犬に首を噛まれ血を流していた。
前足で羽を押さえられ、足掻くも背に乗り上げる二頭に抑えつけられ空へ逃げる事は出来ない。
『止めよ、プールウ! そこの鳥、抵抗を止め大人しくするならば犬っころをどかそう』
『ダメ……。邪魔スルダメ』
『私達ノシロ傷ツケル。ダメ』
『ソウ。我ラノシロ。取ル、殺ス』
三頭共に鳥を殺すと主張する。鳥は抵抗を止め大人しくしたが、プールウ達に退く様子はない。
「プールウ。ダンディの言う事聞いて」
フィムがダンディに加えられたまま言えば、駄目、と首を掴んだままのプールウが返した。
『シロ、僕ラノ』
「プールウ! その鳥さんから離れて!」
キツク声を張り上げると、上に乗った一頭が僅かに動いたが他二頭が動かないのを見て動きを止めた。
「もう! 出て来て、プールウ! 三人に離れてって言って!」
『そんな声荒げるなよぉ。聞こえてるっての』
ひょい、とフィムの影からもう一頭、他よりも大きな犬――狼がのっそりと出た。
『コノ鳥、シロ取ル』
『悪イノコレ』
『シロ守ル』
三頭が主張するが、ガウ、と一鳴きし黙らせる。
『お前たちは俺の命が聞けんのか?』
プールウの唸り声に漸く三頭は鳥から離れたが、周りを囲み、威嚇するように唸り声を上げている。
『プールウの長たるお前の命でこれではまだまだ自覚が足らんのではないか』
ダンディの声に、プールウは仕方ないだろう、と緩く頭を振った。
「ダンディ、降ろして」
咥えられたまま続きそうな会話を遮り抗議すれば、直ぐに降ろされた。
「鳥さん生きてる?」
こて、と首を傾げたフィムの言葉が聞こえたらしく、そろ、と体制を起こした鳥が首を動かすと新しい血が流れた。
「あわわわわ! ど、どうしよう! 止血は? 止血どうやるの!」
慌てて駆け寄ったフィムを鋭い目がじ、と見るがそれを気にした素振りなく鳥は沈黙していた。
『好い機会だ。こいつとも制約をしてしまえ』
座り込み、昼寝でもする様に欠伸をしながらプールウがフィムに声をかけた。その様子にあれ? とフィムは首を傾げる。
「珍しいね。プールウがセイヤクって言うの」
で、止血は! 止血はどうするの! とあわあわと小さな手が忙しなく動く。
『そいつがそれくらいでどうにかなるたまかってんだ』
『は! 人間に下されたと聞いたがどうやら本当のようだな。闇の番犬の名が泣くのではないか、プールウの長よ』
新しく聞こえた少し低めの落ち着いた声に上を向けば、鳥が険しい目でプールウを睨みつけていた。
「知り合い?」
フィムが問うも、プールウは答える気はないらしい。
『腐れ縁だ。傷の事は気にしなくて構わない。放っておいても時期に治る』
そうなの? と探る様な目に本当だ、と鳥が答えた。
『で、今制約と聞こえたが?』
説明しろ、とフィムでなくプールウに問う目が鋭さを増した。それに殺気立ち唸るのは三頭のプールウで、肝心のプールウは微塵も気にした様子がない。
『あーそいつ、カタラクかもってんで、今日洗礼受けんだよ』
『ほう? だが、トライアの者ではないのか? あそこは双子しか産まれぬと聞くが』
鳥の問いかけに、めんどくせぇ、とプールウはフィムに帰っていいか、と問う。それにお前は、と鳥は呆れた様子であるがそれ以上は慣れているのか怒るでもなく、もう少し聞きたい事があるのだが、とダンディ、そしてフィムを見る。
「わた、僕でわかる事ならいいんだけど……。正直カタ……何とかとか、洗礼? てのも良くわかってなくて、えっと、池の妖精さんが一杯セイヤクした方がいいからって言ってて、うんと……」
フィムの言葉に目を瞬き、わかった、とダンディへと視線を変えた。
『申し訳ないが、私はこの……人の魔力に引かれた。私の一族は皆魔力不足が酷くてね。どうにも濃密な魔力に弱く、理性を欠いていた。危険な目に合わせた事、謝罪する。申し訳ないが、奴のいう制約について伺いたい』
少々高圧的な物言いだが丁寧なそれに、この鳥さんは好い鳥さんかな、とフィムが呑気に考えているだろう事もお見通しなダンディはまぁこいつなら申し分ないか、と一つ頷く。
プールウは既に三頭のプールウを引き連れ戻り、鳥と虎、子供の三人は野原に腰を落とした。
『洗礼の儀はプルテリスの寝床で行う。一晩そこに居るだけだけだが、内から出る事は叶わん』
『と、言う事はこの人の子供を守る者を探しているのだな? その為の制約か』
一人首を傾げるフィムを置き去りに、一匹と一羽は話を続ける。
『制約ではなく、誓約ではいかんのかね? これ程の魔力とはそう出会えん。ここで逃すには惜しい』
おや、とダンディが想像より良い方向に進みつつある流れに眉を僅かに動かした。
『先のプールウとはその、腐れ縁でね。彼が認めたのなら、人格に問題はあるまい』
友達なの? とフィムが問うと、腐れ縁だ、と少し不機嫌になったが、プールウが居た時よりその目は険しさを欠いている。
あれでも一応は名を馳せる一角、と言う事か、とダンディは普段のやる気のなさとのギャップに呆れた。
『誓約ならば願ってもない。フィム、この者と誓約を』
ダンディに促され、いいの? と鳥を見上げる。
『私は絶えず魔力に飢えている。飢えに任せ人を襲うのは本意ではない。君から魔力を貰えると言うのならば、私としては助かるのだが、どうだろうか?』
性格美形かー! とフィムが内心でだけ叫び、僕は問題ないよ! と左手を差し出す。
『額へ当ててくれ』
スイ、と頭を低くした鳥の額へと手を伸ばす。うんしょ、と背伸びをし、漸く届いた左手が額へとペタリと触れた。
『我、ルスフェリの一角。我が身はマスターの剣に。我が身はマスターの盾と成る事を、ここに誓約する』
ふわ、と左手がほんのりと温かくなったのをフィムは感じた。
『さて、この姿では些か不便だな』
もう手を離して良いぞ、ととの声に手を離したフィムの目の前、鳥がその姿を小さくして行く。フィムよりは大きく、そして、翼は細くなり、足も補足伸びる。
「こんなものか?」
「ごめん、ちょっと意味がわからない」
ふむ、と姿の変わった鳥――元鳥は青年の姿でフィムの前に立つ。ダンディも多少驚いたようだが、成程道理でプールウと面識がある訳だ、と納得している。
「むふ。マスターは門番の一族について知らぬのか。私達門番を務める一族は人と意思疎通を行う必要がある場合があってね。こうして人の姿を取る事が出来る。私は光の門番を務めるルスフェリ。先のプールウも闇の門番の一族故、人になる事が可能だ。他にも門番の一族は居るがまぁ、それはいいだろう」
それで、これからどうするね? と問いかける。それに首を傾げるフィムに溜息一つ。
「そろそろ日が真上に昇るが。洗礼、だったか? それは昼から準備をしたと思ったのだが」
準備に行かずいいのか、と問われ、漸く時間に気付き、慌てて立ち上がる。
「帰る! 帰るよ、ダンディ! と……あ、名前聞いてない」
走りだそうとした子供はくるりと青年の前に立った。
「僕はフィム・ラプティア」
自身から名乗り、手を差し出して来た人の子に、青年はその手をやんわりと取った。
「私はスペルビア・ルスフェリ。ビア、と呼んでくれていい」
「わかった! こっちはダンディで、まだ居るんだけどまた今度紹介するね!」
じゃぁ急いで帰ろう、と走り出したフィムの首根っこをまた咥え、ついて来られるな、とビアへとダンディは確認し走り出す。
「問題ない」
タ、とダンディと同じスピードで走るビアに、見た目は人間でも人間の速さじゃないなぁ、とジェットコースター気分でフィムは揺られていた。
そもそも、フィムがまだ夕香だったころ、池から池を繋ぐ方法などなかったし、魔法は存在していなかった。
多少はそう言った事に興味を持ち調べたり真似事をしたりそんな世界に憧れはしたがそれは子供の頃の話しだった。
特別な存在になりたい。そう思った事はあれどこれだけは誰にも負けないという強みもなく、諦めも速い夕香にそれは絶対に不可能な事だった。
『着いたぞ』
ダンディの声に止めていた息と閉じていた目を開き、ふはぁーと息を吸う。
『お前には精霊の加護がある故、呼吸も出来ると言っておるだろうに』
「だって! なんかこう、確かに出来たけど心の準備が必要なの! 今みたいに急には無理なの!」
全然濡れないのもすんごい不思議だし! とフィムが自分の衣服をくるくる回りながら確認する。
『まぁいい。少し離れていろ。水を払う』
「はーい!」
フィムとは違い、精霊の加護を受けていないダンディはフィムを咥えていた口元以外はしっかりと濡れており、重そうにしていた。
とてとてとフィムが走り離れたのを確認し大きく体を振るう。何度か繰り返せばましになり、よし、とフィムの方を向けばいつもなら居る筈の姿がない。
『フィム?』
呼びかけにも応えず、やれやれとダンディはのそ、と歩きだす。
『その匂いを隠さねば直ぐに見つかると言うておろうに』
スンスン、と鼻を鳴らし匂いの濃さを見ればまだ近い様でそう慌てる距離でもないか、とダンディはゆるりと尾を振った。
空を鳥が飛ぶ。それは当り前の事だ。問題は、その大きさにある。
フィムの家にも鳥はやって来る。それはどれも手に乗る小さなサイズばかりだった。
「わわっ!」
上を向きながら後を追いかけるのは思いの外危ない。
「く、歩きスマフォの時も思ったけど、避けるの難しいのって人よりも建物だよねぇ」
ぶつかりそうになった木を避け、ひょい、と上を向くと先ほどよりその影は大きい。
「やっぱり、おっきぃー!」
鷲かな、とそう詳しくもないので想像だけを膨らませる。木を避け、時折上を向き鳥の位置を確認する。そうして走って行けば大きく開けた野原に出た。
「あれ?」
見覚えがある。と辺りを見渡すと、一角に焼けた跡がまだ残っていた。
「やっぱり、ダンディが焦がしたとこだ」
まだ草生えてない、とフィムが焦げた土に手を当てる。カサカサと乾燥した灰とも土ともつかぬ物がパラパラと落ちた。
焦げ付いた周りは小さな草が生え少しずつ元に戻りつつある様子によかった、と胸を撫で下ろす。
妖精と契約を結んだ時にお願いして加護を与えて貰ったからその内元に戻るとは言われているがやはり気にはなるのだ。
「早く元に戻るといいよね」
さて、と上を向く。鳥は、と流石にもう見えないかと諦め半分に空を確認したフィムは、一目散に森へと走った。
「待った! 待った! 待ったぁー!」
大きい。大き過ぎるだろ、と全力で走るが逃げ切れるとは到底思えない。開き迫る足はフィム程度の子供なら簡単に掴めそうな程に大きい。
目の前に、足を伸ばす様にして迫った鳥は恐らく、フィムを食料として見てる。フィムの中の何かが、恐らくは第六感的な何かが逃げろ、食われるぞ、と言っている。
「ダ! ダンディ!」
掴まれる、と助けを求め叫ぶ。こけ、と足がもつれ転び、頬や腕、足に痛みを感じ涙が滲んだ。
振り返るまでもない。むしろ怖すぎて振り返れない。
「プールウ!」
ぎゅ、と目を瞑りダンディから呼ぶな、と言われている名を叫んだ。
『ガァウ!』
下から吹き上げた風を感じれば、唸る犬の声と、ギシャァ、と何かの叫び、そしてべチャリと液体が落ちる音を聞いた。
『フィム!』
ダンディの声に目を開けば森から一目散に掛けて来るダンディが見えた。
「ダンディ!」
ほ、と安心し手を伸ばす。直ぐに傍まで来たダンディはフィムを咥え、距離を取った。
『まったく。あの犬っころは呼ぶな、と言ったはずだが』
だがまぁ今回は仕方なしか、とダンディが唸る。背に乗れそうな程に大きな鳥がプールウ達――大きな犬に首を噛まれ血を流していた。
前足で羽を押さえられ、足掻くも背に乗り上げる二頭に抑えつけられ空へ逃げる事は出来ない。
『止めよ、プールウ! そこの鳥、抵抗を止め大人しくするならば犬っころをどかそう』
『ダメ……。邪魔スルダメ』
『私達ノシロ傷ツケル。ダメ』
『ソウ。我ラノシロ。取ル、殺ス』
三頭共に鳥を殺すと主張する。鳥は抵抗を止め大人しくしたが、プールウ達に退く様子はない。
「プールウ。ダンディの言う事聞いて」
フィムがダンディに加えられたまま言えば、駄目、と首を掴んだままのプールウが返した。
『シロ、僕ラノ』
「プールウ! その鳥さんから離れて!」
キツク声を張り上げると、上に乗った一頭が僅かに動いたが他二頭が動かないのを見て動きを止めた。
「もう! 出て来て、プールウ! 三人に離れてって言って!」
『そんな声荒げるなよぉ。聞こえてるっての』
ひょい、とフィムの影からもう一頭、他よりも大きな犬――狼がのっそりと出た。
『コノ鳥、シロ取ル』
『悪イノコレ』
『シロ守ル』
三頭が主張するが、ガウ、と一鳴きし黙らせる。
『お前たちは俺の命が聞けんのか?』
プールウの唸り声に漸く三頭は鳥から離れたが、周りを囲み、威嚇するように唸り声を上げている。
『プールウの長たるお前の命でこれではまだまだ自覚が足らんのではないか』
ダンディの声に、プールウは仕方ないだろう、と緩く頭を振った。
「ダンディ、降ろして」
咥えられたまま続きそうな会話を遮り抗議すれば、直ぐに降ろされた。
「鳥さん生きてる?」
こて、と首を傾げたフィムの言葉が聞こえたらしく、そろ、と体制を起こした鳥が首を動かすと新しい血が流れた。
「あわわわわ! ど、どうしよう! 止血は? 止血どうやるの!」
慌てて駆け寄ったフィムを鋭い目がじ、と見るがそれを気にした素振りなく鳥は沈黙していた。
『好い機会だ。こいつとも制約をしてしまえ』
座り込み、昼寝でもする様に欠伸をしながらプールウがフィムに声をかけた。その様子にあれ? とフィムは首を傾げる。
「珍しいね。プールウがセイヤクって言うの」
で、止血は! 止血はどうするの! とあわあわと小さな手が忙しなく動く。
『そいつがそれくらいでどうにかなるたまかってんだ』
『は! 人間に下されたと聞いたがどうやら本当のようだな。闇の番犬の名が泣くのではないか、プールウの長よ』
新しく聞こえた少し低めの落ち着いた声に上を向けば、鳥が険しい目でプールウを睨みつけていた。
「知り合い?」
フィムが問うも、プールウは答える気はないらしい。
『腐れ縁だ。傷の事は気にしなくて構わない。放っておいても時期に治る』
そうなの? と探る様な目に本当だ、と鳥が答えた。
『で、今制約と聞こえたが?』
説明しろ、とフィムでなくプールウに問う目が鋭さを増した。それに殺気立ち唸るのは三頭のプールウで、肝心のプールウは微塵も気にした様子がない。
『あーそいつ、カタラクかもってんで、今日洗礼受けんだよ』
『ほう? だが、トライアの者ではないのか? あそこは双子しか産まれぬと聞くが』
鳥の問いかけに、めんどくせぇ、とプールウはフィムに帰っていいか、と問う。それにお前は、と鳥は呆れた様子であるがそれ以上は慣れているのか怒るでもなく、もう少し聞きたい事があるのだが、とダンディ、そしてフィムを見る。
「わた、僕でわかる事ならいいんだけど……。正直カタ……何とかとか、洗礼? てのも良くわかってなくて、えっと、池の妖精さんが一杯セイヤクした方がいいからって言ってて、うんと……」
フィムの言葉に目を瞬き、わかった、とダンディへと視線を変えた。
『申し訳ないが、私はこの……人の魔力に引かれた。私の一族は皆魔力不足が酷くてね。どうにも濃密な魔力に弱く、理性を欠いていた。危険な目に合わせた事、謝罪する。申し訳ないが、奴のいう制約について伺いたい』
少々高圧的な物言いだが丁寧なそれに、この鳥さんは好い鳥さんかな、とフィムが呑気に考えているだろう事もお見通しなダンディはまぁこいつなら申し分ないか、と一つ頷く。
プールウは既に三頭のプールウを引き連れ戻り、鳥と虎、子供の三人は野原に腰を落とした。
『洗礼の儀はプルテリスの寝床で行う。一晩そこに居るだけだけだが、内から出る事は叶わん』
『と、言う事はこの人の子供を守る者を探しているのだな? その為の制約か』
一人首を傾げるフィムを置き去りに、一匹と一羽は話を続ける。
『制約ではなく、誓約ではいかんのかね? これ程の魔力とはそう出会えん。ここで逃すには惜しい』
おや、とダンディが想像より良い方向に進みつつある流れに眉を僅かに動かした。
『先のプールウとはその、腐れ縁でね。彼が認めたのなら、人格に問題はあるまい』
友達なの? とフィムが問うと、腐れ縁だ、と少し不機嫌になったが、プールウが居た時よりその目は険しさを欠いている。
あれでも一応は名を馳せる一角、と言う事か、とダンディは普段のやる気のなさとのギャップに呆れた。
『誓約ならば願ってもない。フィム、この者と誓約を』
ダンディに促され、いいの? と鳥を見上げる。
『私は絶えず魔力に飢えている。飢えに任せ人を襲うのは本意ではない。君から魔力を貰えると言うのならば、私としては助かるのだが、どうだろうか?』
性格美形かー! とフィムが内心でだけ叫び、僕は問題ないよ! と左手を差し出す。
『額へ当ててくれ』
スイ、と頭を低くした鳥の額へと手を伸ばす。うんしょ、と背伸びをし、漸く届いた左手が額へとペタリと触れた。
『我、ルスフェリの一角。我が身はマスターの剣に。我が身はマスターの盾と成る事を、ここに誓約する』
ふわ、と左手がほんのりと温かくなったのをフィムは感じた。
『さて、この姿では些か不便だな』
もう手を離して良いぞ、ととの声に手を離したフィムの目の前、鳥がその姿を小さくして行く。フィムよりは大きく、そして、翼は細くなり、足も補足伸びる。
「こんなものか?」
「ごめん、ちょっと意味がわからない」
ふむ、と姿の変わった鳥――元鳥は青年の姿でフィムの前に立つ。ダンディも多少驚いたようだが、成程道理でプールウと面識がある訳だ、と納得している。
「むふ。マスターは門番の一族について知らぬのか。私達門番を務める一族は人と意思疎通を行う必要がある場合があってね。こうして人の姿を取る事が出来る。私は光の門番を務めるルスフェリ。先のプールウも闇の門番の一族故、人になる事が可能だ。他にも門番の一族は居るがまぁ、それはいいだろう」
それで、これからどうするね? と問いかける。それに首を傾げるフィムに溜息一つ。
「そろそろ日が真上に昇るが。洗礼、だったか? それは昼から準備をしたと思ったのだが」
準備に行かずいいのか、と問われ、漸く時間に気付き、慌てて立ち上がる。
「帰る! 帰るよ、ダンディ! と……あ、名前聞いてない」
走りだそうとした子供はくるりと青年の前に立った。
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「わかった! こっちはダンディで、まだ居るんだけどまた今度紹介するね!」
じゃぁ急いで帰ろう、と走り出したフィムの首根っこをまた咥え、ついて来られるな、とビアへとダンディは確認し走り出す。
「問題ない」
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