男女比5対1の女尊男卑の世界で子供の頃、少女を助けたら「お嫁さんになりたい!」と言って来た。まさか、それが王女様だったなんて……。

楽園

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3話 王女の十年と再会の準備

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(リリアーナ視点)
 
 王立学園の、王族専用サロン。
 その窓辺で、私、リリアーナ・フォン・アークライトは、もうかれこれ一時間も外を眺めていた。
 今日、新入生たちが王都に到着し、学園の寮に入ってくる日だ。
 
「まあ、殿下。本日は一段とそわそわしていらっしゃいますね」
 侍女が紅茶を運びながら、微笑ましそうに言った。
「……ええ、まあね。少し嬉しいことがあるのよ」
 私はそう答えながら、胸元のロケットペンダントをそっと握りしめた。
 
 中には何も入っていない。
 あの日、彼と交わした「秘密」の誓い。
 このペンダントはその戒《いまし》めの証《あかし》として自分で用意した。
(アルト……)
 
 十年前。
 私は、領地視察の折、供の目を盗んで森に入り、そして、崖からの落石に巻き込まれた。
 腕は折れ、足は血まみれ。
 六歳だった私は、死の恐怖に泣き叫ぶことしかできなかった。
 
 そこに、彼が現れた。
(「(ヒール)」)
 不思議な少年だった。
 男には使えないはずの、神聖魔法。
 あの温かい光が、私の命を繋ぎ止めた。
 
(「これは、俺と君だけの秘密だ。……いいね?」)
 あの時の、六歳とは思えない、真剣な眼差し。
 私は、命を救われたことよりも、彼と二人だけの「秘密」を持てたことに、胸が高鳴った。
 だから、私は誓ったのだ。
 
(「……ありがとう。私、将来あなたのお嫁さんになりたい」)
 あの日から、私の「運命」は決まった。
 王女として、国のために誰かを選ぶのではない。
 あのアルト・フォン・キルシュヴァッサーという少年に、恩を返し、彼を生涯守り抜くのだと。
 
 キルシュヴァッサー家は、十年前のあの日を境に、坂を転げ落ちるように没落して行った。
 彼の母親が、他の男と駆け落ちし、彼のお父様が、絶望に打ちひしがれていること。キルシュヴァッサー家から領民が離れて行き、今は殆ど領民が残っていないこと。その全てを、私は王家の力を使って調べ上げた。
 
 今度は私が、彼を助ける番だ。
 父に泣きつき、頭を下げ、三年前にようやく「キルシュヴァッサー家」に領地を与えることに成功した。
 父は「娘が、物好きにも没落貴族の支援に目覚めた」と、少し困った顔をしていたけれど。
 
 そして今年。
 十六歳になった彼を、この王立学園に推薦入学させる手はずを、すべて整えた。
(やっと、会える)
「……リリアーナ殿下。何をそんなに楽しみに?」
 不意に、背後から滑るような声がした。
 
 振り返ると、私の「婚約者候補」の一人である、公爵家の嫡男レオナルド・フォン・ファルケンベルクが、作り物めいた笑顔で立っていた。
「……なんでもありませんわ。それより、あなたこそ、勉強を疎かにしてはいけませんことよ?」
「殿下がこちらにいらっしゃるのに、勉強になんか身が入りませんよ」
 
 ……こういう男たちが、この学園には溢れている。
 希少な「女」である私に選ばれるため、甘い言葉を並べ立てる、孔雀《くじゃく》たち。
 この学園は、「競り会場」だ。
 女たちが、優秀な男たちを「品定め」する場所。
 アルトが、もし、他の女に取られるようなことがあれば。
 
 ……それだけは、絶対に許さない。
 そのために、私は彼をこの学園《とりかご》に呼んだのだ。
 他の女たちの目に触れる前に、私が彼を「確保」するために。
 
「少し、失礼するわね」
 私はレオナルドを無視し、侍女に耳打ちする。
「アルト・フォン・キルシュヴァッサー様が到着されたら、すぐに私に知らせるように。誰よりも早く」
 
(アルト……)
 彼は、私のこと、覚えていてくれるかしら。
 十年も経ったのだ。
 あの時の「お嫁さんになりたい」という言葉を、彼はどう思っているだろう。
 
 私は、十年越しに叶う再会を夢見て、そわそわと窓の外を眺め続けていた。
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