男女比5対1の女尊男卑の世界で子供の頃、少女を助けたら「お嫁さんになりたい!」と言って来た。まさか、それが王女様だったなんて……。

楽園

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21話 国王からの呼び出し

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(リリアーナ視点)
 
 その数時間前。学園の離宮にて。
 放課後の鐘が鳴り響く中、私は鏡の前で入念に髪を整えていた。
 胸には、昨日アルトと議論した『古代魔法文明史』の禁書を抱えている。
 
 今日は、この難解な章について彼に意見を聞いてみましょう。きっと、また私の想像を遥かに超える答えを返してくれるはず……。
 心はすでに、あの薄暗くも心地よい地下書庫へと飛んでいた。
 
 足取り軽く、部屋を出ようとしたその時だ。
 普段は礼儀正しい侍女長が、ノックもそこそこに扉を勢いよく開け放った。
「……侍女長? どうしまし……」
 咎めようとした言葉は、彼女の蒼白な顔色を見て飲み込んだ。
 
 ただ事ではない。
「殿下! 直ちに準備を! 王都へお戻りください!」
「王都へ? なぜ急に……。私はこれから……」
「陛下からの、緊急召集でございます!」
 侍女長は、私の言葉を遮るように叫んだ。
「『古代転移門』の使用許可が下りました。……一刻の猶予もなりません。今すぐに、との王命です」
 
「……っ!」
 私は息を呑んだ。
 古代魔法による『空間転移』。
 莫大な魔力を消費するため滅多に使われない、王家の緊急移動手段だ。それを使ってまで呼び戻すということは、よほどの事態が起きているに違いない。
 
「……分かりました」
 私は、抱えていた禁書を、泣く泣く机の上に置いた。
 アルト。ごめんなさい。今日は行けそうにないわ。
 私は侍女長に手短に指示を出し、転移の間へと走った。

 
          ◇

 
 そして現在。王都、王宮の最奥「謁見の間」。
 私は空間転移による軽い目眩を覚えながら、父――国王陛下の前に跪いていた。
 しかし、私の張り詰めた予想は裏切られた。
 玉座に座る父の口から出た言葉は、国の危機でも、災害の報告でもなかったのだ。
 
「リリアーナ。……ファルケンベルク公爵家より、正式な婚姻の申し入れがあった」
 私は、勢いよく顔を上げた。
「……陛下。それは、以前からのお話では?」
「向こうが痺れを切らしているのだ。卒業を待たず、すぐにでも婚約の儀を執り行いたいと」
 父の声は厳格だが、どこか疲れが滲んでいるようにも見えた。
 
「お前には、一刻も早く『安定』した生活が必要だ。レオナルドは優秀だ。魔力量も申し分ない。彼なら、お前を支え、王家の政治を滞りなく代行できるだろう」
 政治の代行。
 この国では、それが当たり前だ。
 女は強大な魔力を持ち、国の守護や結界の維持という「象徴」となる。そして、魔力を持たない、あるいは微弱な魔力を持つ男が、実務的な政治を行う。
 母もそうだった。そして、今も父が政治を執り行っている。
 
「……ですが、私はまだ学園で学ぶべきことが……」
「学ぶことよりも、選ぶことが重要だ」
 父は静かに、しかし重く諭すように言った。
「リリアーナ。お前の体は、お前だけのものではない。……お前は、歴代の王女の中でも、特に強大な魔力を持って生まれた。その強すぎる力は、時に持ち主の命を削る負担となる」
 
 母のことを思い出す。
 私が幼い頃に亡くなった母は、学園を卒業して数年後亡くなったと聞く。この国の女王は、皆、短命だ。
 父は、私の死を恐れているのだ。
 
 王国存亡のため、早く信頼できるパートナーを見つけ、魔力の制御を安定させなければならない、と。
「レオナルドだ。彼以外に、公爵級の家柄でお前と釣り合う男はいない」
 父の言葉に、私はドレスの裾を強く握りしめた。
 レオナルド。あの、中身のない、虚栄心だけの男。
 彼と結婚し、彼の子を産み、そして母のように若くして死ぬのか!?
 
 それが、私の運命《さだめ》なのだろうか?
 ……嫌だ。
 脳裏に、あの薄暗い地下書庫の光景が鮮やかに浮かぶ。
 アルト。
 私の知らない知識を語り、王女としてではなく一人の人間として私の目を見て、対等に議論してくれた彼。
 彼となら、運命さえも変えられるかもしれないと、そう思ったのに。
 
「……お待ちください、陛下」
 私は顔を上げ、父の目を真っ直ぐに見据えた。
「レオナルド様が優秀なのは認めます。ですが……彼は、王配として私の隣に立つには、器量が足りません」
 父が怪訝そうに眉をひそめる。
 
「器量だと? 公爵家の嫡男だぞ」
「家柄ではなく、知恵と心の話です。……陛下。私に、もう少しだけ猶予をください」
 父は、しばらく無言で私を見下ろしていたが、やがて大きなため息をついた。
「……お前に、誰か心当たりがあるのか?」
 心臓が早鐘を打つ。
 
 アルトの顔が浮かぶ。
 だが、今ここで彼の名を出すわけにはいかない。「没落貴族」などと言えば、即座に却下されるだろう。彼にはまだ、父を納得させるだけの実績がない。
「……今はまだ、申し上げられません。ですが、必ず陛下にも認めていただける人物を見つけ出してみせます」
 私は、一世一代の虚勢を張った。
 
 父は玉座の肘掛けを指で叩き、何も言わなかった。重苦しい沈黙が広間を支配する。
 そして。
「……よかろう」
 重い口が開かれた。
「だが、卒業まで待つなどという悠長なことは許さん。時は一刻を争うのだも限界に近いのだ。……待てる期間は、最大で一年だ」
「一年……?」
 
「そうだ。来年の今頃行われる、学園の『進級記念舞踏会』。そこまでだ」
 父の目が、鋭く光った。
「その日までに、お前がレオナルド以上の器量を持つ男をパートナーとして連れてくるならば、婚約の話は白紙に戻そう。……だが、もし見つからなければ」

 父はそう言うと私の目をじっと見た。王家の存続を本気で心配しているのだろう。そして次の言葉を繋ぐ。
 
「その時は、大人しくレオナルドの手を取れ。王家の娘としての義務を果たしてもらう」
「……はい。承知いたしました」
 私は深く頭を下げた。
 
 首の皮一枚繋がった。
 だが、条件は厳しい。たった一年で、アルトを「王配にふさわしい男」として認めさせなければならない。今の彼の実績は、ただの「没落貴族の推薦入学者」でしかないのだから。
 
 急がなければ……!
 私は、安堵と焦燥が入り混じった思いで、王宮の広間を後にした。
(今頃、アルトは地下書庫で待っくれているのだろうか)
 窓の外、遠く離れた学園の方角を見つめる。
 
 きっと彼は待っていてくれる。あの誠実な彼なら。
(ごめんなさい、アルト。……でも、私は諦めない)
 胸の中で、彼の名前を呼ぶ。
 これは、私とあなたの未来のための、戦いなのだから。
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