光の有者〜有りし力でゆったりまったり〜

ニコル

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喫茶有者へようこそ!

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眠らない街、色めく街、マジヤバイ街…
呼び名は数多あれど、来るもの拒まず去るもの追わずがモットーのこの街は、色んな不確定要素が蔓延る中、大繁栄を築いている。

フレバ王立領ディス国城下町。
今から凡そ100年ほど前に世界中で【有者】の力を持った者が出現しだした頃。いち早くその力の概要を研究し、応用、発展を遂げた国。

未曾有の発展を今尚続けながらも、その懐の深い旅人や移民の受け入れ体制に、地方からだけでなく、王都や神都など主要な都市から一攫千金を狙って移り住む者も大勢いる。

多種多様な人種、職種が集まるこの街。
従って常に賑やかで華やか、灯りが消えることはない。

そんな街の一角。商業区と住居区の中間程の割とひっそりした場所。
普段は人通りも多くなく、見かけるのは家路につく人か、荷物を運搬する人くらいだ。だが今は、驚くほど長蛇の列が朝から晩まで耐えずに見られる。

喫茶【ルーチェ・トゥローノ】
その割と広めな喫茶店の前に、はるか遠くまでの行列が出来上がっている。
店内からは賑やかな笑い声や、音楽、時々怒声等が入り混じり非常に騒がしい。

唐突だが、今私は行列の中間辺りにいる。並んで彼此一刻は過ぎただろうか、まだ先は長い。
大半が飲食目的なだけはあり、回転は速いが、そもそも数が多い為入店までしばらくかかる。

私ももちろんこの店の一番人気、【ゆるふわもっさりぎぎゅっとしたパンケーキ~天使の微笑み付き~】を楽しむつもりだ。これを食べないなんて人生の8割は損している。

店内から多数客が出て行く、列も進み次で入れそうだ。入る前にしっかり、カバンの中身を確認する。
よし、ちゃんと書類と品物は入っている。

さぁ、パンケーキ食べて、お店堪能したら、仕事するぞー!

〰〰〰〰〰〰〰

「パンケーキ2個上がったよ~」

厨房から可愛らしい声が上がる。まだ幼さは残るが、耳に心地よく響く。
普段の生活では聴き惚れながらスルーしてしまったりもするが、今は仕事中だ。
すぐ様パンケーキを回収に向かう。

皿に盛り付けられたパンケーキは、身内補正をつけても絶品だ。パンケーキの横に添えられた小瓶には、専売契約を結んだ養蜂場から仕入れたハチミツがたっぷりだ。これもここの売りの一つ。

「フーちゃん、お願いね」

「フレイ、な。了解」

フレイは俺だ。パンケーキを焼いていたランだけが俺のことをそう呼ぶ。
昔馴染みで、お互い家族ぐるみの付き合いをしていた。気恥ずかしいから止めてくれと頼んだこともあるが、2秒と保たない。

ランは見た目もふわっと、性格もふわっと非常にふわふわして、それでいて可愛らしいと身内補正無しで思う。ブロンドまでは行かないが、クリーム色の長い髪に、ふわふわを助長する垂れ目。整った目鼻立ちにファンは癒されまくりだ。

対照的なのは厨房でのスピードだ。
厨房の中では普段の3倍以上は動ける、ウチのスタッフ一素早く的確である。
この時ばかりは普段のおっちょこちょいも顔を潜める。

「お待たせいたしました、ゆるふわもっさりぎぎゅっとパンケーキ、でございます」

羞恥心はとうに捨てた。
このパンケーキが只のパンケーキだった頃、全く売れなかった。
ネーミングセンスはともかく、インパクトというのは必要なようで、注目を集めるためにも淡々と告げる。

私は男だ。色白ではあるが、中性的なわけでもなく、背も高い。そんなノッポが営業スマイルを浮かべて可愛らしいパンケーキを運ぶのが面白いのか、女性客はやたらと姦しい。

現に今パンケーキを届けたお客様も、お一人ではあるが、なんだがソワソワとしている。

「お客様、パンケーキに添えられたハチミツはサービスです。お好みに合わせてお使いください……ではごゆっくり」

さらなる注文や、質問が無いよう間を置いて退散する。なんだかありそうな視線を感じるが忙しいのだ。一応念頭にだけ入れておく。

「うーい、色無鷄のクリームパスタあがったぞー」

厨房からランとは別に気怠げな声が上がる。さぁ、次の提供だ。

〰〰〰〰〰〰〰〰〰

私の目の前を、出来立てのパスタを取りにフレイ君が横切る。ランちゃんとは少し色合いの違うブロンドの髪がサラサラと揺れる。

フレイ君とはこの街に来てすぐに知り合った。お腹を空かせた私を、奢ってくれると見せかけてさらおうとしていた人達からしれっと助けてくれたのだ。

出稼ぎに出て来た私は、長旅を終えて、お腹が空いて、身銭もなくて、甘い言葉にコロッと騙されてしまったのだ。

その時の縁でここで私は働いている。
あの時はにっちもさっちもわからない私だったけど、最近ではこの街も庭のようなものだ。

フレイ君が相変わらずの無愛想なお顔を崩さないまま、ナル君からパスタを受け取る。二人は視線も合わせてないのに息ぴったり、阿吽の呼吸というやつだ。

ナル君は元々フレイ君と一緒にいた、この街では珍しい真っ黒な髪に真っ黒な瞳。あんまりお仕事は好きじゃないみたいでダラダラしているけど、料理はとても美味しい。

「すいません、ちょっといいですかー?」

二人を眺めつつ、テーブルを片付けていると後ろから声がかかる。あそこは確か、さっきフレイ君がパンケーキを提供したテーブルかな。私達よりやや年上位の、スラットしたお姉さんがフレイ君を見ながら手を挙げている。

但し、フレイ君は今お仕事中だ。何やらパスタを運んだ先で会話をしている。
こちらを見る、どうやらお姉さんの視線に気づいたらしい。

「カイチェル、お願いできるか?」

カイチェルは私。そして、頼まれたら断れない私はややがっかりそうな表情をしているお姉さんの元へ向かう。この人もフレイ君ファンだったか……。

「こんにちは、どうなさいました?」

パンケーキはまだ半分以上残っている。飲み物も一緒に頼んでいたみたいだし、半分以上はフレイ君が目当てで、何かの雑用だろう。

ちょっと躊躇いつつも、お姉さんは私に答えてくれた。

「あの、ここカフェだけでなく、色んなお仕事も引き受けてくれると聞きました!今、大丈夫でしょうか?」

おっと、予想外。本命のお仕事でした………
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