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喫茶有者へようこそ!②
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ここは喫茶の奥、スタッフルームの隣にある応接用の部屋。応接用と言っても、豪奢な家具で埋め尽くされているわけでもなく、最低限のソファや書類保管用の棚と、大きな机があるだけだった。
本命はブロンドのお兄さんだったのだけど、忙しかったようで栗色のふんわりした髪質のショートカットの女の子に割り振られてしまった。まぁ、致し方ないので、お仕事の話を申し出た結果、ここに通されたのだ。
「あっ、美味しい……。」
しばらくかかる、とその子に言われ紅茶と茶菓子を用意されて待ち惚けだ。
さっきのパンケーキとは違い、焼き菓子の様な物だったが、とても美味しい。これもお店で作ったのだろうか。
「でしょう。僕自慢の一品ですよ?」
唐突に掛けられた声にうひっ。と自分でも気持ち悪い声を出してしまった。
慌てながら振り向くと、私の背面にあるドアから長身の白い調理用の制服を着た私と同い年位の男が、いつの間にやら立っていた。
透き通る様な緋色の髪は、この街土着の人間であるのを物語っている。
細目なのだが、醸し出す狡猾さからキツネ目という表現がしっくりくる。なんだか表情が読めない。
「あらあら、失礼失礼。びっくりさせてしまいましたか。私はこのカフェの店長のエヴァライと申します。今日はご依頼、ですよね?」
「あ、すいません申し遅れました!私、ハルと申します。今日はお仕事の依頼についてお話ししに来ました」
「後、フレイ君も、ですよね?」
糸目は変わらないが心なしニヤニヤしている気がして思わずむっとする。返事はしない。
エヴァライさんはそんな私の表情も気にせず未だニヤニヤ。
「それでハルさん、依頼とは?」
「あぁ、そうでした!」
はっと意識を取り戻し、用意しておいた書類を取り出す。今回のお仕事について自分なりにまとめて見たのだ。
「これ、資料です……もしかしたら見にくいかもしれませんが」
「ありがとうございます、いやー綺麗な字で!拝見しますね」
読み進めるエヴァライさん、一しきり読み終えると口元に手を当て、一考する。
先程までの飄々とした様子はなく、落ち着いたものである。
「これは……あー、なんというか」
「うまい話過ぎて裏がある」
「ですねぇ、いや、失礼。本当に何も無かったらごめんなさいね? ただ、我々も一旦お店を休業しますので、あんまり煮え湯ばかりではいけないんですよ」
当たり前だ、私もそう思った。
絶対、裏がある。実はあれもこれも、と後から不利な要素が増えるに違いないのだ。
内容は護送。養鶏を開業する為に、実際に雛鳥、また成鳥も確保しに現地へ赴く。もちろん養鶏は出来ても戦闘や旅には不慣れなので護衛を…というのが依頼内容。
しかも依頼が成功した場合、半永久的にタダで鳥をこの店へ出荷する。もちろんこの仕事に関する移動費、活動費は依頼者が負担。
なんて、絶対怪しいのだ。
依頼書にも記載してあるが、依頼人は私ではなく父だ。私はその遣い兼パンケーキが食べたかっただけである。
そんな娘の私から見ても、実に怪しい。
資料作りを頼まれて全容は把握しているつもりなのだが、話がうますぎる。
すごく、すごく依頼するのが心苦しかったのだが、私のお家を支える問題でもあるのでそこは見なかったことにしていた。
「期限は明後日まで、ね。まぁ了解です、大丈夫ですよ。お受けいたします」
「えっ」
「えっ、って。まぁね、半分期待しないで来たのでしょうが、我々はとにかくよほど犯罪の香りでもしない限りはやらせて頂くスタンスですから」
エヴァライさんは半ば呆気に取られている私を置いてけぼりで、資料と同封しておいた契約書にサラサラとサインをしていく。わかってますよという顔だ。
「あ、ありがとうございます……では、明後日の朝、7の鐘がなる頃に街の正門でお待ちください!」
契約書を受け取り、待ち合わせの時間を告げる。この街では大体の時間を街中に響くよう設計と、ほんの少し魔法を加えられた大鐘が時間を告げる。7の鐘はそこそこ朝早い時間帯だ。
「はい、畏まりました。それではハルさん、えー…依頼人は貴方のお父様のトウキ様ですね。その時刻にお待ちしていますので、よろしくお願いします」
サッと資料を片付けるとドアの方へとエスコートされる。きっとお店の方も忙しいのだろう、確かに長蛇の列はまだ続いていたのをここに入る前にも見た。
長居する理由もないし、エスコートを受け見送られる。店内を通り過ぎる途中、店員さん達の視線が集まり顔が火照るのがわかる。あの人も、見ている……
私は逃げるようにソソクサと出ていった……一番緊張した。
本命はブロンドのお兄さんだったのだけど、忙しかったようで栗色のふんわりした髪質のショートカットの女の子に割り振られてしまった。まぁ、致し方ないので、お仕事の話を申し出た結果、ここに通されたのだ。
「あっ、美味しい……。」
しばらくかかる、とその子に言われ紅茶と茶菓子を用意されて待ち惚けだ。
さっきのパンケーキとは違い、焼き菓子の様な物だったが、とても美味しい。これもお店で作ったのだろうか。
「でしょう。僕自慢の一品ですよ?」
唐突に掛けられた声にうひっ。と自分でも気持ち悪い声を出してしまった。
慌てながら振り向くと、私の背面にあるドアから長身の白い調理用の制服を着た私と同い年位の男が、いつの間にやら立っていた。
透き通る様な緋色の髪は、この街土着の人間であるのを物語っている。
細目なのだが、醸し出す狡猾さからキツネ目という表現がしっくりくる。なんだか表情が読めない。
「あらあら、失礼失礼。びっくりさせてしまいましたか。私はこのカフェの店長のエヴァライと申します。今日はご依頼、ですよね?」
「あ、すいません申し遅れました!私、ハルと申します。今日はお仕事の依頼についてお話ししに来ました」
「後、フレイ君も、ですよね?」
糸目は変わらないが心なしニヤニヤしている気がして思わずむっとする。返事はしない。
エヴァライさんはそんな私の表情も気にせず未だニヤニヤ。
「それでハルさん、依頼とは?」
「あぁ、そうでした!」
はっと意識を取り戻し、用意しておいた書類を取り出す。今回のお仕事について自分なりにまとめて見たのだ。
「これ、資料です……もしかしたら見にくいかもしれませんが」
「ありがとうございます、いやー綺麗な字で!拝見しますね」
読み進めるエヴァライさん、一しきり読み終えると口元に手を当て、一考する。
先程までの飄々とした様子はなく、落ち着いたものである。
「これは……あー、なんというか」
「うまい話過ぎて裏がある」
「ですねぇ、いや、失礼。本当に何も無かったらごめんなさいね? ただ、我々も一旦お店を休業しますので、あんまり煮え湯ばかりではいけないんですよ」
当たり前だ、私もそう思った。
絶対、裏がある。実はあれもこれも、と後から不利な要素が増えるに違いないのだ。
内容は護送。養鶏を開業する為に、実際に雛鳥、また成鳥も確保しに現地へ赴く。もちろん養鶏は出来ても戦闘や旅には不慣れなので護衛を…というのが依頼内容。
しかも依頼が成功した場合、半永久的にタダで鳥をこの店へ出荷する。もちろんこの仕事に関する移動費、活動費は依頼者が負担。
なんて、絶対怪しいのだ。
依頼書にも記載してあるが、依頼人は私ではなく父だ。私はその遣い兼パンケーキが食べたかっただけである。
そんな娘の私から見ても、実に怪しい。
資料作りを頼まれて全容は把握しているつもりなのだが、話がうますぎる。
すごく、すごく依頼するのが心苦しかったのだが、私のお家を支える問題でもあるのでそこは見なかったことにしていた。
「期限は明後日まで、ね。まぁ了解です、大丈夫ですよ。お受けいたします」
「えっ」
「えっ、って。まぁね、半分期待しないで来たのでしょうが、我々はとにかくよほど犯罪の香りでもしない限りはやらせて頂くスタンスですから」
エヴァライさんは半ば呆気に取られている私を置いてけぼりで、資料と同封しておいた契約書にサラサラとサインをしていく。わかってますよという顔だ。
「あ、ありがとうございます……では、明後日の朝、7の鐘がなる頃に街の正門でお待ちください!」
契約書を受け取り、待ち合わせの時間を告げる。この街では大体の時間を街中に響くよう設計と、ほんの少し魔法を加えられた大鐘が時間を告げる。7の鐘はそこそこ朝早い時間帯だ。
「はい、畏まりました。それではハルさん、えー…依頼人は貴方のお父様のトウキ様ですね。その時刻にお待ちしていますので、よろしくお願いします」
サッと資料を片付けるとドアの方へとエスコートされる。きっとお店の方も忙しいのだろう、確かに長蛇の列はまだ続いていたのをここに入る前にも見た。
長居する理由もないし、エスコートを受け見送られる。店内を通り過ぎる途中、店員さん達の視線が集まり顔が火照るのがわかる。あの人も、見ている……
私は逃げるようにソソクサと出ていった……一番緊張した。
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