「隠れ有能主人公が勇者パーティから追放される話」(作者:オレ)の無能勇者に転生しました

湖町はの

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第2章 スキル覚醒

第9話「勇者は罪を思い出します」

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 しばしの休息から目覚めたオレを待ち構えていたのはグレンくんの綺麗なお顔だった。

「っ、近い! 近いって……!!」

「ああ、すみません。そろそろ起こそうと思って」

 不埒な意図は無かったらしく、グレンはすぐに顔を遠ざけてくれた。
 
 まあ……それは良いんだけど。

「……お前、髪……!」

 慌てて身を起こす。

 グレンの整った顔立ちを隠す長く重い前髪――それが何故か、瞳が見えるように切り揃えられているのだ。

 断髪イベントは【皇帝インペラトル】が覚醒した後のはずなんですけど???

 なんでもう切ってんの? イメチェンイケメンバレ早くない?

「ああ……鬱陶しかったので」

 そんな理由で今更切るんだ。ずっと鬱陶しかったでしょ。てかあれ、コンプレックスじゃなかったっけ。

「……ふーん」

「ダメでした?」

 グレンはよく見えるようになった顔と似合いの、低く澄んだ美しい声で問いかけてくる。

 ――ん?

「……なんでオレに訊くんだ」

「昔、貴方が言ったんですよ。“お前の目は気味が悪いから隠せ“って」

 言われて思い出す。

 グレンのコンプレックスを解消するのはアイリ。作ったのは――ベルンハルトなんだった。


 ――残された魔王に関する記述と同じ、黄金の瞳。

 幼い頃のグレンはそれを引け目に感じつつも特別隠してはいなかった。隠すようになったのは、ベルンハルトの言葉がきっかけだ。

 ――気持ち悪いんだよ!
 ――魔王の目……お前の顔を見てると吐き気がする。

 ベルンハルトがグレンにそう言い放ったのは、いつだろう。
 何故だか上手く思い出せない。けれど、確かにこの口から出た、呪いの言葉だ。


 ……いや、ひどいな!! お前……ってかオレ!!!

 は~これだから陽の者(ベルンハルトが陽なのかは一考の余地あり)はよ~言われた相手がどんだけその言葉を引きずるか考えてから物言えよな!!!!


「……ごめん。謝って済む話じゃないと思うけど……その、オレは……」

 ほんと、ごめんで済んだら警察は要らん。
 お母さんも、「あのねれん。本当に嫌なことされたり言われたときは、謝られても許さなくていいよ。地獄に堕ちろとか思って全然オッケー」って言ってたし。

 ……オレ、お母さんの格言に甘えて色んな奴の言動根に持ちまくってるな。
 同級生に始まり、果ては通りすがりに肩をぶつけてきたオッサンにまで、恨みがよりどりみどり。死ぬ前に清算してくりゃよかった。
 

「大丈夫、わかってますよ。貴方が本当は……この目を怖がっていたから、あんなことを言ったことぐらい」

 ――うん。正直怖いよ。
 でも色っていうかさ……お前の場合なんか、なんだろ……目つきが怖いのかな???

「あー……その」

「まだ怖いなら、隠しましょうか」

「え? いや別にいいよ。その方がカッコい……」


 ――あ。
 やばい。また攻め語録が出る……!!


「ちが……、今のは違うからな!!!?? オレがそう思ってるってわけじゃなくて……その、客観的に見て、お前の顔は別に悪くないっていうか……っ!!!」

 慌てて取り繕ってみるが逆効果な気がする。
 
 だってさぁ……グレンの顔……かっこいいんだもん!
 アイリちゃんがオレの理想の女の子なら、グレンくんはオレの理想の男の子なんだもの……。

 かっこいいから(迫られるのは別として)見てる分には大好きだ。嘘でも顔は貶せない……っ!


「ベル。今、元気ですよね?」

 グレンがベッドに乗り上げてきた。

「まだ体調悪いんで!!!」

 シーツを被ろうとするのを剥ぎ取られる。

「少し寝て随分と顔色もよくなりましたし……ね、昨日の続きしましょうか」

 無視するなら最初から訊かないでくれません?

 あと続きっていうのは――アレ?

 なんかなぁなぁで実行されなかった、“最後まで“ってやつ……だったりするのかな……グレンくん……!
 
「んっ……」

 唇が塞がれる。今度はまた、舌を絡め取られる、深いキス。

「っ、う……グレ……ン……」

「ベル……」

 魅入ってしまう。熱を持って見つめてくる、その黄金に。

「あ、あっ……ふ、ぁ……」

 グレンの指が下肢へとのびてきて、下着に潜り込む。

 口を塞がれたままそこを弄られると、唇の隙間から吐息が漏れた。

「ま、って……や、だめだって……」

 先端から溢れていくぬめりを塗り付けるように、輪っかになった指の中で擦られ、耳を塞ぎたくなるような濡れた音がする。

「でも、どんどん大きくなってきた――昨日も、お風呂でも抜いてたんでしょう? なのにまだ、こんな……」

「や、ぁ……っん、う……あッ」
 
 人に性的な意図を持って触られたことなんて一度もないその場所は敏感に刺激を拾って、どんどん声が甘く蕩けてしまう。
 
「ちが、あれは……っ、ちがう、から……」

 もう自分でも何を否定したいのかもわからない。

 強制的に与えられる快感に耐えるために、覆い被さってくるグレンの胸に顔を埋めて、背に爪を立てる。

「ふ……っ、う……」

「ベル、顔……見せて」

「や、だ……」
 
 絶対変な顔してるから……っ!
 どんなイケメンでもこういうことしてるときは間抜けな顔してるって、なんかで読んだし……!

「ははっ……かわいい……ベル、ベルンハルト……」

「や……名前、呼ぶな……っ」

 嫌だって、気持ち悪いって思えたらまだ救いがあるのに――どういうわけか、この身体はグレンの声に弱いらしい。

 名前を呼ばれるたびに脳がドロドロになって、ぜんぶ、溶けてしまいそうだ。

「嫌。――ちゃんと俺の声聞いて……俺の目、見て……それがだめなら、今貴方に触れているこの手が俺のだって、意識して」

「あっ……!」

 張り詰めて、反り返ったそれの下の窄まり。そこに……グレンの指が、触れている。

「っ、んなところ……触んな……きたない……ッ」

「大丈夫ですよ。ほら――〈洗浄ヴァッシェン〉」

 グレンが唱えたのは洗浄の呪文だ。
 
 異世界って野宿の間とか、水場がないときのお風呂ってどうするんだろって叔父さんに訊いたら、「洗浄魔法が主流かな」って言われたからできたやつ……。

 え、なんでいまそれ使ったの??
 
 オレそんなに身体ベタベタだった?
 その割に、肌のベタつきは消えてないし……けどなんか急に体内、というか主に腸やらその先やらがやけにすっきりとしたような……。

 そのとき――井上さんとの会話が頭によぎった。(最近よくよぎるな……転生したのに走馬灯?)


 ――BLってさ……お尻に色々するじゃん?
 ――うん。私が読み書きしてるのはお尻に色々するのがメインだね。あと乳首。
 ――いやそれは知らないけど。……その、汚くないの?

 オレの素朴な疑問に、井上さんは眼鏡をクイっと上げながら堂々と答えた。

 ――あのね、赤谷くん。BLはファンタジーだよ。受けのお尻は一方通行。挿れる機能以外は備えてないから大丈夫。あ、掻き出すシーンは大事だから正確には一方通行ではないんだけど(以下略)。

 その井上さんの回答にいまいち納得がいかなかったオレは調べた。
 
 ……後悔した。地獄みたいな世界が広がってた。(後日、井上さんに聞いたら、「まあそういうリアル嗜好のもあるんだけど、エグいからあえて言わなかった。でも自分で調べたんだ……どんまい」と笑われた。)


 ――回想終わり。
 
 洗浄……うん、洗浄ね。そういうことの前準備。了解了解。

 ……いやいや!!!! いらんいらん!!! 準備しないでください!!! 本番はないんで!!! スタンバイしないで!!!

「っ、洗っても汚いもんは汚い……! やめろ!」

「貴方の身体に汚いところなんてありませんよ」

 今日なんか攻め語録多いな……!
 グレンも井上さんの書いたBL小説読んだことあんの?

「ひ……っ!」

 グレンはどこから出したのか、粘性の液体の入った小瓶を取り出して手のひらに垂らしている。

 もしかしなくても……そのヌメヌメになった指を、お尻に……?

「怖がらなくても大丈夫。初めてなんですよね? 優しくします」

 優しさの問題じゃないです。

「むり!! むりだから……」

「やってみないとわかりませんよ」
 
 やらなくてもわかるし、わかんなくていいよそんなもん。
 
 乳首以上に開発した覚えがないそこを触られるのには、快楽なんて伴うはずもない――ないよね? 開発もしてないよね、ベルンハルト???

 今から襲ってくるだろう痛みにひるみ、元気になった息子もすっかり萎縮……は、してないけど、オレの心が怯えてるんで。

「近づくな! 変態!! 強姦魔!!!」
 
「まだ何もしてませんよ。これからするんです」

 手足をジタバタさせてみるが、グレンは片手でそれを押さえ込んで微笑む。
 やだ、こんなときも爽やかでかっこいい……。
 
 イケメンの無駄遣いやめて……。全国の恵まれない青少年にちょっとずつそのイケメン配って(?)くれよ!

「今日は二本……いや、一本だけにしとくので」

 なんの本数だよ……指? インフォームド・コンセントはしっかりしてくれ。(グレンくんは医者じゃないしオレも患者じゃないよ、オレ。)

「一本でも二本でもどっちでもいいけど……っ! とにかく無理だからな! あっ、う……」

 オレの抵抗を無視して、指が……尻穴をなぞり、軽く内側へと入ってくる。

「やだ……やだって……!」

「勇者でしょ? 我慢してください」

 なにその“お兄ちゃんなんだからこれぐらい我慢しなさい“みたいな言い方!
 オレもベルンハルトも一人っ子だし、勇者も辞めるって言ったじゃんか。

「っ……むり、やだ……」

 ぬち、ぬちりと音を立てて、指が少しずつ奥へと進んできた。

「ベル……力、抜いて」

「ん……う、あっ……だめ、さわんなって……!」

 後ろへ侵入されながら、まだ萎えてなかった前をまた扱かれる。

 
 男なら誰でも気持ちいい(諸説あり)性器と、排泄器官を同時に弄るのには何の意味が……。(脳内井上さんが「お尻だって性器だよ、赤谷くん」と眼鏡クイッをしてるけど無視だ無視!)

 はっ……!
 もしかして、ちんこ弄る=気持ちいい=お尻弄る=気持ちいい……みたいなアホパブロフお尻・ちんこ条件づけしようとしてる……のか?

 い、嫌すぎる……!!!
 オレがこの先、尻穴も触らないとイけない部分的EDになったらどうするつもりだ!!


 そんな脳内会議の最中も、指の動きは止まらない。
 
 一本だけ、と言われていたはずの指が二本に増やされて。急に増した質量に、さっきまで前への刺激の気持ちよさにうつつを抜かしてた身体が僅かな痛みを覚えた。
 
「や……だめ……あ、グレ……痛い……!」

 細い声で訴える。

 すると――グレンの動きが、突然ピタリと止まった。

「……グレン?」

「あ……ごめんなさい、ベル。その……俺、貴方を傷付けるつもりはなくて……」

 グレンはオレからばっと距離を取ると、ベッドの上で正座して、しゅんと眉を下げた。
 わぁ……垂れた犬耳が見える。幻覚かな?(幻覚だよ。)

「ああ……うん。オレもその、お前に昔、酷いこと言って傷付けたし……お互い様ということで……」

 いや、傷付ける場所が心とお尻じゃ離れすぎてるけどね。

「でも……ごめんなさい。あ、シャワー浴びますか? それとも〈洗浄〉使いましょうか」

「あ~……いいや、シャワー浴びてくる」

 しょげたままのグレンは、さすがに着いてこようとはしなかったので、オレはすんなりと一人でシャワー室に向かうことができた。


 
 ◇



「んっ……ふ、う……」

 手の中に放たれた白濁。
 またデジャブ……。はぁ……この、声出さないようにしながらこっそりシコるの慣れたくねぇ~。

 だってさぁ……グレンが途中でやめたせいで、勃ったままだったんだもん……。いや、やめてくれてよかったんだけどね!

 てかあいつ、昨日は〈洗浄〉の提案なんかしなかったよな? 風呂一緒に入るためか……あの変態ヤンデレ男め……。


 でも、そんなグレンが、今日はオレの「痛い」の一言であんなにもしおらしく……。
 
「助けて井上さん~……攻めの思考のエキスパート」

 記憶を探る。井上さんがこういうときの有益情報を教えてくれてたような……。


 ――赤谷くん。これはセクハラじゃないんだけどさ。
 ――その入りで始まる言葉は九割セクハラだよ。
 ――それエビデンスある?

 場所は例によって文芸部の部室の片隅。
 ……この会話は思い出さなくてもいいな。多分この後に今の状況に関係する情報が……。
 
 ――あのさぁ……SMプレイって興味ある?
 ――やっぱセクハラじゃん。
 ――違うって。小説の中での話だよ。SMプレイにはね、“セーフワード“っていうのが必要なの。


 あ、これだ。思い出した。

「セーフワード……」

 “これを言ったら絶対にプレイを中断しなければいけない“という合図になる言葉。

 ただ、“痛い“はSMプレイ中は無意識に出るからセーフワードには向かないらしいけど。

 ……いやべつにSMプレイしてたわけじゃないし、これから普通のプレイする予定もないんですけどね???
 念のため、というか。二度あることは三度あるって言うし。

 あんだけしょぼしょぼしてたグレンには悪いけど、これから強制終了したくなったら“痛い“って言えばいいわけね。オッケー。


 勇者は セーフワード“痛い“を てにいれた!
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