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3日目の昼

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外から祭りの準備のためにガヤガヤと人の気配がしはじめた。

孝明と洸太が行なっている秘儀とは別に表向きの、豊作を祈るための祭りが村中で行われる。


2人は朝餉を済まし、孝明は今日1回目の秘薬を飲み干した。

それからしばらくした後、孝明は下腹部を抑えて苦しみはじめた。
冷や汗が滲んでいる。

「た、孝明…腹が痛いのか…?」

「うっ…すごく痛い。 なんだこれ…。
 腹下しとかじゃなさそうなんだ…。
 ふっ…。気が遠く…なりそうだ……。」


洸太は注意書きにあったことを思い出す。

「えっと…。 温めるんだっけ…。」


迷った末、とりあえず孝明を布団に寝かせようとした。
孝明の身体に触れたとき、その柔らかさに驚いたが、
何より身体が冷えきっていたことが気掛かりだった。


「洸…太…。」

孝明は顔を伏せて頭頂部から頭を埋めるように、洸太にすがる。
彼の荒い息とじっとりした汗がまとわりつく。

「孝明…。 横になろう。 オレ、湯たんぽになるから。
 して欲しいことがあったら言ってな?」


洸太は孝明を抱えながら共に布団へ入る。
孝明の冷たい手が洸太の手を掴み、痛む下腹部へ当てがった。

「洸太の手はあったかいな…。」


目の前にある、女性らしい顔つきに変化した孝明の顔を見る。
顔色が悪い。


――少しでも安心させてやりたい。

庇護欲のようなものが湧き上がり、空いた方の腕で彼の頭を抱き寄せた。


その状態でしばらくすると孝明の呼吸が落ち着いてきて、気を失うように眠ってしまった。


そして、洸太もつられて寝息を立てはじめた。


 ***


昼餉の時間となり、2人とも起床する。
洸太が目を開けたとき、孝明との距離の近さに心臓が跳ねた。
その跳ね方に洸太自身すこし動揺する。


昼餉には朝餉の時の注意書きどおり、秘薬が添えられていた。


孝明の腹はまだ痛むのか、食はあまり進まない。

洸太としてはもう彼に苦しんでほしくはないので服薬を止めたい気持ちでいっぱいだが、
またも臆さず飲み干してしまった。


秘薬を飲んで30分も経たない頃、孝明はフラフラと船を漕ぎ始め、寝落ちてしまった。

洸太は孝明を布団に寝かしてやる。


寝ていても腹は痛むのか、孝明の眉間には皺が寄り、汗が噴き出している。


「孝明の身体には何が起きてるんだ…。」


洸太には彼の汗を拭いたり、身体を温めてやることしかできない。

先程と同じように彼の腹に手を当て、頭を抱き寄せてやると、いくらか彼の力みが落ち着いた。


「孝明、ほんとバカ真面目だなあ。
 こんなに苦しんでさ…。」


午前中のように洸太もまどろみ始めたところで、
勝手口から呼び出しがかかった。

勝手口に向かうと、
そこには神職―孝明の父が立っていた。

「あ…孝明のお父さん。 こんにちは!」

「洸太くん。 付き合ってもらってすまないね。
 孝明の様子はどうだ?」

洸太はどう答えるべきか逡巡した。
「孝明が女の子になりかけてる」などと、
たとえ孝明の父親が秘薬の効果を知っていたとしても言いづらかった。

「…苦しそうですが…本人は進んで届く薬を飲んでます。」

「そうか、なら良い。」


息子が苦しんでるっていうのに、それで良いのかよ。
と言いそうになるがぐっとこらえた。
孝明のいないところで、彼が従っている人に歯向かう勇気はなかった。


そして、孝明の父の口から秘儀の最後に行う儀式についてが説明された。
洸太の顔がカッと紅潮する。


「そ、そんなことオレにはできません…!」

「大丈夫だ。 なるようになる。」


神社の外ではお神輿を担ぐ掛け声やお囃子の音が響いていた。


 ***
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