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第18話 エリーゼの恋 -6-
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翌日、取り巻きの女の子たちに向かってノアは宣言した。
「おれはリゼと付き合うことになったから」
その時の様子を人づてに聞いたところによると、泣き出す子、呆然とする子と、なかなか阿鼻叫喚な光景だったらしい。
ノアの交際宣言はあっという間に学院中に広まった。
つい昨日まではエリーゼは誰からも注目されない目立たない生徒だったのに、一躍有名人になってしまった。
あのノア・グッドウィンが選んだ女子を一目見ようと興味津々で教室にまで覗きに来る上級生、下級生たちまでいた。そして、「あんな地味な子が?」と訝しげな顔で帰ってゆく。
そりゃ、学院一のモテ男の彼女ならどんな絶世の美女だろうと思うだろう。それなのにこんな冴えない女の子だったなんてと、不思議に思われても仕方ない。でも、こちらから頼んだわけでもないのに、勝手に見に来て勝手に落胆されるのも、なんか腹立たしい。
ノアに積極的にアプローチしていた女子たちからの風当たりも強かった。特に一年後輩のスザンナは校舎内ですれ違うたびに露骨に睨んでくる。入学した時からずっとノアを追いかけていた彼女からしたら、エリーゼなんていきなり横入りしてきたようにしか見えないだろう。
マークにはずっと好きだったのにと残念がられたけれど、いずれこうなる気はしていたと言われた。
ノアの言っていたことは正しかった。わたしってかなり鈍感なんだと、エリーゼは自省した。もう少し、恋愛や人の心の機微について勉強しなくちゃいけないかも。
学院は年末の長期休みに入った。エリーゼも久しぶりに寮から実家に戻った。
「ナタリー姉さま、相談があるのだけど」
「なあに? 改まってどうしたの?」
「あの、おしゃれってどうしたらいいのかな?」
没落貴族ゆえ、デビュタントだけはかろうじて済ませたものの、ドレスや装飾品に使えるお金もなくパーティとは無縁だった。着飾る機会など皆無で、化粧の仕方などぜんぜんわからない。
「どうしちゃったの? まさか好きな男の子でもできた?」
好奇心むき出しの姉に詰問されて、ありのまま白状させられてしまった。
「本にしか興味のなかったエリーゼに彼氏なんて、姉さんは嬉しいわ! そういうことなら、任せなさいね!」
ナタリーのプロデュースによる、エリーゼ改造計画が始まった。
まず、腰までまっすぐに伸ばした髪は、肩にかかるくらいの長さで切り、ふんわり緩やかなウェーブをかけた。
次はメイク。大きな瞳がより際立つように、まつげにゆるくカールをつける。華やかな印象を与えるように頬にはピンクのチークを、口元にも同系色のコーラルピンクの口紅でふっくら見せる。
制服の着こなしもダメ出しされた。
「この制服もダメね、ありえないわ」
ナタリーは大げさに首を振ってみせる。
「でも、制服なんて全員同じものを着ているのに」
「サイズが合っていないから、野暮ったく見えるのよ」
体のラインがきれいに見えるように肩幅を合わせ、ウエストを絞り、スカート丈も直した。平均よりやや大きめの胸と細い腰が強調され、もともと形のいい脚がより長く見えるようになった。
「うん! いいわね」
ナタリーはいい仕事ができたと満足げだ。
「エリーゼは顔もスタイルもいいのに、もったいないなあとずっと思っていたのよ」
鏡に全身を映してみる。たしかに、ほんの少し変えただけなのに、ものすごく変化している。
両親や兄たちからも垢ぬけたと褒められた。もっともこれは身びいきかも入っているだろうけど。
でも、少しでも可愛くなれたなら、ノアの隣に並ぶことに自信が持てるかもしれない。
休みが明け、再び学院に戻った。廊下を歩くと、すれ違う生徒たちがじっと目で追ってくる。
親友のエイプリルが信じられないという表情で駆け寄ってきた。
「エリーゼ? ねえ、本当にエリーゼなの?」
「エイプリル、やっぱりわたし、変かな? すごくジロジロ見られるの」
「何言っているのよー! びっくりするくらい可愛くなったわよ。だからみんな見ているのよ」
「それならいいんだけど」
「彼氏のために頑張ったんだね、うんうん」
「ノアは関係ないから!」
図星だったが、恥ずかしくて必死に否定した。
「ふうん」
エイプリルはにやにやと生暖かい笑みを浮かべている。
「ホントに違うの。ただの気分転換なの」
「別にそれでもいいけど? あら、噂をすればなんとやらね」
「リゼ!」
声のする方を振り返ると、ノアが息を切らしていた。
「ちょっと、なんであなたがここにいるのよ。化学科はこの校舎じゃないでしょ」
「あーあ」
あからさまにがっかりした表情をする。心がずきんと痛んだ。
やっぱり、わたしがお洒落しても恥ずかしいだけかな……。
ノアはエリーゼをぎゅっと抱きしめた。
「ノア! こんなところでやめてったら!」
何かというとノアはすぐに抱き着いてくるので、距離が近いのには慣れはしたが、人前ではさすがに照れくさい。
「悔しくて」
「え?」
「リゼが物凄く可愛いって知っているのはおれだけでよかったのに。みんなにバレちゃったじゃん」
「何言ってるのよ、バカね」
「ほかの男に口説かれてもなびくなよ」
「もう!」
きゅんと胸が熱くなる。
「まあ、おれよりいい男なんてそうそういないけど」
「……はいはい。わかったから教室に戻って。授業が始まるわ」
これ以降、エリーゼはみんなに一目置かれる存在になった。学院一の美男美女カップルとして認められ、ほかの生徒たちから見下されるようなことはなくなった。
「おれはリゼと付き合うことになったから」
その時の様子を人づてに聞いたところによると、泣き出す子、呆然とする子と、なかなか阿鼻叫喚な光景だったらしい。
ノアの交際宣言はあっという間に学院中に広まった。
つい昨日まではエリーゼは誰からも注目されない目立たない生徒だったのに、一躍有名人になってしまった。
あのノア・グッドウィンが選んだ女子を一目見ようと興味津々で教室にまで覗きに来る上級生、下級生たちまでいた。そして、「あんな地味な子が?」と訝しげな顔で帰ってゆく。
そりゃ、学院一のモテ男の彼女ならどんな絶世の美女だろうと思うだろう。それなのにこんな冴えない女の子だったなんてと、不思議に思われても仕方ない。でも、こちらから頼んだわけでもないのに、勝手に見に来て勝手に落胆されるのも、なんか腹立たしい。
ノアに積極的にアプローチしていた女子たちからの風当たりも強かった。特に一年後輩のスザンナは校舎内ですれ違うたびに露骨に睨んでくる。入学した時からずっとノアを追いかけていた彼女からしたら、エリーゼなんていきなり横入りしてきたようにしか見えないだろう。
マークにはずっと好きだったのにと残念がられたけれど、いずれこうなる気はしていたと言われた。
ノアの言っていたことは正しかった。わたしってかなり鈍感なんだと、エリーゼは自省した。もう少し、恋愛や人の心の機微について勉強しなくちゃいけないかも。
学院は年末の長期休みに入った。エリーゼも久しぶりに寮から実家に戻った。
「ナタリー姉さま、相談があるのだけど」
「なあに? 改まってどうしたの?」
「あの、おしゃれってどうしたらいいのかな?」
没落貴族ゆえ、デビュタントだけはかろうじて済ませたものの、ドレスや装飾品に使えるお金もなくパーティとは無縁だった。着飾る機会など皆無で、化粧の仕方などぜんぜんわからない。
「どうしちゃったの? まさか好きな男の子でもできた?」
好奇心むき出しの姉に詰問されて、ありのまま白状させられてしまった。
「本にしか興味のなかったエリーゼに彼氏なんて、姉さんは嬉しいわ! そういうことなら、任せなさいね!」
ナタリーのプロデュースによる、エリーゼ改造計画が始まった。
まず、腰までまっすぐに伸ばした髪は、肩にかかるくらいの長さで切り、ふんわり緩やかなウェーブをかけた。
次はメイク。大きな瞳がより際立つように、まつげにゆるくカールをつける。華やかな印象を与えるように頬にはピンクのチークを、口元にも同系色のコーラルピンクの口紅でふっくら見せる。
制服の着こなしもダメ出しされた。
「この制服もダメね、ありえないわ」
ナタリーは大げさに首を振ってみせる。
「でも、制服なんて全員同じものを着ているのに」
「サイズが合っていないから、野暮ったく見えるのよ」
体のラインがきれいに見えるように肩幅を合わせ、ウエストを絞り、スカート丈も直した。平均よりやや大きめの胸と細い腰が強調され、もともと形のいい脚がより長く見えるようになった。
「うん! いいわね」
ナタリーはいい仕事ができたと満足げだ。
「エリーゼは顔もスタイルもいいのに、もったいないなあとずっと思っていたのよ」
鏡に全身を映してみる。たしかに、ほんの少し変えただけなのに、ものすごく変化している。
両親や兄たちからも垢ぬけたと褒められた。もっともこれは身びいきかも入っているだろうけど。
でも、少しでも可愛くなれたなら、ノアの隣に並ぶことに自信が持てるかもしれない。
休みが明け、再び学院に戻った。廊下を歩くと、すれ違う生徒たちがじっと目で追ってくる。
親友のエイプリルが信じられないという表情で駆け寄ってきた。
「エリーゼ? ねえ、本当にエリーゼなの?」
「エイプリル、やっぱりわたし、変かな? すごくジロジロ見られるの」
「何言っているのよー! びっくりするくらい可愛くなったわよ。だからみんな見ているのよ」
「それならいいんだけど」
「彼氏のために頑張ったんだね、うんうん」
「ノアは関係ないから!」
図星だったが、恥ずかしくて必死に否定した。
「ふうん」
エイプリルはにやにやと生暖かい笑みを浮かべている。
「ホントに違うの。ただの気分転換なの」
「別にそれでもいいけど? あら、噂をすればなんとやらね」
「リゼ!」
声のする方を振り返ると、ノアが息を切らしていた。
「ちょっと、なんであなたがここにいるのよ。化学科はこの校舎じゃないでしょ」
「あーあ」
あからさまにがっかりした表情をする。心がずきんと痛んだ。
やっぱり、わたしがお洒落しても恥ずかしいだけかな……。
ノアはエリーゼをぎゅっと抱きしめた。
「ノア! こんなところでやめてったら!」
何かというとノアはすぐに抱き着いてくるので、距離が近いのには慣れはしたが、人前ではさすがに照れくさい。
「悔しくて」
「え?」
「リゼが物凄く可愛いって知っているのはおれだけでよかったのに。みんなにバレちゃったじゃん」
「何言ってるのよ、バカね」
「ほかの男に口説かれてもなびくなよ」
「もう!」
きゅんと胸が熱くなる。
「まあ、おれよりいい男なんてそうそういないけど」
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