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第7話 旅立ちの時 砂漠の国バルクムーンへ
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会議から1週間後、コーラルたちを乗せた船はマケドニアの港から出帆し、2日目の朝、旧バルクムーン帝国最南端の港町ポールポートに着いた。
かつては国一番の商業港として栄え、異国の船が頻繁に貿易に訪れていたというが、今はそんな面影もなく、かろうじて石の桟橋が残っているだけだ。
「ここがバルクムーン……」
目に入るのはどこまでも続く黄土色の荒れ果てた大地だった。
ところどころにほんのわずかな緑が見えるだけ。
自然豊かなマケドニアとは対照的な風景だ。
乾燥した風が砂塵を運び、髪も服もあらゆるものを砂まみれにする。
船から荷物を下ろし、飛行用のボートに積み込んだ。
とはいっても、載せられる荷物は多くなく、水、食料、薬、ボートの燃料になる飛空炭だけだ。
「私はここまでだ」
ルモンド博士が3人に向き直る。
「コーラル、君にこのような責任を負わせてしまうことを心苦しく思っている。必ず無事に戻ってきてくれ。そしてイーライ、ルッカ、彼女をよろしく頼む」
兄妹は力強くうなずいた。
「それじゃ行ってきます!」
ポールポートから交易路シルバーロードを道なりに北上し、まずは旧帝都ダンマームまで進む。
そこからは西に進路を変え、宝玉のあるアル・コバール連峰を目指す。
上空を飛べば偏西風の力で少しは楽に進めるが、そうするとならず者や砂漠の魔物たちに遠くからでも姿を見られてしまう可能性があるので、飛行用ボートではなるべく低い位置を飛ぶように言われている。
ボートのへりに体を預け、コーラルは遠くまで広がる砂漠を見ていた。
1000年前のシルバーロードは帝国繁栄の象徴であった。
ダンマームまでの道はきれいに舗装され、たくさんの荷物を運ぶキャラバン隊が行き交い、街道沿いには商人のための宿屋や銀行がいくつも並び賑わっていたという。
夕陽が地平線に沈みかけていた。
「なあ、腹へった。そろそろ飯にしようぜ」
「うん、完全に暗くなる前に今夜の寝床を確保しよう」
「よっしゃ」
待ちきれずイーライはボートから砂漠のくぼ地に飛び降りた。
「あ、そこは!」
イーライは着地するとそのままスーッと砂に吸い込まれて、姿が見えなくなった。
「風の衝撃!」
コーラルはとっさに呪文を唱える。
空気の塊が砂地に直撃すると、衝撃で大量の砂が吹き上がり、イーライが飛び出してきた。
それと一緒に茶色の巨大生物も宙を舞った。
八本脚の蟲はすぐに体勢を立て直すと、砂埃を立てながら穴を掘り、あっという間に潜り込んだ。
コーラルとルッカが駆け寄る。
「イーライ、大丈夫?」
「なんだよ、あれは」
「土蜘蛛だよ」
土蜘蛛は普段は砂の中に隠れていて、近くを通った生き物を引き摺り込みエサにする。
「見て、砂漠のところどころに丸い窪みがあるでしょ。あれが土蜘蛛の巣」
「ということは、俺は自らエサになりにいったのかよ」
みっともないと嘆きながら頭をかきむしる。
「兄さんは生物学の授業はほとんど寝ていたもんね」
ルッカは大笑いした。
岩場を見つけた三人は野営の準備に取り掛かった。
焚火を起こし、乾燥豆と干し肉と水でスープを作る。
味付けは塩だけだが肉の旨みが溶け出していてとても美味しい。
デザートにドライフルーツを少々。
眠る前には周囲に簡単な結界を張った。
弱い魔物ならまず侵入できないだろう。
急ごしらえの寝床に横たわり夜空を見上げる。
星がきれいだ。
父さん、母さん、幼馴染のジリアンとザック、お隣のグレースおばさん、クリムゾンヘブンのみんなの顔を思い浮かべた。
(本当に宝玉を見つけることができるのかな)
万が一、クリムゾンヘブンが浮力を保てなくなった時は、マケドニア王家の所有する広大な森を譲り受け、地上にクリムゾン国を建国することで両国の話し合いは進んでいた。
マケドニアは自治を認めると約束してくれている。
赤羽一族は独立を保ったまま、離散することもなく、これまでのように暮らすことができるだろう。
それでも、とコーラルは思う。
私は今のクリムゾンヘブンが好き、ずっとあそこで暮らしたい。
故郷に思いをはせながらコーラルは眠りに落ちた。
砂と岩だけの世界をひたすら進み、10日目の朝を迎えた。
途中、ハイイロキツネに干し肉をかすめ取られたり、激しい砂嵐に見舞われ立往生したりもしたが、おおむね順調だといってもいいだろう。
朝食後、出発前に進路の確認をする。
調査団のレポートによるとこの先は旧ゴルドー、かつて富裕層たちが好んで住んでいた街だ。
砂の下には金持ちたちが所有していた芸術品や金銀財宝がいまだたくさん埋まっているため、お宝目当ての窃盗団やトレジャーハンターが数多くいるらしい。
たちの悪い荒くれ者に遭遇しなくて済むように旧ゴルドーを通ることは避け、すこし遠回りになるが迂回をして進むように指示されている。
兄妹がボートに飛空炭をセットしている間に、コーラルはあたりの様子を上空から目視することにした。
「ちょっと見てくるね」
翼を広げて飛び立つ。
遠くに廃材で作られたバラックやテントがいくつも点在している。
やはり当初の予定通り迂回ルートを選択するのが正解のようだ。
戻ろうとしたその瞬間、投げ縄がコーラルの足首に絡みついた。
ぐいと強く引っ張られる。
「キャア!」
あっという間に地面に引きずり降ろされると、麻袋のなかに放り込まれ、馬に乗せられた。
セイッ!!と、掛け声とともに馬が猛スピードで走り出す。
異変に気が付いた兄妹が走って追いかけてきたが、馬のスピードにはかなうはずもない。
「コーラル、コーラルーーーーーーーーー!!」
イーライとルッカが叫ぶ声がだんだん遠ざかっていった。
数十分後、コーラルは馬から降ろされると、乱暴に床に放り投げられた。
「お頭!拐かしてきやしたぜ!」
「馬鹿野郎!!」
お頭と呼ばれた女が部下を張り倒す。
「何をやっているんだ、この間抜け!!!すぐにロープをほどくんだよ!!!」
ようやく袋から解放され、あたりを見ることができた。
どこかの窃盗団の根城だろうか。
トタンの壁に麻布を張った天井、室内にはいくつもの木箱が並び、彫像や壺といった高級そうな芸術品から、ガラクタのようなものまでさまざまな品が大量に置かれていた。
(ん?あれはもしかして……?)
女はひざまずいてコーラルに謝罪した。
「手荒な扱いをして申し訳ない、部下には丁重にお迎えしろといったがちゃんと伝わっていなかったようだ」
コーラルにソファに座るように促す。
「私はここのボス、ジャッキーだ。あなたに頼みたいことがある」
突然、外が騒がしくなった。
何かが激しく叩きつけられるような大きな音と、男たちの悲鳴と怒号が飛び交う。
「おいっ!!何事だい?」
ジャッキーが外に向かって怒鳴る。
「お頭、大変です、殴り込みです!」
さっきの部下が転がり込んできた。
「コーラル、どこだ!!」
イーライとルッカだ。
コーラルは外に飛び出ると、
「二人ともストップ!!!私は何ともないから!!」
大声で叫んだ。
大男の腕をねじり上げていたルッカはぱっと手を放し、
「よかった!慌てて追いかけてきたんだよ!」
嬉しそうにコーラルに抱き着いた。
改めてアジトの中に通される。
「さっきの話の続きだけど、私にお願いって何?」
「実は私の息子のピーターがオオガラスに連れ去られたんだ」
砂漠に生息するオオガラスは全長2メートルを超える肉食の怪鳥だ。
今は繁殖期なので高い場所に巣を作り、産卵、子育てをしている。
親鳥は雛が巣立つ直前に狩りの仕方を教えるのだが、その練習台として人間の子供を攫ってゆく。
ピーターをさらったオオガラスは、旧ゴルドーで最も高い鐘塔に巣を作っており、普通の人間には近づくことができない。
空中を移動するコーラルたちを偶然見かけて息子の救出をお願いしようと思ったのだ。
雛は孵化して間もないから、今ならまだ息子は生きているはず。
「ハッ、お断りだね」
イーライは吐き捨てるように言った。
まだ怒りが収まらないらしい。
人さらいするような悪人を助ける義理はないという。
ルッカも同意見だ。
「もう行こうよ、私たちはこんなことしていられないの」
二人は立ち上がり、バラックの出口へ向かおうとした。
「やるよ」
「コーラル?」
「だって、子供に罪はないもの。そのかわり子供を助けたら、あれを私にちょうだい」
乱雑に積み上げられたガラクタの山を指さした。
「あそこにある古木の杖が欲しいの」
「杖だって?ああ、あんな売れ残りでよければ、持っていけばいい」
堅いだけが取り柄で、宝石もついていないし美術品としての美しさもないので、買い手もつかなかったらしい。
イーライとルッカは理解できないという風に肩をすくめてみせた。
夜になるのを待ってオオガラスの巣へ乗り込むことになった。
かつては国一番の商業港として栄え、異国の船が頻繁に貿易に訪れていたというが、今はそんな面影もなく、かろうじて石の桟橋が残っているだけだ。
「ここがバルクムーン……」
目に入るのはどこまでも続く黄土色の荒れ果てた大地だった。
ところどころにほんのわずかな緑が見えるだけ。
自然豊かなマケドニアとは対照的な風景だ。
乾燥した風が砂塵を運び、髪も服もあらゆるものを砂まみれにする。
船から荷物を下ろし、飛行用のボートに積み込んだ。
とはいっても、載せられる荷物は多くなく、水、食料、薬、ボートの燃料になる飛空炭だけだ。
「私はここまでだ」
ルモンド博士が3人に向き直る。
「コーラル、君にこのような責任を負わせてしまうことを心苦しく思っている。必ず無事に戻ってきてくれ。そしてイーライ、ルッカ、彼女をよろしく頼む」
兄妹は力強くうなずいた。
「それじゃ行ってきます!」
ポールポートから交易路シルバーロードを道なりに北上し、まずは旧帝都ダンマームまで進む。
そこからは西に進路を変え、宝玉のあるアル・コバール連峰を目指す。
上空を飛べば偏西風の力で少しは楽に進めるが、そうするとならず者や砂漠の魔物たちに遠くからでも姿を見られてしまう可能性があるので、飛行用ボートではなるべく低い位置を飛ぶように言われている。
ボートのへりに体を預け、コーラルは遠くまで広がる砂漠を見ていた。
1000年前のシルバーロードは帝国繁栄の象徴であった。
ダンマームまでの道はきれいに舗装され、たくさんの荷物を運ぶキャラバン隊が行き交い、街道沿いには商人のための宿屋や銀行がいくつも並び賑わっていたという。
夕陽が地平線に沈みかけていた。
「なあ、腹へった。そろそろ飯にしようぜ」
「うん、完全に暗くなる前に今夜の寝床を確保しよう」
「よっしゃ」
待ちきれずイーライはボートから砂漠のくぼ地に飛び降りた。
「あ、そこは!」
イーライは着地するとそのままスーッと砂に吸い込まれて、姿が見えなくなった。
「風の衝撃!」
コーラルはとっさに呪文を唱える。
空気の塊が砂地に直撃すると、衝撃で大量の砂が吹き上がり、イーライが飛び出してきた。
それと一緒に茶色の巨大生物も宙を舞った。
八本脚の蟲はすぐに体勢を立て直すと、砂埃を立てながら穴を掘り、あっという間に潜り込んだ。
コーラルとルッカが駆け寄る。
「イーライ、大丈夫?」
「なんだよ、あれは」
「土蜘蛛だよ」
土蜘蛛は普段は砂の中に隠れていて、近くを通った生き物を引き摺り込みエサにする。
「見て、砂漠のところどころに丸い窪みがあるでしょ。あれが土蜘蛛の巣」
「ということは、俺は自らエサになりにいったのかよ」
みっともないと嘆きながら頭をかきむしる。
「兄さんは生物学の授業はほとんど寝ていたもんね」
ルッカは大笑いした。
岩場を見つけた三人は野営の準備に取り掛かった。
焚火を起こし、乾燥豆と干し肉と水でスープを作る。
味付けは塩だけだが肉の旨みが溶け出していてとても美味しい。
デザートにドライフルーツを少々。
眠る前には周囲に簡単な結界を張った。
弱い魔物ならまず侵入できないだろう。
急ごしらえの寝床に横たわり夜空を見上げる。
星がきれいだ。
父さん、母さん、幼馴染のジリアンとザック、お隣のグレースおばさん、クリムゾンヘブンのみんなの顔を思い浮かべた。
(本当に宝玉を見つけることができるのかな)
万が一、クリムゾンヘブンが浮力を保てなくなった時は、マケドニア王家の所有する広大な森を譲り受け、地上にクリムゾン国を建国することで両国の話し合いは進んでいた。
マケドニアは自治を認めると約束してくれている。
赤羽一族は独立を保ったまま、離散することもなく、これまでのように暮らすことができるだろう。
それでも、とコーラルは思う。
私は今のクリムゾンヘブンが好き、ずっとあそこで暮らしたい。
故郷に思いをはせながらコーラルは眠りに落ちた。
砂と岩だけの世界をひたすら進み、10日目の朝を迎えた。
途中、ハイイロキツネに干し肉をかすめ取られたり、激しい砂嵐に見舞われ立往生したりもしたが、おおむね順調だといってもいいだろう。
朝食後、出発前に進路の確認をする。
調査団のレポートによるとこの先は旧ゴルドー、かつて富裕層たちが好んで住んでいた街だ。
砂の下には金持ちたちが所有していた芸術品や金銀財宝がいまだたくさん埋まっているため、お宝目当ての窃盗団やトレジャーハンターが数多くいるらしい。
たちの悪い荒くれ者に遭遇しなくて済むように旧ゴルドーを通ることは避け、すこし遠回りになるが迂回をして進むように指示されている。
兄妹がボートに飛空炭をセットしている間に、コーラルはあたりの様子を上空から目視することにした。
「ちょっと見てくるね」
翼を広げて飛び立つ。
遠くに廃材で作られたバラックやテントがいくつも点在している。
やはり当初の予定通り迂回ルートを選択するのが正解のようだ。
戻ろうとしたその瞬間、投げ縄がコーラルの足首に絡みついた。
ぐいと強く引っ張られる。
「キャア!」
あっという間に地面に引きずり降ろされると、麻袋のなかに放り込まれ、馬に乗せられた。
セイッ!!と、掛け声とともに馬が猛スピードで走り出す。
異変に気が付いた兄妹が走って追いかけてきたが、馬のスピードにはかなうはずもない。
「コーラル、コーラルーーーーーーーーー!!」
イーライとルッカが叫ぶ声がだんだん遠ざかっていった。
数十分後、コーラルは馬から降ろされると、乱暴に床に放り投げられた。
「お頭!拐かしてきやしたぜ!」
「馬鹿野郎!!」
お頭と呼ばれた女が部下を張り倒す。
「何をやっているんだ、この間抜け!!!すぐにロープをほどくんだよ!!!」
ようやく袋から解放され、あたりを見ることができた。
どこかの窃盗団の根城だろうか。
トタンの壁に麻布を張った天井、室内にはいくつもの木箱が並び、彫像や壺といった高級そうな芸術品から、ガラクタのようなものまでさまざまな品が大量に置かれていた。
(ん?あれはもしかして……?)
女はひざまずいてコーラルに謝罪した。
「手荒な扱いをして申し訳ない、部下には丁重にお迎えしろといったがちゃんと伝わっていなかったようだ」
コーラルにソファに座るように促す。
「私はここのボス、ジャッキーだ。あなたに頼みたいことがある」
突然、外が騒がしくなった。
何かが激しく叩きつけられるような大きな音と、男たちの悲鳴と怒号が飛び交う。
「おいっ!!何事だい?」
ジャッキーが外に向かって怒鳴る。
「お頭、大変です、殴り込みです!」
さっきの部下が転がり込んできた。
「コーラル、どこだ!!」
イーライとルッカだ。
コーラルは外に飛び出ると、
「二人ともストップ!!!私は何ともないから!!」
大声で叫んだ。
大男の腕をねじり上げていたルッカはぱっと手を放し、
「よかった!慌てて追いかけてきたんだよ!」
嬉しそうにコーラルに抱き着いた。
改めてアジトの中に通される。
「さっきの話の続きだけど、私にお願いって何?」
「実は私の息子のピーターがオオガラスに連れ去られたんだ」
砂漠に生息するオオガラスは全長2メートルを超える肉食の怪鳥だ。
今は繁殖期なので高い場所に巣を作り、産卵、子育てをしている。
親鳥は雛が巣立つ直前に狩りの仕方を教えるのだが、その練習台として人間の子供を攫ってゆく。
ピーターをさらったオオガラスは、旧ゴルドーで最も高い鐘塔に巣を作っており、普通の人間には近づくことができない。
空中を移動するコーラルたちを偶然見かけて息子の救出をお願いしようと思ったのだ。
雛は孵化して間もないから、今ならまだ息子は生きているはず。
「ハッ、お断りだね」
イーライは吐き捨てるように言った。
まだ怒りが収まらないらしい。
人さらいするような悪人を助ける義理はないという。
ルッカも同意見だ。
「もう行こうよ、私たちはこんなことしていられないの」
二人は立ち上がり、バラックの出口へ向かおうとした。
「やるよ」
「コーラル?」
「だって、子供に罪はないもの。そのかわり子供を助けたら、あれを私にちょうだい」
乱雑に積み上げられたガラクタの山を指さした。
「あそこにある古木の杖が欲しいの」
「杖だって?ああ、あんな売れ残りでよければ、持っていけばいい」
堅いだけが取り柄で、宝石もついていないし美術品としての美しさもないので、買い手もつかなかったらしい。
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