悪徳令嬢は名探偵! ~クソ乙女ゲーに転生したミステリー作家ですが最短クリアで現世に戻ってみせます!~

きのと

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第3話 悪徳令嬢は毒殺を目論む-3-

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彼は続ける。

「おそらく、実際に飲んだのは茉莉花の根ではないでしょうか。そら死にの薬とよばれ、一時的に仮死状態になる薬です。つまり死んだふり、だ。理由はわかりませんが、あなたとシンシア嬢で一芝居うったのではありませんか?そう考えれば、あなたの落ち着きぶりも理解できます」
「うふふ、オーウェン様って面白い方ね」

びっくりした。
いや、まじで。
こんなクソゲーに、こんなキレ者のキャラがいたとは驚いた。

そう、オーウェンの読みは正しい。
夜会の日、偶然シンシアとエリックを見かけた私は会話を盗み聞きした。
どうやら心中を考えているようだ。
もし、バッドエンディングになったら私が戻れなくなる可能性もあるし、それにいくらデジタルのキャラとはいえ、死なれるのは寝覚めが悪い。

「シンシア様」

声をかけると、二人はぱっと体を離した。

「ごめんなさい、話を聞いてしまったの。誰かに喋ったりしないから安心してくださいな」

シンシア嬢が疑いのまなざしを向ける。
そうね、悪徳令嬢を信じろという方が無理だわ。
まあいい。

「ねえ、あなた方、心中するくらいなら、いっそ駆け落ちしたらいかが?」
「え?」
「家を捨てて、よその国へ逃げるのよ。そこで二人で暮らすの」
「そんな、考えたこともなかったですわ」
「家族と別れるのはつらいかもしれませんが」
「いいえ、お父様もお母様も長男のお兄様しか見ていませんし、お兄様も私を虫けらのように扱います。私のことは、家を繫栄させるための道具としか思っていませんもの。たとえお金がなくても贅沢できなくても、私のことを想ってくれる人と一緒にいたいのです」

シンシアはエリックを見つめた。

「僕も今は保安官の監察医として遺体検分の仕事をしていますが、本業は医者です。病院を開業すればふたり食べていけるぐらい稼ぐことはできます」
「じゃあ決まりね」
「でも、どうしたらいいかわかりませんわ。私は自由に外に出られませんし、もし逃げる途中に両親に見つかればすぐに連れ戻されてしまいます」
「そこは私に任せてくださいな」

シンシアの手が震えている。
いくら居心地が悪いとはいえ、深窓の令嬢にとって家を捨てるというのは怖いに違いない。

「ねえ、シンシア様」

私は彼女の手に自分の手を重ねる。

「幸せって、一方的に与えてもらうものじゃないわ、自分からつかみ取りにいかなければいけないの。今がそのときよ」

手の震えが止み、彼女の瞳から迷いが消えた。決心がついたようだ、いい表情をしている。

「わかりましたわ。駆け落ちします。ただ、」
「ただ?」
「ただ、アレクシス様のご迷惑になってしまうのが心苦しくて」

シンシア嬢、優しいなぁ。

「ご心配なく。私は悪徳令嬢よ。今更、評判のひとつやふたつ落ちたところでなんでもありませんわ」


こうして駆け落ち作戦はスタートした。
まず、私とシンシアの不仲を演出する。
夜会にもどり、衆人環視の中、わざとシンシアにぶつかってもらった。
そのときにお飾りがひっかかって壊れ、激高した私はシンシアを平手打ちする。
パーンとかなりいい音がしたから、参加者ほとんどが目撃しただろう。
当然、人伝に彼女の両親の耳にも入るはずだ。

そして翌日、私からシンシアに非礼を詫びる手紙をだす。
仲直りに我が屋敷のお茶会に招待したいと。

和やかにお茶を飲みながら、シンシアは苦しい胸の内を告白する。
そばに控えている召使や執事に、彼女が結婚を嫌がっていたと印象付けるためだ。
頃合いを見計らって、執事に追加のお菓子を取りに行かせ、この場から遠ざける。
召使にお茶を注がせたあと、私はわざとスプーンを落とす。
召使の注意をこちらに向けさせたところで、シンシアは自分のカップに阿片をいれ、そして茉莉花の根を煎じた薬を飲む。
シンシアはすぐに仮死状態になり、その場に倒れた。
現代医学ならわずかな脈を感じ取ることもできるだろうが、この時代、というかこのガバガバゲームのキャラたちには死んでいるようにしか見えないだろう。
執事にシンシアに脈がないことを確認させ、保安官を呼ばせる。

シンシアの「遺体」は検分担当の監察医エリックが馬車に乗せて運び出す。
先日の夜会での騒ぎは誰もが知っているから、保安官は当然、私が毒を盛ったと言い出すだろう。私は屁理屈を並べて時間を稼ぐ。
馬車の中で息を吹き返したシンシアとエリックは保安官事務所ではなく、まっすぐ港に向かい、外国行きの定期船に乗り出国する。
遺体が消えたこと、エリックが戻らないことに皆が気が付いた時にはもう、二人は手の届かない場所にいるはずだ。


数日後、薔薇の庭で花を切っているとオーウェンがやってきた。

「まあ、オーウェン様」
「キャンベル副隊長に報告書を届けに来たのですが、部屋からあなたが見えたものですから、ぜひご挨拶をと思いまして」
「ご丁寧にありがとうございます」

彼は赤い薔薇を一輪手折ると、私の髪に挿した。

「やはり、あなたには情熱的な赤がよく似合います」
「ふふ、お上手ですこと。これからお茶を飲もうと思っていましたの。ご一緒にいかがですか」
「よろしいのですか」
「ええ。お茶には阿片も茉莉花も入っていませんからご安心を」
「そんなこと考えていませんよ」

オーウェンが笑った。
やだやだ、笑顔がめっちゃ可愛い! あらためて見てもどストライクのルックスだ。


東屋にはお茶とお菓子が用意されていた。
そして、先ほど届いたばかりの一通の手紙が置かれていた。
海の向こうの国、セントモール共和国の消印だ。
差出人の名前はない。
封を切ると、ふっと花の香りが漂った。
ジャスミンの花の押し花と、便箋にはただひとこと「幸せです」と書かれていた。
よかった、仲良くやっているのね。

茉莉花ジャスミンの花ですか。シンシア嬢の事件を思い出します」

まったく、するどい奴め。
彼は穏やかなまなざしを向ける。

「アレクシス様は、良いことをなさいましたね」

私は首を横に振る。

「彼女のご両親には申し訳ないことをしてしまったわ。娘が死んだなんて嘘でもショックだったでしょうから」
「あなたは聡明なだけでなく、とても心優しい女性だ」

オーウェンが私の手を取った。

「レディ アレクシス、僕にあなたを知る機会を与えてもらえませんか」
「オーウェン様……」

好みのタイプのイケメンに思いを寄せられて、正直言って嬉しい。
でも、私はいつまでもここにはいられない。元居た世界に帰らなければならないのだ。
彼の申し出を、微笑みながら受け流すしかできなかった。

「僕は決してあなたをあきらめませんよ」

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