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第12話 お祭りデートは花火大会が勝負どき

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いったん宿に戻り買ったものを置くと、街に繰り出した。

日が沈み、あちこちで篝火が焚かれはじめると、お祭りムードがぐっと高まった。
夜の帳に映える、オレンジ色の炎の揺らめきと飛び散る火花。
ステージでは、タンッタンッタタンとリズムを刻む打楽器に合わせて、肌を大胆に露出した踊り子たちがセクシーなダンスを披露する。
女神崇拝の民族舞踊だ。
彼女たちが激しく悩ましげに体をくねらせると、腰に巻かれたビーズのアクセサリーがシャンシャンと音を立て、まとったベールが妖しくはためいた。

人込みではぐれないよう、私はサリッドとしっかり手をつなぐ。
広場にはたくさんの屋台が所狭しと並び、地元の名物料理や酒が売られていた。
羊肉の串焼き、クミンの薫る肉団子、ひよこ豆のペーストを丸めて揚げたスナック、ヨーグルトの酸味がさわやかなサラダ、ナッツやレーズンをのせたスパイスの効いた炊き込みご飯、パイ生地にピスタチオを包んで焼いたお菓子……。
お酒に合いそうなものをいくつか買って、サリッドと半分こにして食べる。
地酒も種類が豊富でどれか一つに決められず、調子に乗って飲み比べをしたら、二人ともかなり酔ってしまった。
ふらつく体をお互い支えあう。

「酔い覚ましに少し歩こうか」
「うん」

お酒のせいか、素の自分が出てしまう。
サリッドもこころなしか、いつもより表情が柔らかい気がする。
お祭り会場から少し離れた、比較的すいている人工池の周りを散歩する。
砂漠は昼と夜の寒暖差が激しい。乾燥した冷たい風が火照った体を冷ましてくれる。

サリッドが私の頬に触れた。

「まだ赤いね。酔ってる?」
「酔ってません!」
「いや、酔ってる」
「酔ってないもん」

なんで酔っ払っているときほど、酔っていないと言い張ってしまうのだろう。


感謝祭のクライマックスは打ち上げ花火だ。
ドンという音とともに夜空に巨大な花が咲くと、大歓声が沸き起こる。
次から次に連続して打ち上げられると、最高潮の盛り上がりを見せた。

水面にうつる花火が奇麗で、もっと近くで見ようと、私は池の柵から身を乗り出した。

「きゃっ」

前のめりになり過ぎてバランスを崩し、落ちそうになる。

「危ない!」

サリッドが後ろから抱きかかえてくれた。

「あ、ありがとう」

子供みたいな失敗をしてしまって恥ずかしい。

「サリッド? もうしないから、離してくれても大丈夫よ」
「いや、離さない」

背中から抱きしめる腕に力がこもった。
私はどくどくと鼓動が早くなるのを感じた。
まったくもう、お酒なんかよりもはるかにサリッドのほうが心拍数を爆上げしてくれる。

「酔っ払いはおとなしくしていて」
「はーい」

鍛え抜かれた逞しい胸板と腕に包まれて、私は花火を見上げる。
サリッドは今、どんな表情をしているんだろう。
その答えは旅が終わるまでお預けだ。
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