いつになったら、魔王討伐いくんですか勇者様? ~お目付け役賢者の日記~

あざね

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4.この世界の常識

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「ハヤト様? いったい何を考えておられるのですか。勇者とあろう者が、よりにもよってメイドに手を出そうとするなど……」
「え~? だって、可愛かったんだもん。頭を撫でてあげたくなったんだもん」
「可愛らしく言っても駄目なモノは駄目です」
「ぶー、ぶー! 頭が固いぞ賢者!」
「………………」

 アルは固いと言われた頭を抱える。
 城内を案内するという口実で部屋から連れ出し、二人は廊下を歩いていた。
 その道中でアルはハヤトの行いを諌めようとしたのであるが、この勇者、聞く耳を持たぬといった感じである。ただでさえ丸く太った顔をさらに膨らして、唇を突き出していた。大きな身体を揺すりながらギリギリで手を後ろで組んでいる。

 そうすると衣服に描かれた愛らしい少女の絵が、横に引き伸ばされる。
 何とも哀れに思えたアルであった。

「あのですね、ハヤト様。メイドに手を出すという行為、何故に駄目なのかご理解いただけておりますか?」

 しかし今、重要なのはそこではない。
 そう思い直して賢者は、勇者にそう問いかけた。
 すると勇者は「んにゅ?」という謎の擬音を発しながら、立ち止まる。そして小首を傾げ、不思議そうな表情を浮かべながらアルに向かってこう答えるのであった。

「……単純に『セクハラ』だから?」――と。

 だけども、今度はアルが首を傾げてしまった。

「『セクハラ』とは、いったい何ですか?」

 その理由というのもハヤトの口から出てきたのは、聞いたことのない単語だったためである。日記にはこの後のハヤトの発言より、このように記述してあった。

「あー、えっと。要するに【破廉恥なこと】だから?」――と。

「破廉恥なこと、ですか……?」
「にゅ、違うの?」

 結果として互いに首を傾げることとなってしまった。
 だが、とにもかくにも、である。アルはハヤトの言葉から類推し、彼が大きな勘違いをしていることに気が付いた。それを正すべく、咳払いをして賢者はこう言う。

「……違います。何故にメイドに触れることなかれと言ったのか、それは――」

 大真面目な顔で。


「――貴方とあのメイドでは、『身分の差があまりにも大きいから』です」


 そう、言ったのであった。
 勇者と貧困層出身のメイドでは、身分が違い過ぎるから、と。そして――。


「仮に貴方――ハヤト様があのメイドに触れたとしましょう。その結果として、貴方のようなことがあれば一大事ではありませんか」


 さも当然のように。それは、疑いようのない真実であると。
 アルはハヤトに、そう告げたのであった。

「穢れる、魂が……?」

 聞いて勇者は怪訝そうな表情を浮かべる。
 醜い顔に、真剣な色を。そこに在ったのはいかなる感情であろうか。
 複雑なモノであったに違いない。しかし、そのことに賢明なるアルは気付くことはなかった。何故ならそのことが、この世界で摂理であったため。


【汚れた者に触れれば、魂が穢れる】――これは、この世界での常識であった。


「あのメイドはこの王都の中でも、穢れた血を持つ者の子です。一部の市民の声が大きく、給仕として雇ってはいますが変わりません。勇者の身に何かあってからでは――遅いのです」
「穢れている、あの子が……?」
「なにか、私の話に矛盾がありますか?」

 当たり前のことを何度も問い返してくるハヤトに、アルはとうとう呆れてしまう。賢い自分とは異なり、愚かで醜いこの男に。何が正しいのか、ということを。

「………………………………」

 その言葉を受け取った勇者は、立ち尽くす。
 眉間に皺を寄せ、何やら拳を強く握りしめるのであった。

「いかがいたしました。私は何か、おかしなことを言いましたか?」

 アルはそこに至ってようやく、ハヤトの異変に感付く。
 震える拳を。噛みしめられた唇を。そして、どことなく潤んだ瞳を。
 彼の中には、怒りとも悲しみとも判断のつかない感情が混ぜこぜになっていた。少なくともこの時のアルには、そのように思われた。だがしかし――。

「――いや。なんでも、ないでござるよwww」

 ふっと唐突に笑ったかと思えば、またも気持ち悪い声を発した。

「いやぁwwwなるほど、一つ賢くなったでござるよwww」

 そして、そう言う。
 なるほど自分の言葉は、この男に伝わったらしい。
 アルはそのように思うのであった。自分の持つこの世界の当たり前は、常識は、曲がることなく受け入れられたのであると。そのことに静かに安堵し、賢者は再び歩き出した。次いで、脱線した話を元に戻すこととする。

「それでは、中庭ででもお話いたしましょう。ハヤト様には、これからたくさんのコトを学んでいただかなければなりませんから、ね」
「デュフフフフwwwうい、把握www」

 するとハヤトも、それに続いて歩き始めた。
 それは何とも自然に。違和感なく、当たり前のように。


 けれども賢者は知らなかった。
 この時、勇者――ハヤトがあることを決意していたことに。
 そしてそのことが、小さな波乱を生むことになるということを……。


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