7 / 16
6.正反対な二人
しおりを挟むアナは孤児院出身の齢十四の少女である。
肌は褐色であり、髪は栗色。年齢以上に幼さを感じさせられるのは、その大きく円らな黒き瞳、そして年不相応に小さなその体躯が要因であると言えた。おそらくは食育がままならなかったのであろう。苦しい彼女の生い立ちが感じられた。
この城の給仕として勤務することになったのは、おおよそ三十余日ほど前。
育った孤児院を経営する、元騎士団のコルドー氏による推薦によるモノであった。氏は騎士団を引退後に何を思ったか孤児を養う道を選んだ。穢れた者の世話を買って出るなど、狂ったのかと当時から言われている。が、しかし――結果として労働力を提供してくれるために、許容されるようになってきていた。
ある種で、地位の向上が図られてはいたのである。
それでもハヤトの発言は、どう転んでも許容されるはずがなく――。
「――そんなこと、許されるはずがありません!」
アルはハヤトを乱暴に客室へと連れ帰り、唾を飛ばしながら激昂した。
高級な赤の椅子に腰かけた勇者は、素知らぬ顔をしている。相手の怒りなどどこ吹く風、そこにあるのは無関心に近いものであったのかもしれない。その姿を目の当たりにしたアルは尚のこと、平生ならば荒立てることのない感情の波をたてることとなった。
「冗談でしょう……? 言葉を交わすだけなら理解できますし、黙認されます。しかし、言うに事を欠いて『妹にする』ですって? とても、正気の沙汰とは思えません!」
「正気じゃないって、さすがに酷いと思うでござるよ~?」
「酷いのはどちらですか!」
そしてやっと、そんなことを口にするハヤト。
だがしかし、である。その言葉は飄々としたモノであり、反省など微塵もしていないのが明らかであった。終いには小さな笑みさえ浮かべるのである。
あまりに対照的な二人は、向かい合って沈黙することとなった。
一方は根本より、何を考えているのか分からず。
もう一方は、自らの思惑に反する異分子への苛立ちを抱いている。
この状態では対話も成り立たないであろうと、そのように考えられた。アルもそれには気付いていたらしく、しかし普段扱うことのないそれによって、引き下がれなくなっている。
平行線をたどるであろう。
そう思われた。その時であった。
「まぁまぁ。アル氏の責任にならないように、ちゃんとカール氏には話すでござるよ? それなら、アル氏のキャリアにも傷がつかないでござるよwww」
ハヤトが、そのような提案を口にしたのは。
「――――な!? 私は、自己保身など……!」
その意味をすかさず理解したアルは、分かりやすく息を呑む。
そして否定しようと試みるが、それよりも先にハヤトが指差して、
「うはwww嘘、乙www」
笑った。いや、もしかしたら煽ったのかもしれない。
少なくとも、そのように受け取られてもおかしくない言い方であった。
「くっ……!?」
だが、それは図星。
それ故にアルは、情けないと感じながらも口を噤んだ。
じっとりとした汗が彼の額を、そして頬を伝っていく。【この時の私は、視界が歪んで見えていた】と記されているように、アルはじりっと、少しだけだが後ずさった。
「……分かり、ました」
そして、とうとう耐え切れなくなったらしい。彼はそう言った。
これはある意味で、敗北よりも屈辱的。誰にも悟られたことのない自身の暗部を見透かされ、かつそこを突かれたのだから。そのためだろうか、アルは思わずこう付け加えてしまうのであった。
「もうどうなっても、私は知りませんからね!」――と。
それは、完全なる逃げ口上。
今すぐにでもこの場を立ち去りたいと、その気持ちが滲み出た言葉であった。
続いてアルは素早く踵を返して、駆けるような速度で部屋の外へ。すると、そこには――。
「――きゃっ! あ……ご、ごめんなさいっ!」
少女――アナがいた。
彼女は一連の会話を聞いていたのであろう。酷く怯えた目でアルのことを見上げていた。潤んだ瞳からは、今にも涙がこぼれ落ちそうである。
「――――――――っ!」
アルは、そんな幼い女の子の様子に声を詰まらせた。
そして大きく視線を逸らして、逃げる。
この日の日記は、ここまでで途切れている――。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。
石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。
だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった
何故なら、彼は『転生者』だから…
今度は違う切り口からのアプローチ。
追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。
こうご期待。
魔王を倒した手柄を横取りされたけど、俺を処刑するのは無理じゃないかな
七辻ゆゆ
ファンタジー
「では罪人よ。おまえはあくまで自分が勇者であり、魔王を倒したと言うのだな?」
「そうそう」
茶番にも飽きてきた。処刑できるというのなら、ぜひやってみてほしい。
無理だと思うけど。
主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します
白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。
あなたは【真実の愛】を信じますか?
そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。
だって・・・そうでしょ?
ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!?
それだけではない。
何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!!
私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。
それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。
しかも!
ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!!
マジかーーーっ!!!
前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!!
思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。
世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる