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6.正反対な二人
しおりを挟むアナは孤児院出身の齢十四の少女である。
肌は褐色であり、髪は栗色。年齢以上に幼さを感じさせられるのは、その大きく円らな黒き瞳、そして年不相応に小さなその体躯が要因であると言えた。おそらくは食育がままならなかったのであろう。苦しい彼女の生い立ちが感じられた。
この城の給仕として勤務することになったのは、おおよそ三十余日ほど前。
育った孤児院を経営する、元騎士団のコルドー氏による推薦によるモノであった。氏は騎士団を引退後に何を思ったか孤児を養う道を選んだ。穢れた者の世話を買って出るなど、狂ったのかと当時から言われている。が、しかし――結果として労働力を提供してくれるために、許容されるようになってきていた。
ある種で、地位の向上が図られてはいたのである。
それでもハヤトの発言は、どう転んでも許容されるはずがなく――。
「――そんなこと、許されるはずがありません!」
アルはハヤトを乱暴に客室へと連れ帰り、唾を飛ばしながら激昂した。
高級な赤の椅子に腰かけた勇者は、素知らぬ顔をしている。相手の怒りなどどこ吹く風、そこにあるのは無関心に近いものであったのかもしれない。その姿を目の当たりにしたアルは尚のこと、平生ならば荒立てることのない感情の波をたてることとなった。
「冗談でしょう……? 言葉を交わすだけなら理解できますし、黙認されます。しかし、言うに事を欠いて『妹にする』ですって? とても、正気の沙汰とは思えません!」
「正気じゃないって、さすがに酷いと思うでござるよ~?」
「酷いのはどちらですか!」
そしてやっと、そんなことを口にするハヤト。
だがしかし、である。その言葉は飄々としたモノであり、反省など微塵もしていないのが明らかであった。終いには小さな笑みさえ浮かべるのである。
あまりに対照的な二人は、向かい合って沈黙することとなった。
一方は根本より、何を考えているのか分からず。
もう一方は、自らの思惑に反する異分子への苛立ちを抱いている。
この状態では対話も成り立たないであろうと、そのように考えられた。アルもそれには気付いていたらしく、しかし普段扱うことのないそれによって、引き下がれなくなっている。
平行線をたどるであろう。
そう思われた。その時であった。
「まぁまぁ。アル氏の責任にならないように、ちゃんとカール氏には話すでござるよ? それなら、アル氏のキャリアにも傷がつかないでござるよwww」
ハヤトが、そのような提案を口にしたのは。
「――――な!? 私は、自己保身など……!」
その意味をすかさず理解したアルは、分かりやすく息を呑む。
そして否定しようと試みるが、それよりも先にハヤトが指差して、
「うはwww嘘、乙www」
笑った。いや、もしかしたら煽ったのかもしれない。
少なくとも、そのように受け取られてもおかしくない言い方であった。
「くっ……!?」
だが、それは図星。
それ故にアルは、情けないと感じながらも口を噤んだ。
じっとりとした汗が彼の額を、そして頬を伝っていく。【この時の私は、視界が歪んで見えていた】と記されているように、アルはじりっと、少しだけだが後ずさった。
「……分かり、ました」
そして、とうとう耐え切れなくなったらしい。彼はそう言った。
これはある意味で、敗北よりも屈辱的。誰にも悟られたことのない自身の暗部を見透かされ、かつそこを突かれたのだから。そのためだろうか、アルは思わずこう付け加えてしまうのであった。
「もうどうなっても、私は知りませんからね!」――と。
それは、完全なる逃げ口上。
今すぐにでもこの場を立ち去りたいと、その気持ちが滲み出た言葉であった。
続いてアルは素早く踵を返して、駆けるような速度で部屋の外へ。すると、そこには――。
「――きゃっ! あ……ご、ごめんなさいっ!」
少女――アナがいた。
彼女は一連の会話を聞いていたのであろう。酷く怯えた目でアルのことを見上げていた。潤んだ瞳からは、今にも涙がこぼれ落ちそうである。
「――――――――っ!」
アルは、そんな幼い女の子の様子に声を詰まらせた。
そして大きく視線を逸らして、逃げる。
この日の日記は、ここまでで途切れている――。
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