デビルサマナー

John Smith/ジョン スミス

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 大阪本局の司令室では総司令たちが第二大天使の消えていく様子をモニター越しに確認していた。
 
「やったぞ!」
「良かった……」
 
 緊張感から解放され、無事を喜ぶ兵士たちたちの姿がある。
 総司令もまた強張らせていた表情を緩めた。しかしそれで終わりではなかった。司令室に警報が鳴り響き、そしてメインモニターには「WARNING」の文字が点滅している。
 
「名古屋支局が何者かに占拠されました!」
 
 名古屋では国連軍のやり方に反対する暴徒が食料品や医療品の略奪を繰り返していたが、とうとう国連軍の支局が占拠されるという事態に陥ってしまったのだ。
今朝〇八〇〇時の段階で東京、大阪、名古屋、札幌、福岡、別府…この6つの都市は被害があったのものの連絡は取れた。
 しかし会議を待たずして別府との連絡は途絶え、メラク出現とほぼ同時期に福岡との連絡は途絶えていた。
通信が途絶えたというのは、このふたつの都市が消失したという意味である。これで名古屋まで失うとなると国連軍の機能は著しく低下するのは明らかだ。
 
「状況確認、急げ!」
 
 総司令の指示で端末を操作する兵士のひとりが叫ぶ。
 
「わかりました! 首謀者は……元国連軍軍人、厚切ロナウドです!」
「なんだと」
 
 総司令にはその名に覚えがあった。
 父親が日本人で母親がブラジル人というハーフで、国連軍に入局する前は刑事であった男だ。刑事時代の先輩という人物が国連軍を調べていたが失踪したという事件があった。
 それを総司令の謀略だとして、また総司令のやり方にも意を唱え、国連軍を抜けたという過去がある。そして総司令に個人的な恨みを抱き、民間人を扇動して名古屋支局を強襲した。
しかしその失踪事件についてはヤマト及びジプスは関与していない。
 危険を感じた刑事が自ら姿を消したに過ぎないのだ。だからロナウドの逆恨みである。たぶんそれを説明してもロナウドには言い訳にしか聞こえないことだろう。
そして総司令は彼に弁明する気はさらさらない。よって全面対決となるのは自然な流れだ。
 
「ただちに名古屋支局の暴徒を取り押さえろ!」
 
 

 
 
ザクッ!
 
ギギギギ…
 
斬撃の音と、続いて半分ほど消滅した第二大天使の断末魔の悲鳴が聞こえ、驚いた湊が振り返ると翡翠が立っていた。
 その悪魔は翡翠の鎧に身を包み、悠然と氷の刃を握っている。長剣を鞘に戻したところで、その悪魔使いらしき青年が湊のに近寄って来た。

 ラテン系のハーフらしく浅黒く彫の深い顔立ちをしている。青年の目つきは鋭く、彼女をキッと睨みつけた。
 
「最後まで気を許すな! 俺があと一歩遅ければ、君は奴に殺られていたぞ」
 
青年の言葉で、湊は第二大天使が最後の力を振り絞って自分を殺そうとしていたのだと察した。
 第二大天使は彼女が油断して背を向けたところを狙い、その危機をこの青年が助けてくれたということになる。
 
「あなたは……?」
 
「俺は厚切ロナウド。国連軍に仇なす者だ」
「お礼だけは言っておきます。ありがとうございました。何者ですか?」
「半年ほど前に国連軍のやり方に異を唱えて退職した軍人だ」
「異を唱えた?」
「ああ、そうだ。国連軍は天使の大規模出現を予見していたにも関わらず国民には何も知せず、我々を見捨てた」
 
ロナウドは湊を見下ろしながら、冷たい口調で言う。
それに湊は反論した。
 
「知せなかったのは理由があるんじゃないでしょうか?」
「理由だと?」
「すべてを国民に話し、それなりの準備と心構えをするということもできたでしょう。しかしそれが最善の方法だと言えるでしょうか? 1億を超える国民が一糸乱れぬ行動をとれるとは思えません。人類の有する最新鋭の兵器ですら効果のない得体のしれない強敵が襲来すると知れば、心の弱い者は発狂してしまうでしょう。自ら死を選ぶ者も現れるかもしれませんし、自棄になった連中が暴動を起こす可能性もあります。むしろ知せないでおいたことは正解だったと俺は考えます」
 
湊の言葉にロナウドは小さく頷いた。
 
「それも一理ある。しかし国連軍の倉庫には非常用の食料や医薬品が山と積まれているというのに、被災者に一切配ろうともしないというのはどうだ? こうなることを予測できたジプスなら、民間人のための物資を備蓄することもできたはずだ。それを自分たちの分だけしか用意せず、民間人に分け与えないというのは、初めから民間人を見捨てるつもりだったとしか考えられない。だから俺と俺の同志は立ち上がった。現在、我々レジスタンスは名古屋支局占拠している」
「なんだって!?」
「名古屋支局を占拠したのは人員を人質とするためであり、目的は総司令を倒すことだ。だから人員たちには危害を加えるつもりはない。安心しろ」
「そうなると国連軍所属の俺を助けたのは単なる人命尊重という理由だけじゃないですよね?」
「もちろん君を利用させてもらうのさ。予備兵科、それも十歳にもならない君を人質にすれば、さすがの軍人達も俺たちの要求を飲まざるをえないだろうからな」
 
 確かに十歳の子供の命を人質に取られて何もしないのは外聞が悪い。しかしそれはいまそんなに必要なことだろうか、と疑問が残る。
 
「そう簡単にいきますか? 総司令は目的のためなら犠牲を恐れません。それにあなたのやろうとしていることはわからなくはありませんが、だからといってこの状況下で人間同士が争い合っても無意味だと思います」
「でもこのままあの男の思い通りにさせておいたら、この世界は弱者が生きることのできない世界になっちまうんだぜ」

湊の背後で別の男性の声がした。
彼女が振り向くとスーツ姿にハンチング帽をかぶった青年が立っている。
 
「俺の名は江川承太郎。ジョーって呼んでくれ。……で、君は考えたことあるかな? 社会的弱者の立場ってヤツ。貧富の差とか人種とか病気とか。そういう人たちがみんなと同じように幸せになるのって、社会の支援が大きいんだよねぇ。でもあの男はそういう人間を役に立たないからといって切り捨てようとする。実力主義っていうのは切り捨てられる側のことを考えたことのないエリートの男らしい考えだと思わないか?」
「いや、それを、軍に求める方が間違っているでしょう。軍人ですよ、俺たちは。臨時政府が機能してないから指揮をしてるだけで」
「まあ、君は奴にとって今のところ役に立つ駒だから優遇されているが、不用となれば切り捨てられる可能性もある。だったらそんなことになる前に俺たちと共に戦おうと考えてもらえないかな? 君は第一天使と第二天使を倒したサマナーだ、味方になってくれたら心強い」
 
ロナウドが湊に手を差し出した。
しかし湊ははっきりと答えた。
 
「俺は国連軍の人間です。国連軍と敵対するあなたたちに協力する気はありません」
 
するとロナウドは湊を小馬鹿にしたように鼻で笑った。
 
「フッ、君はもっと賢い人間だと思っていたのだがな。……ジョー」
 
ロナウドがジョーの名を小さく呼んだ時、湊の背後からジョーが彼女を羽交い締めにした。しかし湊は逆に組み伏せた。

「俺だって訓練を受けた軍人なんですよ! 子供だって侮ったな!」

 ジョーの頬に拳を叩き込んだ。そして懐からナイフを取り出して肩に突き刺す。そして首筋に当てる。

「俺をあんた達の拠点へ連れて行け。この状態でだ。さもなくば殺す」
「内部から崩壊を目論むか。良いだろう、案内しよう」
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