デビルサマナー

John Smith/ジョン スミス

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大阪の霊的防御能力の低下、ロナウドを頭目とした暴徒による名古屋支局占拠、湊の拉致といったさまざまな問題を抱えた国連軍は一睡もできないままに長い夜を過ごしていた。
 
「〇五四五時、か。まもなく3日目の朝がやってくる…」
 
ソファーに深く腰掛けながら総司令はそう呟いた。そして思い巡らす。
 
調査によって、昨夜のうちに湊は国連軍名古屋支局内に囚われていることが判明している。
そこで暴徒たちからの名古屋支局奪還と湊の救出は同時進行で行われることとなった。
作戦とは名古屋支局長を指揮者とし、名古屋支局所属の民間人協力者1名と東京支局の局員で構成した部隊を潜入させて隠密裡に制圧するというもの。
できるかぎり被害を出したくはないが、兵士に多少の犠牲は出るだろう。
しかしそれも名古屋支局と湊奪還のためには当然ありうるものだと総司令は考えている。
 
(問題は新田だ。湊が拉致されたと知り、躍起になっている。良いぞ、士気が高いことは良い事だ)
 
彼は彼女の顔を思い浮かべた。
 
3体目の大天使の出現場所は名古屋だと知っているヤマト。
だからこそ一層警戒を怠ることはできない。
 
大時計が6時の鐘を打った。
 
「今日もまた長い一日が始まるのか…」
 
総司令はそう呟くと、緩めていたネクタイを締め直してコートを羽織った。
 
「来るなら来い……私の行く手を阻むものは、この手ですべて叩き潰してやる!」
 
 

 
 
同時刻、大阪本局の倉庫ではイオが段ボール箱の中に忍び込もうとしていた。
 
(大丈夫かしら)
 
不安そうなイオが心の中の自分に問う。
 
(ここの荷物が名古屋支局に送られるってのは確かだから……でも見つかったら…)

 イオは首を振る。

(いや、そうよね! いつも助けてもらってばかりだもの、こういう時に頑張らなきゃ)
 
 イオは大きめの段ボール箱のひとつを開けた。そして中に入っていた毛布の束を全部出して、それを倉庫の隅に隠しておく。
 
 イオは適当な箱を見つけると同様に中身を出して、代わりに自分が入って身を潜めた。それからしばらくして局員たちが台車を使って荷物を運び出した。
 その中にはイオが潜んでいる2つの箱もある。作業をしている局員たちは不審に思わず、名古屋行き高速列車の貨物車にそれらを運び入れた。もちろんそんなことが起きているとは総司令は想像もしておらず、彼の頭の中は大天使と暴徒の鎮圧のことだけであった。
 
 

 名古屋で、湊はご飯を食べながらロナウドと話す。
 
「食べながらでいいから聞いてくれ。…俺たちは君を苦しめたくてこんなことをしているんじゃない。国連軍が物資を被災者に分け与えてくれるなら、俺たちだってこんな無茶なマネはしないさ。それに俺たちには時間がない。今日だって第3の大天使が襲来するんだ。それを倒すためには優秀なサマナーをひとりでも多く味方につけるしかないってことはわかるだろ? だから湊くんにも協力してもらいたいんだよ」
「じやあ、その正義を俺に示してください」
「湊君、君の考えを変えるためには俺が説得するしかないようだな。ならば俺の話を聞いてくれ」
「わかりました。あなたの正義をわたしに示してください」
 
湊そう言って姿勢を正した。
ロナウドも真剣な眼差しで彼女を見つめ、それに動じない彼女に語りかけるように話し出した。
 
「俺は子供の頃から自分より弱い者を見ると助けてやりたいとか守ってやりたいと思っていて、それが高じて刑事になった。別に正義の味方になりたいとか、悪を滅ぼしたいなどという大層なものではない。国連軍が物資を独占し、優遇された立場であることは、政府機密機関としての機能を維持するために必要なことかもしれない。しかしだからといって民間人が飢えてかまわないということにはならない。そうは思わないか?」
「ええ。避難所では多くの民間人が助けを求めています。彼らは一昨日まで平和でつつましやかな生活を送ってきた人ばかりです。そういった人たちが飢えて苦しむ姿は見たくありませんし、手助けできることがあれば精一杯のことをしてあげたいとわたしも思います」
 
湊がそう答えると、ロナウドの表情がぱっと明るくなった。
 
「ならば俺たちに協力してくれると ── 」
「いいえ。早合点しないでください。これだけの話でわたしはあなたたちに協力する気になどなれません。それにまだあなたが理想とする世界については説明がありません。あなたはどのような世界を望んでいるんですか?」
「俺はすべての人間が平等であるべきだと考えている。人は自分の意思によって生まれる家を選ぶことはできない。俺のように庶民の、それも最下層の家に生まれた人間は、人並みの暮らしをするだけでも相当な苦労があるんだ。おまけにハーフで、この浅黒い肌の色のせいでいろいろと差別的な扱いも受けてきた。だからこそ出自や肩書で生活格差が生じるような現状を打破し、みんなが手を取り合うことのできる平等な社会を創りたいと考えている。強き者が弱き者に手を差し伸べ、誰もが互いに相手の人権を尊重し合えば争いも起こるはずがないんだ」
 
彼はそう言うと湊の目をじっと見つめた。
 
「自分の命を顧みず友人を助けようとする君ならわかってくれるはずだ。総司令は自分が、国連軍が新世界の王になりたいと、その特権を己の野望の実現のみに利用している。奴が王になってみろ、奴のやり方に同調する連中だけが美味い汁を吸い、弱者が虐げられる世界になってしまうだろう。この世界には弱者と呼ばれる人たちが大勢いる。貧しい者、病気や怪我をしている者、障害を持って生まれた者、人種や出身部落によって差別的な扱いを受ける者……彼らは奴の創る世界ではこれまで以上に生きていくことが困難になるだろう。しかし俺はそんなことは絶対にさせない。生命はみな平等で、身分の上下や貧富の差など一切なく、互いに無償で助け合うことを当然と考える世界。俺はそんな世界を目指して戦っているんだ」
 
ロナウドは自分の考えこそが人類全ての理想の世界であるというかのごとく自信満々で言った。しかし湊の反応は冷淡だった。
 
「なるほど、それは人類が何度も夢見た理想郷そのものですね。でも残念ながら俺はそんな絵空事に同調することはありません。なにしろこの世界には命の重さ以外に平等というのもは存在しませんから」
 
湊の言葉にロナウドが眉を顰めた。
 
「平等が存在しない? それは強者が弱者を虐げているからであり、全ての天使を駆逐した後世界を支配することで強者が弱者に手を差し伸べることで、格差がなくなり誰もが平等になれるとは思わないのか?」
「いいえ。そういう意味ではなく、人間が個というものを持っている以上、全ての人間が平等であることは不可能だと言いたいんです。命の重さが平等であってもそれを持つ個体がそれぞれ違うんですから、すべての人間が平等になれるという考えは浅はかであるとしか言えません」

 ロナウドは首を傾げた。
 
「公平と平等。両者には大きな違いがあります。平等とは個人の資質、能力、努力、成果に関係なく一定の規則通りに遇するシステムとなっていること。そして公平とはすべての人に対し、機会が均等に与えられており、成果を上げた者が評価され、報われるシステムとなっていることです。歴史の流れの中で『すべての人間は平等でなければいけない』と共産主義という考え方が生まれ、かなりの数の国で『平等実験』が行われました。結果、それらの国すべての経済体制が破綻し、人間は平等という考え方で集団をつくると殆どの人が『最も低い能力の者に合わせた力を発揮する集団』になるということが証明されました。考えてみれば当然でしょう。たくさんと働いても少ししか働かなくても報酬が同じならば、多くの人間はだんだん働かなくなる方向へ行くのは目に見えています。人間とは愚かな生き物ですから、楽ができるとわかればその流れに乗ってしまうものです。これに対して資本主義では、働きの良い者と悪い者の報酬には格差があります。この格差があるからこそ人は『自分ももう少し頑張って報酬を増やそう』と考え、社会システム全体が進歩してきました。人間社会、いいえ生物の社会では格差が生じるのは当然のことであり、むしろ格差が社会を進歩させる原動力となるわけです」
 
ロナウドは黙って聞いているが、その表情はとても不満げだ。
 
「では資本主義こそが理想の社会であるといえるでしょうか? いいえ、違います。現在の日本が良い証拠です。富める者はますます富み、貧困に喘ぐ者はいつまで経っても生活は苦しいまま。狡賢い人間が得をするような社会になっています。俺の理想は人種、国籍、家柄、性別、健康等による活動制限を合理的ルールで極力取り除き、成果があればきちんと評価される社会。俺のこの考えの基本が公平という概念なのです。合理的ルールを作るといっても簡単なことではないと重々承知しています。でも単純に『みんなで仲良く平等に』なんていう社会では、きっと俺は生きていけない。自分の努力が誰にも認めてもらえない社会なんて絶対に嫌だ」
 
最後の言葉は湊の心からの叫びである。
 
「俺は第二大天使で決着を任されました。俺のような若輩者が、それだけの大役を任されるのはそれだけの力を有しているからだとおわかりになりますよね? 総司令が実力のない者に重要な仕事を任せるはずがありません。生まれつき霊力は高かったのですが、それだけで強い黒鉄を使役できるでしょうか? 自慢するわけではありませんが、俺は軍人として誰にも負けないほどの努力を積み重ねてきました」
「……」
「平等だとか助け合い、手を差し伸べるなどという美辞麗句をいくら並べ立ててもわたしには通用しませんよ。『One for all , all for one』という言葉はご存知ですか?」
「ああ、もちろんだとも。それこそ俺たちの行動理念だからな。『ひとりはみんなのために、みんなはひとりのために』…まさに平等主義の大原則だ」

ロナウドが目を輝かせて言う。この言葉は彼にとっての座右の銘なのだろう。
しかし湊は苦笑を禁じえない。
 
「これはアレクサンドル・デュマが書いた『三銃士』に登場する有名な言葉です。あなたが言ったように『ひとりはみんなのために、みんなはひとりのために』と訳されていますが、これはとんでもない違訳だということまではご存知ではないようですね」
「どういうことだ?」
「『ひとりはみんなのために』という部分は合っているのですが問題は後半部分です。『みんなはひとりのために』というと助け合いのような感じがして聞こえは良いのですが、結局はお互いが助け合わないといけない馴れ合いの状態、つまり相互依存状態を指すことになってしまいます」
「それではいけないのか?」
「はい、俺はそう思います。それにこれは本来の意味が間違っているんです。この場合、後半の”one”は勝利とか目的と訳すべきと言われています。つまり『ひとりはみんなのために、みんなは勝利のために』が正解ということになります。ですから『ひとりひとりが全員のために責任を果たす人間になる。そしてそんな個人が集まって全員で勝利向けて一丸となって進んでいく』というのが本来の意味になります。よってチームの一員たる個人は最低限の責任を果たす人間であるべきです。弱者救済は大事ですが、その弱者が弱者に甘んじた状況を自ら改善しないで、誰かの援助に頼りっぱなしというのではいけません」
「……」
「あなたが平等主義の理想を掲げて戦うのは自由ですが、すべての人間が平等な世界を望んでいるとは限らない」

 その時だった。
 野良悪魔の襲来の警報が鳴り響いた。
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