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悪役を演じて見せよ!

チェンジで!

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 タマキは立ち上がり、こぶしを振り上げた。
「そこで私、とびっきりの解決策を思いつ…考えました」
「今、思いつきって言おうとしたな」
 ソラは面倒くさい予感がして顔をすがめたが、ガラムは楽し気に右側の唇を吊り上げた、なんてつややかな笑み。

「うっ、ガラムさん素敵…、じゃなくて、そう、ソラが私の代わりに悪役令嬢になればいいのではないかと思ったり思わなかったりします。そうすれば、1つ目音痴と2つ目アラフォーと3つ目ポンコツ相棒は即解決します。4つ目はガラムさんでしたら、大人の魅力で何とか対抗できそうな気がします。チェンジでチェンジで!」
タマキは胸をおさえながらも、後半はほぼノンブレスで言い切った。息巻いている。

「はっ、無理だしぃー、タマキ姐さん、頭のねじぶっとんでんじゃねえの! 僕は男だっつーの!」
「いやいや、いけるって、男の。よっ、美しさは罪」
何で自分はもてないんだ、急に思いいたったタマキの目が曇った。
「………妬ましい、そねましい、うらやましいぃ、ちっ」
タマキの舌打ちが炸裂した。ソラは女の子に間違われるくらい、かわいい顔をしているため、タマキの嫉妬を買った。
「なんで、急にこっちが恨まれてんだよ、理不尽」

 その時、虚空から1枚の紙がひらひらと舞い落ちてきた。
『チェンジイイネ トマトミトメタ』
急いで書いたであろう乱雑な文字を見て、今度はソラが紙をぐしゃっと握りつぶしたのだった。

 配役はソラが悪役令嬢、ガラムは国お抱えの魔女設定はそのままに学園の魔法教師、タマキが用務員、ポンタが用務員の使い魔に変更された。
「決まりね、そうと決まれば、学園の召喚授業を待つ必要もないので、ポンタを呼び出します。いでよ、ポンコツだぬき」
 ぽんっという効果音とスモッグとともに、ずんぐりむっくりなたぬきが登場した。つぶらな瞳がチャームポイントで、その瞳を見開いてぼんやりしている。

「あれれ、ポンタ、まだ出番じゃないよ? タマキったら、おっちょこちょい」
 ポンタはたぬきであるが、参加者であるため、人と会話ができる。また、たぬきの一生は短いからと、ゲームマスターから老化を遅くする呪いをかけられている。「ゲームが成り立たないし、それじゃ、面倒くさいし、つまらないだろう」とのことだ。
 ソラは会ったことがないが、ゲームマスターはスポンサーとゲームリーダーの板挟みで常に忙しいらしい。

 ぼんやりしていた割には自分の出番がまだなことを把握できたあたり、たぬきにしては頭がいい。実はポンコツだぬきはたまにわざとポンコツになっているのではないか説まである。
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