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悪役を演じて見せよ!

始まった97回目

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 ガソラペアは指令書の世界に送られてから、早速、タマポンペアと接触を試みてみた。驚くべきことにタマキは自分がゲームの参加者であり、ポンタが自分の相棒であることをすっかり忘れてしまっていた。完全に物語の一部となってしまっていたのだ。そのため、96回の失敗にも関わらず、失敗を活かすこともせず、毎度、物語の最後にひどい目にあっていた。
 しかしながら、幸いなことに、ガソラペアが接触を試みると、タマキはゲームの参加者であることを瞬時に思い出してくれた。彼女の相棒であるポンタはこれから使い魔契約をするため、物語の序盤では登場してこないので、今はいない。97回目は始まったばかりだ。
 
 国お抱えの魔女として君臨したガラムがタマキの家を訪ねると、丁寧にもてなされた。案内されたティーラウンジには紅茶とお茶菓子が用意され、ガラムとタマキはそこで気兼ねなく近況を話し合うことになった。物語のご都合主義でガソラペアとタマキ以外は部屋には誰もいなくなり、話がしやすい。チームの協力プレイ時にはこうした謎の神様パワーが働くことが多い。

 さて、ガラムとタマキ以外いないので、ソラもガラムに用意されたお菓子を食べながら落ち着いて近況を聞いている。ただし、席は用意されておらず、立ちながら食べているため、非常にお行儀が悪い。
「ロバにひかれた乗り物に初めて乗っておもしろい体験になったけど、僕もガラム母さんと一緒に馬車が乗りたかった。なんで、ロバ、意外と機動力あって驚いたし…。いやそもそも、この世界てば、自動車がないんだね。不便すぎる」
「そうだよね、なんていうか時代は地球でいう、中世ヨーロッパらしくって…ちょっと私からしても古いというかなんていうか」
 タマキは地球の日本からのゲーム参加者なので、乙女ゲームの世界に関してはガソラペアよりもかなり詳しい。彼女は、元アラフォーの会社員だった。暇つぶしに、ちょっとだけほんのちょっとだけ、乙女ゲームについてかじったことがあると2人に伝えた。未だ結婚しておらず、心のオアシスを求めてがっつりR18の乙女ゲームをしていたなんて、何となく恥ずかしくて言えなかった。普通のかわいらしいOLだったのに、なぜかもてたことがない。

「あら、何事も経験でしょう。私のほうきに2人乗りしてもよかったのだけどね」
 ガラムは運転するときは性格が変わるたちなので、ソラとしてはできれば2人乗りは避けたい。細い箒に2人乗りで、高速移動とか想像しただけで漏らせる案件だ。いや、箒もアナログだよね、ソラは口が滑りそうになったツッコミを飲み込んだ。
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