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悪役を演じて見せよ!

ポンタの正しい位置は頭の上

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 始業式は粛々と進められている。
 ソラは頭にポンタを乗せて、王子の右隣の席に着席している。たぬきいちは重いが我慢だ。ターゲットの視線は左側のソラにくぎ付けだから、上々の出来といえる。すべては想定通り。あとは、話しかけてもらうのを待つのみだ。

 ヒロインはというと現状放置で問題ない。彼女の入学式は昨日のうちに終わっている。おそらく、その日のうちにヒーローたちとの邂逅は完了しているのだろう。河原で軽く殴り合った後、熱く語り合っている男女の姿が思い浮かんだ。ソラの想像の中の展開が早すぎるが、誰も止めてくれない。彼は暴走特急なのだから。

 始業式が終わり、クラス単位で教室への移動が始まった。しかし、いざ教室に入る手前、ソラは担任の先生に呼び止められて、厳重注意されてしまった。
「ソラ君、きみね、ペットは困るんだよね。まだ召喚の授業始まってないから使い魔ではないよね。もしかして、何かのお金持ちアピールなのかな? 学校は勉強する場所だからね」
「えっ、はっはい。あー、いえ、この子は僕のたった1人の友人なんです」
「そういうのいいから、まったくもう。今日だけだからね」
 担任の言葉にタジタジとなり、ソラのライフはゼロに近くなってしまった。もう王子、今日は話しかけなくていいや。投げやりな気持ちになったせいか、その日は誰とも話せず、放課後が過ぎ去ってしまった。

「だめやん、誰も話しかけてくれなかったし、なんか避けられていた気がするんだけど。なんでどうして」
「どんまい」
 ポンタの慰めの言葉も頭に入ってこなかった。
 どうやらたぬきを頭にのっけていた変なやつ認定されてしまったらしい。ある意味、皆に悪い子と勘違いされているので、悪役令息としてはまずまずの印象操作ができたと前向きに考えることにした。

 翌日、ソラは誰よりも早く教室にたどり着いた。先手必勝、こうなったら、教室に入ってきた生徒には片っ端から先に話しかけてやんよ!
 仲間のポンタはタマキに預けたので、1人で頑張るしかない。でも、シミュレーションは完璧だ。

「おはよー、昨日、茶色の変な動物頭に乗っけていた変な子だよな」
 ソラは黒髪なくるくるパーマの大柄な男子生徒に話しかけられた。
 早速、シミュレーションが瓦解した。先手必勝と思っていたのに後手に回り、話しかけられてしまった。しかも、変な子呼ばわりされている。もうだめだ、戦略的撤退も視野に入れて、帰ったら引きこもろう。そうしよう。諦めかけたその時、奇跡が起きた。

「おはよう、さすがアラン。昨日、気になっていた変なやつに話しかけたのだな」
 変な子ソラに話しかけたアランは王子の知り合いだったようだ。
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