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悪役を演じて見せよ!

査問委員会での先生の受難

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 その日、ソラは担任の先生が学校を辞めるかもしれないという噂話を聞いた。
 
 うり坊大好きな先生は、朝、目が覚めると枕の抜け毛の多さに思わず泣きそうになった。怒涛の12連勤が明けたと思ったら、査問委員会呼び出しがかかり、彼は胃痛のあまり声にならない悲鳴を上げた。

 呼び出しの内容は【湖畔ロープウェイを故意により故障させ、王族への色仕掛け幇助ほうじょもしくは危害を加えようとした嫌疑】が浮かび上がったからだ。というか、ロープウェイ故障の犯人そのものなので、彼はその旨を正直に告白し調書がとられた上、上から下される沙汰を待つことになった。正直者の男である。詳細な事情を確認するため、急遽、査問委員会が開かれることと相成った。

「この度は、白岩先生に対する嫌疑の確認及びその処分を決定する為、査問委員会が設置されることとなりました」
 委員会の進行役の男性が査問委員会設置の主旨を告げる。ソラの担任の先生の名前は白岩だったと判明。

「まず、あなたには王族への色仕掛けの幇助もしくは危害を加えようとした嫌疑がかけられていますが、申し開きはありますか? 学園の授業でこのようなことが発生したため、王族の我々への信頼が著しく損なわれる結果となりました、実に残念なことです」
「申し訳ありません、ですが、私は特定の個人へ色仕掛けの幇助もしくは危害を加えようとする気持ちはありませんでした。ただ、女生徒に殿下と仲良くなりたいと一心に請われ、なぜか手助けしたいと思いロープウェイを止めたことは確かです。…実に軽率でした」
 白岩先生は深々と頭を下げ、涙する。

「それは、その女生徒に懸想けそうしていたということでしょうか?」
 実際はうり坊案件で脅されていたわけだが、それでも毅然として拒否することもできたし、ロープウェイを止めるなどあんな手段をとるような愚行は犯さずに済んだ。あの時は忙しさでわが身を振り返ることもできず、おかしくなっていた自覚はある。

「いいえ、それはありません。申し訳ありません、あの時は忙しすぎて自分でも自分が分からなくなっていた気がします」
「では、反省も加味し、諭旨解雇通告が妥当かと思われますが、反対意見ある方は?」
 論旨解雇とは不祥事などがあった場合に、反省とともに退職を促す処分である。白岩先生は脇腹のあたりをおさえた、胃が痛い、胃薬が必要だったのは先生だった。

 スーツ姿のタンクトップ先生改め、梅岡先生が手を挙げた。
「すみません、たしかに、あの時の白岩先生はおかしかったかもしれませんが、普段の先生はこのような馬鹿なことをすることはありません。どうか厳しい処分は考え直していただけませんか」
「しかし、王族への件もありますしな」
「問題ありません、既に殿下にはロープウェイの件が事故ではなく故意だったことを伝えた上で、示談が成立しております。これまで白岩は、勤務態度も問題ありませんでした。また、子供達を思う気持ちは誰にも負けていないと思います。本件では、減給、降格、謹慎出勤停止が妥当かと」
 教頭先生も弁護についてくれた。実は、教頭先生は王家と縁続きで、ロープウェイの犯人が白岩先生と判明した時点で、すぐさま示談交渉に乗り上げた。教頭先生は情操教育談義をしたときに白岩先生の生徒思いなところを買っていたのだ。それにしても仕事が早い。
 また、被害者エリヤ本人も恐らく白岩は過去の繰り返しの自分同様、何者かに操られているのではないかと判断し、示談に応じた。ロープウェイ会社とも話し合いが始まったばかりだが、エリヤが示談に応じたので、それよりは問題にならなさそうだった。

 こうして、白岩先生は首の皮一枚で教職を続けられることになったのだった。
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