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悪役を演じて見せよ!

悪演のエピローグ

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 その日、アイランは古い友人を訪ねた。顔に似合わず、旧ネシぐるみのストラップを常に愛用のサックスケースにつけている友人。彼はギャルだった妻と結婚し、愛妻家で有名でもある。

 古い友人を訪ねたら、その友人との共通の友人を思い出した。忘れることのできない、もう会うことのできない友人だ。彼は、自分を初めて出来た友人だと言っていた、自分にとっても彼が初めて出来た友人だったと思う。

 渋いと散々馬鹿にされた趣味を笑うこともなく、一緒に歌を歌ったり、スイカ割りをしたり、たくさんの楽しい思い出が作れた。自分の孫と同じ位の時に出会った彼は今どうしているだろうか…、たまに思い出すと少し切なくなる。

 帰り道、ふっと盆栽美術館によってみた。あそこの五葉松は未だ朽ちることなく、歳を重ねている。不思議な五葉松は不思議と友人を思い起こした。

 窓からの柔らかな光を浴びて、白く枯れた部分は美しく輝き、生きている部分は雄々しく未だ脈打っている。アイランが瞬きすると、館内なのにひょろっとした風のいたずらが起こった。

 さようならは言わなかった、またきっと会えるとは思えないけど、忘れない。
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