DRAGGY!ードラギィ!ー【フラップ編(リライト)2/18連載開始!】

Sirocos(シロコス)

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〈フレデリック/しろさん編〉

第四話『ルドルフのアジト』 1

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    『その黒猫は、彼とおなじように、二本足だけでゆうゆうと歩き、
           そして、白衣を身につけていた。』 

**************************************

 ――話はかわる。

 わしはその日、一台の小さなメカを白昼堂々はくちゅうどうどうと走らせていた。

 人通りのない、町なかの暗い裏路地うらろじ
そのすみっこの排水溝はいすいこうのうえを、音もなく、気配もなく、
小さなシノビのようにちょろちょろと走る白い影。

 正体は、その名も『どこでもぜんまいネズミ』。

 金のぜんまいはついているが、これはただのかざりで、実際じっさいはオート走行だ。
特殊なタイヤが一台だけついており、こいつが無音での走行を実現しているのだ。
しかも、こいつの目はカメラであり、記録した映像をそのままラボに送ってくれる。


 ぜんまいネズミの目は、へいの上を歩く一匹の野良猫のあとを追っていた。


 そいつは、全身もじゃもじゃとした真っ黒い毛におおわれた、大柄おおがらな黒猫だった。
目は大きくつりあがり、金色の中に真っ黒な瞳孔どうこうをひらいている。


 黒猫は、しめしめ、やはりこちらの動きに気づいてもいない。
ふさふさなしっぽをゆうゆうとゆらし、四足歩行しそくほこうでのんびり歩いている。

 すると突然、黒猫がぴょんと、へいの上からびおりて、
左の横道へと入っていった。

 わしのぜんまいネズミは、すぐさまあとを追った。

 その先は行き止まりだった。黒猫は、つきあたりの前で止まっていた。

 黒猫の目の前には、マンホールがあった。猫が丸ごと一匹とおれるサイズだ。


 するとその時だ。黒猫が、すっくと立ちあがった。後ろあしだけで立ったのだ。

 黒猫は、ネズミのわしにも分かる猫の言葉で、いきなりこう口走った。


「――耳の穴から手ぇつっこんで、ぁガタガタいわしにきたでぇー!」


 すると、マンホールのふたが、ガタンッ! と音を立てて、すこし下がった。
黒猫は飛びのく様子もなく、ゆう然とふたの上にび乗った。

 次の瞬間しゅんかん、ふたが地面のそこへと下がりだした。まるでエレベーターだ。

 ぜんまいネズミは、後れをとるまいと走り出し、
マンホールの丸いカベにそうように垂直すいちょく走行でもぐっていった。

 *

 侵入しんにゅうした先は、
ガラクタやトタンいたにかこまれた、うすぐらい広間ひろまのような場所ばしょ
こぎたないガレージのようにほこりっぽく、清掃せいそうがまったくいきとどいていない。
そんな広間に、何十匹もの猫があつまって、
鉄骨てっこつや細いパイプをつみあげて作られた演壇えんだんをむいていた。

 その演壇えんだんに今、一匹の大きな黒猫がのっそりとあがった。
先ほどまで追いかけていた、あの黒猫だ。


 しかし、今はおどろくべきことに、その黒猫はグレーのコートをていた。
どこぞのペットでもないのに、コートなんぞをはおっている。
おまけに、黄色きいろのネクタイまでくびにまいている。いつにつけたのやら。
あんなにもじゃもじゃとした品のない黒毛なのに、服装ふくそうはりっぱである。


 そしてなんと、そいつは二本の後ろ脚だけで立っているのだ。
わしとおなじで、人間にんんげんのマネをしているのである。


 見たところ、まわりの猫たちはやつの子分こぶんらしい。
この黒猫をしたって尊敬そんけいしているのか、それとも――?


珍生物ちんせいぶつコレクター・ルドルフ様の参上さんじょうや!
みんな、今日はようあつまってくれたな」


 壇上だんじょうにあがった黒猫は、力強い関西弁かんさいべんで猫たちを歓迎かんげいした。
こいつの名前はルドルフ。ここは、やつの知られざる秘密ひみつのアジトだ。

 わしのぜんまいネズミは、部屋へやのカベのかたすみにはりついたまま、
この光景をその目で静かに記録していた。


「今日あつまってもろたのは、ほかでもない。
ドラギィたちをつかまえる新しい作戦を思いついたんや、これが!」

「へい、ボス!」子分のひとりが手をあげた。

「おう、なんやサブローくん?」

「その新しい作戦ゆうのは、いったいなんですのん?」

「ふっふっふっ。
じつは昨日なあ、三丁目のおばはん家のあつーいお風呂に入れさしてもろた時に、
お湯の激熱パワーでピコーンとひらめいたんや!」

 ルドルフは、ここ〈うさみ町〉でも有名ゆうめいなボス猫だが、
町の人間たちからもだいぶ愛されている野良猫だった。
エサをくれる人間は大勢おおぜいいるし、
中には、自宅じたく風呂ふろにつれこんで、おけにおを入れてやる人間もいる。

 そうやって、町じゅうでちやほやされている黒猫が、
まさかこんなところにうさみ町の野良猫どもをあつめて、
珍生物をあつめる秘密結社ひみつけっしゃをつくっていたとは、だれもゆめにも思うまい。

 ルドルフは、思いついたばかりのろくでもない作戦さくせんを、
嬉々ききとして語りはじめた。

「ドラギィたちは、よく深い人間どもの目ぇかられるために、
あのレン少年の家にかくまわれとるっちゅーのは、みんな知っとるやろ」

 子分たちは、いっせいに頭を縦にふった。

「そのレン少年の家の屋上にやな……ワイらから特製とくせいカレーを設置したろ思うんや!
一口食べたら、もんどりうって気絶してまうような香辛料こうしんりょうをきかせた、
最高さいこう激辛げきからカレーをな! ハバネ~ロ~。ブート・ジョロ~キア~」

「ボス! なんでカレーですのん?」と、子分のひとりがたずねてきた。

「分からんのかいな。レン少年の家は、カレー屋をやっとるさかい。
ドラギィたちも、日ごろから食べさしてもろて、大好物だいこうぶつになっとるはずや」

 そこは間違まちがいではない。あの三匹は、いまや全員カレー好きだ。
フラップの別人格べつじんかくであるブリーチもまた、
「こいつはえるようなウマさだ!」といって、タイヘン気に入っている。

「そこで、今回の作戦!
カレーのにおいが部屋の外からやってきたら、気になって出てくるやろ。で、
あいつらは、ワイらの特製カレーのさら見つけて、さっそくスプーンでパクッ!
すると、体じゅうがしびれるようなからさにやられて、三匹はバッタンキュ~!
火ぃふいたまま、気絶きぜつしてまうやろなあ、もしかしたら。
そこをすかさず、隠れてたワイらでがばっと捕獲ほかく! という作戦やで」

「あのう、そのカレーは、ボスがみずからつくらはるんですか?」

「いやあ、ワイは料理でけへんさかい、得意とくいなもんにまかせよう思うとる」

 ルドルフは、小バエをふりはらうようなしぐさをしながら答えた。

「これは、今までで一番かんたんで確実かくじつな作戦や思うとるが、どうや?」


 ウーン……。

 子分たちから、歯切はぎれの悪い反応はんのうがかえってきた。



「それはさすがに、ワナだと見破みやぶられてしまうのではないですか?」



 ふいに、広間のすみからきれいな声がやってきた。
見ると、おく鋼鉄こうてつのドアをひらいて部屋にやってくる、
一匹のすらっとした黒猫の姿すがたがあった。

「それに、ルドルフ様らしい派手ハデさがかけているように思えます。
いつもならもっと手のこんだ、計画的けいかくてきでゴキゲンな手段しゅだんをこうじられるのに。
部下のみなさまは、それがお気にさないのではありませんか?」

 子分の猫たちが、みんないっせいに色気いろけづいた。

 その黒猫は、彼とおなじように、二本足だけでゆうゆうと歩き、
そして、白衣を身につけていた。頭にはえた少量しょうりょうの白い毛はきれいにセットされ、
知的感性ちてきかんせい印象いんしょうづけさせるボストン型の金ぶちメガネをかけている。
全身の黒毛は、黒というよりややむらさきがかった感じが見受けられた。

 雰囲気ふんいきからして、どうやらメス猫のようだ。

 ルドルフが、壇上だんじょうから両手を横にひろげて歓迎かんげいする。

「おお~、よう来てくれたなあ、ビオラ博士。
お前が登場してくれたおかげで、ワイのステージがええ具合ぐあいはなやかになるで。
ささ、こっちまであがってきてくれや、マイハニー♡」

 ビオラとよばれた黒猫は、小さくため息をついてから、
もううんざりだといいたげな顔でこういった。

は、おやめくださいませ」
 
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