DRAGGY!ードラギィ!ー【フレデリック編連載中!】

Sirocos(シロコス)

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①〈フラップ編〉

7『白いからといって、白いやつと呼んではいけない』②

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フレデリック・ラボの中は、レンの想像をはるかに上回るような空間でした。
未来の宇宙船の中というべきか、巨大な工場というべきか。

見上げるような天井の、広々とした研究室。
そこで働いているのは、白衣をまとった大勢の白ネズミ。
無数の設計書や、泡と湯気ふくフラスコがならぶ中央テーブルをかこんで、
それぞれの研究対象とにらみあったり、小さな声で相談しあったり。
またあるものは、レポートを片手に、美味しそうなチーズをほおばっていたり。
他にも、用途のまったく分からないたくさんの機械が、
ホールのそこかしこに設置されていて、ゴウンゴウンとうなり声を上げていたり、
チカチカチカ、と規則的にランプを灯したりしているのです。

ラボドアは、異なる空間と空間をつなぐゲートだったのでしょうか。
レンとフラップが、ラボの光景に混乱しているのをよそに、
ネズミ博士は、ネズミ研究員たちにむかって高らかに声をかけました。

「ごきげんよう、諸君!  わしに注目するのじゃあ!」

ホールで働いていたネズミたちの目が、さっと博士のほうへ集中しました。

「おのおの、研究に精を出しているところすまぬが、
ここに新たな研究テーマが決定したのである!
当面はみな、こちらの研究を最優先事項として、取り組んでもらいたい」

ネズミ博士は、横に立っていたフラップの肩に手を置いて、こう言いました。

「すなわち、ここにいるドラギィという生物の研究であーる!!」

なんと勝手極まりないフレデリック博士なのでしょう。
まだ何一つ許していないのに、さっさとフラップを研究対象にしてしまうとは。
しかも、こんなに大勢のネズミたちを巻きこんで。

「ちょ、ちょっと待って!」レンはあわてて抗議しました。
「ぼくたち、まだなんにも相談してないじゃないか」

「そうですよう。ぼく、みなさんの研究テーマにされちゃうと、
修行してる時間が無くなっちゃうじゃないですかぁ!」

「ふむ」ネズミ博士は、分かっているとばかりにうなずきました。

「心配いらぬわ。悪いようにはせん。このわしに、おぬしを研究させよ。
さすれば、わしの研究成果の恩恵にあずからせてやろうではないか」

それはつまり、どういうことなのでしょう。
レンとフラップは、あぜんとしてたがいに顔を見合わせました。

「フラップよ。わしは至高のチーズと、この世の不思議を解き明かす者。
幾多の生物を目にしてきたが、おぬしはとりわけ摩訶不思議じゃ。
そんなおぬしに、わしは心からほれてしもうた!
ここは一つ、おぬしのいう修行とやらを、手助けしてやろうぞ」

「えっ……ぼくを、助けてくれるんですか?」

「そうじゃ。こんな見ず知らずのネズ公が、いきなり押しかけて、白衣まとって、
このように大層なラボを見せつけておいて、でかい顔などしてはおれん。
レンがドラギィを世間の目に触れさせまいとするなら、わしもそれを守ろう。
人様の厄介になるからには、持ちつ持たれつの関係を築かねばな」

もう充分、でかい顔をしているように見えますが、
このネズミ博士は、どうやらとても気のいい博士のようです。
フレデリック博士の、こぼれるような笑顔がその証でした。

「レンくん。せっかくですからぼく、この子の協力がほしいです。
悪いようにはしないって、彼も言ってるんですから」

フラップがもう気を許しています――反発する気配なんてどこにもありません。
レンはまだネズミ博士を信じ切れず、「けどさぁ……」と不祥な声をもらします。

「はぁ~」

博士がじれったそうなため息をつきました。

「やむを得ぬのう……こまつ君、カモン!」

博士に呼ばれて、一匹の若そうなネズミが中央テーブルからやってきました。
その手には、扇型に切り分けたチーズを二切れのせたお皿が。
表面は雪のように白く、中はチェダーのごとくとろけた淡黄色です。
ちょっとしたチーズケーキのようなサイズ感で、
レンもなんだか一口味わってみたくなるような魅力がありました。

「かくなるうえは、わしの最高傑作を味わってもらう他あるまい。
わがフレデリック・ラボ自慢の一品、『ザ・天竺てんじくチーズ』じゃ。
これを食えば、わしと契約を結びたくなること請け合い!
遠慮はいらんぞ。ほんの挨拶代わりじゃ。今後も好きな時に食わしてやる」

まさかの、食べ物で釣る作戦です。なりふり構わないということでしょうか。

「わぁっ、いただきまあす!  レンくん、食べてみましょうよ」

フラップが言われるままにチーズに手を伸ばします。
レンも、さすがに食べなきゃ失礼に当たると自分に言い聞かせつつも、
すすんでチーズをパクリ。

「ああ~、とろけますぅ~!  天にも昇るまろやかさ……モグモグ」

フラップの言う通りです。こんなに美味しいチーズは生まれてはじめて!
もしかすると、内心ネズミという生き物をバカにしていたのかもしれません。
そこまで分かってから、レンはふと考えてみました。
ふたりきりの夢の暮らしを、他人に踏みこまれるのは嫌でしたが、
自分一人でフラップの修行を手伝ってあげられるとは思えません。

「……そんなに、モグモグ、言うんなら、モグモグ、
別に、いてもらってもいいよ……ゴックン。ぼくの部屋に」

「ホ、ホントじゃな?  ホントのホントにいいんじゃな?  嘘ではないな!?」

「その代わりさ、やっぱり『フレデリック博士』なんて呼ぶのメンドーだから、
『しろさん』って呼ばせてもらっていいかな。それなら、仲よくしてあげるから」

ネズミ博士は、少しばかり困惑したように目をそらしましたが、

「あーもう!  仕方あるまい。好きに呼んでもらって構わん……」

「わぁいっ!  よろしくお願いしますね、しろさん!」

フラップが嬉しさにしっぽをふりふりして、博士をぎゅっと抱きしめます。

こうして、レンの明るい部屋に、また新しい友達が増えたのでした。
唐突ではあったものの、いい出来事とは、
立て続けに自分の元へやってくることもあるのです。
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