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②〈フリーナ編〉
3『ひとりでがんばりすぎると、仲間がほしくなる』
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(なんだ、これは!!)
異空界の光景がレンにあたえた衝撃は、どれほどの強さだったでしょう?
空が……頭上に広がっているはずの大空が、レンたちの下にありました。
しかし、普段見上げるような空の青さではなく、
代わりに、ピンク色の空と、黄色い雲がありました。
まるで、宇宙すべてのいちごミルクが地上全土に降りそそぎ、街を呑みこみ、
そこに大量のレモン味の綿あめを浮かべたような――
そんな胸やけしそうな景色が、野放図に広がっていたのです。
そのくせ、空気中の匂いは鉄っぽく、触れる風もいやに生ぬるいのでした。
まるで、地下鉄のホームにいるかのような――。
ガタンゴトン、ガタンゴトン、ガタンゴトン……!
レンとフラップの左右を、
すさまじいジョイント音を響かせながら追い越していく、
巨大な鉄の箱の列がありました。
電車です!
長い長い城壁のような電車が、宙に敷かれたレールの上を、
架線もなしに前進していくではありませんか。
どこへむかっているのでしょう?
ひたすら世界の果てを目指しているようにも見えますが――。
ふと見上げれば、さらに驚くべき光景が。
上空には、数えきれない本数のレールが伸び広がっていて、
からみ合う都会の路線図のように幾重にも連なっているのです。
おびただしい数の列車が、模型のようにその路線図の上をもくもくと走り、
その走行音すべてが、この異空界全体の空気を、深く、軽快に震わせています。
どこかのだれか……鉄道マニアの頭の中でしょうか――
そんな世界に、レンとフラップは、ただ二つの異質な存在として、
うっかりお邪魔してしまったかのようでした。
「ここは、レンくんが暮らす世界の〈裏側〉にあたる世界!」
「裏側の、世界ぃ!?」
まだ自室のベッドで夢を見ているのなら、説明がつきます。
しかし、この生々しいまでの感触……
これは、たしかに実在している風景なのでした。
「本物の電車ですね! 間近で見たの、はじめてですよう、ぼく!
――あのね、裏側の世界とその入り口は、
宝石の破片みたいにあちこち散らばっていて、
一つ一つがいろいろと違う空間になってるんですよ!」
異世界みたいにとらえればいいのでしょうか?
さまざまな世界が存在するなんて、考えるだけでワクワクしてきます。
「フラップ! もしかして、こういう世界にくわしいの!?」
「くわしくて当然ですよう! なぜなら――」
なぜならば……?
「スカイランドはここと同じで、裏側の世界にあるんですから!」
……そうか。なるほど、そうだったんだ!
レンは、長らく胸に抱いていた疑問を、ようやく解決させました。
(今まで、スカイランドが人間に見つかったことがないのは、
そういう理由だったんだ)
しろさんは、ここと似たようなフシギ空間が世界各地に存在することを、
知っているのかとたずねてみたところ、フラップは、
「ぼくがそれを本人に聞いたら、威張られちゃいましたよ!
『この世の不思議を解き明かし、科学に応用せんとするこのフレデリック博士が、
裏側の世界を知らんとでも思ったか!』って」
「しろさんも知ってるの!? こんな空間があるってこと!」
この世の外側まですでに知っている――やはり、しろさんは侮れない存在です。
どおりで、チヂミガンやら、早着がえボールやら、
とんでもない発明品を作れるわけです。
「――レンくん! もうそろそろ出口ですよ!
ここは、離れた場所と場所をつなぐ〈近道〉ですから、
普通より何倍も早く、駅前につけるはずです!」
ふたりの目の前に、先ほどと同じような光り輝く〈異界穴〉が出現しました。
光の出口は、あっという間にふたりを飲みこんでしまいました――。
*
そこはもう、うさみ町駅の駅前ロータリーの目の前でした。
レンとフラップは、ロータリー前の建物の間にある狭い横道にいて、
ロータリーのむこう側にある駅の階段をながめていました。
「あ! もう三人がいる! ぼくのことを待っててくれてる!」
レンはフラップの背中から道路に降ろしてもらうと、
チヂミガンを撃ってもらって、あっという間に元の大きさに戻りました。
「ありがとう、フラップ。キミがあんな能力まで持ってたなんて。
しかも、思いがけない秘密……というか、
この世界の秘密みたいなのを知れてよかったな!」
まだ自分の目で見たものが信じ切れず、頭がクラクラしているレンに、
フラップはにっこりとして言いました。
「さあ、せっかく近道できたんですから、早く早く。
気をつけていってらっしゃい」
「うん。フラップも、人目につかないよう気をつけて家に戻るんだよ」
それだけ伝えると、レンはユカたちのところへ駆けていきました。
「――おっ、レンが来た! コラァ、時間ギリギリー!」
「めずらしいね、レンが集合時間の間際になって着くなんて」
ジュンとタクが、駆けてくるレンの姿を見つけて声をかけます。
レンは、事もなげな笑顔をつくろい、三人の前に立ちました。
「ふう! 間に合ってよかった!
いやさ、じつのところ、遅刻しちゃうんじゃないかとハラハラしてたんだ」
「――レンくん、ひょっとしてお寝坊しちゃったの?」
と、ユカがたずねてきました。
「えっ、あ、いや……そんなことないよ。
ちょっと、お店の掃除を手伝ってたら、いつの間にか時間が迫っててさ」
あははは……と恥ずかしげに後頭部をかいてみせましたが、もちろん嘘でした。
好きな女の子の前では、どうしても格好つけたいですものね。
「なーんか嘘っぽいよな、レン? ホントは寝坊したんだろ~?」
「ぼくたち、仲間はずれかな?
飼っている秘密のペットが気がかりで、様子を見に行ってたんでしょ?」
さすがはジュンとタクです。レンのことは熟知しています。
「そ、そんなことないってば!
さ、ほら、早く行こうって。今日はいろいろ見て回るんだから」
レンは、疑いを振り払うように、先導して歩き出しました。
それを見たジュンとタクは、したやったりな顔でクスクスと笑い、
ユカは、面白いような、困ったような、複雑な顔をするのでした。
「……友達。仲間、かあ」
フラップは、ビルの間の袖看板の裏に隠れつつ、その光景を見ていました。
その胸になぜだかこみ上げてくる、いやにさみしい気持ちを噛みしめながら。
*
時刻は、夕方の五時を刻んだところです。
部屋の本棚の奥から、しろさんがラボドアをくぐってやってきました。
ふう、と一息して、白衣のすそで額をぬぐいます。
研究の合間の休憩でしょうか。
「この間改めてスキャンした、フラップの肉体データ……
何度やっても解明しきれない器官があるのう。
あそこには間違いなく、フラップに秘められた底力の源が――」
ガチャ。
つと部屋のドアが開き、レンが入ってきました。
「ただいまー。フラップ、しろさん」
「おう、帰ったか、レン。今朝はやはり、バタバタしてたみたいじゃのう」
レンは、床にいたしろさんを見つけるなり、
彼の右手に乗せて、話をはじめました。
「今日は、みんなと博物館でさ、恐竜の化石をたくさん見てきたんだ。
プテラノドンの化石も見たよ。飛竜の骨って、あんなに細かったんだね。
ドラギィの骨も、もしかして細いのかな?
あーでも、昼間急に天気が悪くなってさ、何度も雷が鳴って怖かったな。
雨には降られなかったからよかったけど。あ、それからね――」
「あー、レンよ。話している途中ですまん。ほれ、フラップが……」
「フラップが、なに?」
フラップは、レンのベッドのそばの、出窓カウンターにちょこんと座っていました。
窓に映る一軒家の屋根のむこうに黄金色の夕陽が沈んでいくのを、
何もせず、ただぼんやりと見つめています。
その後ろ姿には、いつになく哀愁がただよっていました。
「フラップ、元気ないね?」
レンが声をかけると、フラップはやっとこちらを振り返りました。
泣いているようでした。
頬を伝う涙が、暮れゆく金色の夕陽の光に、切なくきらめいています。
「……お友達とは、楽しく過ごせたみたいですね。よかったです……」
全然よさそうな表情には見えません。
悲しそうであり、どこか悔しそうでもあり――。
「う、うん。楽しかったけど……何かあった?」
「いえ、べつに……なんにもないですよ。
あの後、他の人間にも見つからなかったですし。
……ただ、ぼくはひとりぼっちなんだなって、気づいただけです」
フラップが突拍子もないことを言い出すものだから、
レンは、頭の中にはてなマークが大量に浮かび上がりました。
「ひとりぼっちって……どうしてそんな? ぼくや、しろさんがいるのに……」
「そういう意味じゃなくて。…………」
何かを言いよどんだまま、涙を指でぬぐうと、
フラップは、また窓のむこうをむいてしまいました。
「……ごめんなさい。ぼくのことは放っておいてください」
レンは、机の前に腰かけて、もんもんとしながら頬杖をつきました。
「なんだよ、もう……はっきり言ってくれなきゃ、わかんないよ」
「今朝、おぬしのところから戻って以来、ずっとあの調子じゃ」
しろさんが、机の上で腕組みをしながら言いました。
「わしにもくわしいことは何も話さなんだ。ただ、放っておいてくれと言ってな。
よほど悩んでいることがあると見えるが、まあ、そのうち話してくれるじゃろ。
それまでわしらは、無理に声をかけてやらぬようにしよう。
ああいう場合は、下手に気づかうのもよくないしのう」
「そんなこと言われても、気になってしょうがないよ」
「そういう場合は、テレビでも観るのがええじゃろう!
ほれ、わしはいつも、このネズミパッドを携帯しておってな」
しろさんは、白衣の内ポケットから、ネズミサイズのタブレット端末を取り出すと、
ちょちょいと指で操作して、テレビを起動させました。
『――続いてのニュースです。本日の昼頃、みらい町の上空で、
謎の飛行生物が、またも目撃されました。
目撃者の証言によりますと、その生物は、ビル群の上空を飛行しながら、
激しく放電し、時折、上空に発生した雷雲から、
避雷針のように落雷を引き寄せていたとのことです。
こちらは、当時、歩行者によって撮影された映像になります』
「みらい町――今日、おぬしがうろついていた場所ではないか?」
映し出された映像には、翼らしいものを羽ばたかせた生物が、
ビル群の上空を飛び回りながら、
バチバチとすさまじい電気を放っている様子が、たしかに映っていました。
しかし、距離がかなり離れていたし、放電の光のせいもあって、
生物の姿がはっきりとらえられたわけではありませんでした。
「放電する飛行生物……何度見てもじつにケッタイじゃな!
近くで調べてみたいが、かなり身の危険を感じるのう。
警察や自衛隊も、この異例の生命体に、
どう対応すべきかいまだ迷っておるようじゃ。
何せ、人間に危害を加えるでもなく、
現れてはすぐ忽然と姿を消してしまうというからのう」
「このニュース、ぼくも最近気になってるんだ。いったいなんだろうね」
レンは、この話にフラップが食いつきやしないかと、彼のほうを見ました。
けれどもフラップは、やっぱり微動だにしなかったのです。
異空界の光景がレンにあたえた衝撃は、どれほどの強さだったでしょう?
空が……頭上に広がっているはずの大空が、レンたちの下にありました。
しかし、普段見上げるような空の青さではなく、
代わりに、ピンク色の空と、黄色い雲がありました。
まるで、宇宙すべてのいちごミルクが地上全土に降りそそぎ、街を呑みこみ、
そこに大量のレモン味の綿あめを浮かべたような――
そんな胸やけしそうな景色が、野放図に広がっていたのです。
そのくせ、空気中の匂いは鉄っぽく、触れる風もいやに生ぬるいのでした。
まるで、地下鉄のホームにいるかのような――。
ガタンゴトン、ガタンゴトン、ガタンゴトン……!
レンとフラップの左右を、
すさまじいジョイント音を響かせながら追い越していく、
巨大な鉄の箱の列がありました。
電車です!
長い長い城壁のような電車が、宙に敷かれたレールの上を、
架線もなしに前進していくではありませんか。
どこへむかっているのでしょう?
ひたすら世界の果てを目指しているようにも見えますが――。
ふと見上げれば、さらに驚くべき光景が。
上空には、数えきれない本数のレールが伸び広がっていて、
からみ合う都会の路線図のように幾重にも連なっているのです。
おびただしい数の列車が、模型のようにその路線図の上をもくもくと走り、
その走行音すべてが、この異空界全体の空気を、深く、軽快に震わせています。
どこかのだれか……鉄道マニアの頭の中でしょうか――
そんな世界に、レンとフラップは、ただ二つの異質な存在として、
うっかりお邪魔してしまったかのようでした。
「ここは、レンくんが暮らす世界の〈裏側〉にあたる世界!」
「裏側の、世界ぃ!?」
まだ自室のベッドで夢を見ているのなら、説明がつきます。
しかし、この生々しいまでの感触……
これは、たしかに実在している風景なのでした。
「本物の電車ですね! 間近で見たの、はじめてですよう、ぼく!
――あのね、裏側の世界とその入り口は、
宝石の破片みたいにあちこち散らばっていて、
一つ一つがいろいろと違う空間になってるんですよ!」
異世界みたいにとらえればいいのでしょうか?
さまざまな世界が存在するなんて、考えるだけでワクワクしてきます。
「フラップ! もしかして、こういう世界にくわしいの!?」
「くわしくて当然ですよう! なぜなら――」
なぜならば……?
「スカイランドはここと同じで、裏側の世界にあるんですから!」
……そうか。なるほど、そうだったんだ!
レンは、長らく胸に抱いていた疑問を、ようやく解決させました。
(今まで、スカイランドが人間に見つかったことがないのは、
そういう理由だったんだ)
しろさんは、ここと似たようなフシギ空間が世界各地に存在することを、
知っているのかとたずねてみたところ、フラップは、
「ぼくがそれを本人に聞いたら、威張られちゃいましたよ!
『この世の不思議を解き明かし、科学に応用せんとするこのフレデリック博士が、
裏側の世界を知らんとでも思ったか!』って」
「しろさんも知ってるの!? こんな空間があるってこと!」
この世の外側まですでに知っている――やはり、しろさんは侮れない存在です。
どおりで、チヂミガンやら、早着がえボールやら、
とんでもない発明品を作れるわけです。
「――レンくん! もうそろそろ出口ですよ!
ここは、離れた場所と場所をつなぐ〈近道〉ですから、
普通より何倍も早く、駅前につけるはずです!」
ふたりの目の前に、先ほどと同じような光り輝く〈異界穴〉が出現しました。
光の出口は、あっという間にふたりを飲みこんでしまいました――。
*
そこはもう、うさみ町駅の駅前ロータリーの目の前でした。
レンとフラップは、ロータリー前の建物の間にある狭い横道にいて、
ロータリーのむこう側にある駅の階段をながめていました。
「あ! もう三人がいる! ぼくのことを待っててくれてる!」
レンはフラップの背中から道路に降ろしてもらうと、
チヂミガンを撃ってもらって、あっという間に元の大きさに戻りました。
「ありがとう、フラップ。キミがあんな能力まで持ってたなんて。
しかも、思いがけない秘密……というか、
この世界の秘密みたいなのを知れてよかったな!」
まだ自分の目で見たものが信じ切れず、頭がクラクラしているレンに、
フラップはにっこりとして言いました。
「さあ、せっかく近道できたんですから、早く早く。
気をつけていってらっしゃい」
「うん。フラップも、人目につかないよう気をつけて家に戻るんだよ」
それだけ伝えると、レンはユカたちのところへ駆けていきました。
「――おっ、レンが来た! コラァ、時間ギリギリー!」
「めずらしいね、レンが集合時間の間際になって着くなんて」
ジュンとタクが、駆けてくるレンの姿を見つけて声をかけます。
レンは、事もなげな笑顔をつくろい、三人の前に立ちました。
「ふう! 間に合ってよかった!
いやさ、じつのところ、遅刻しちゃうんじゃないかとハラハラしてたんだ」
「――レンくん、ひょっとしてお寝坊しちゃったの?」
と、ユカがたずねてきました。
「えっ、あ、いや……そんなことないよ。
ちょっと、お店の掃除を手伝ってたら、いつの間にか時間が迫っててさ」
あははは……と恥ずかしげに後頭部をかいてみせましたが、もちろん嘘でした。
好きな女の子の前では、どうしても格好つけたいですものね。
「なーんか嘘っぽいよな、レン? ホントは寝坊したんだろ~?」
「ぼくたち、仲間はずれかな?
飼っている秘密のペットが気がかりで、様子を見に行ってたんでしょ?」
さすがはジュンとタクです。レンのことは熟知しています。
「そ、そんなことないってば!
さ、ほら、早く行こうって。今日はいろいろ見て回るんだから」
レンは、疑いを振り払うように、先導して歩き出しました。
それを見たジュンとタクは、したやったりな顔でクスクスと笑い、
ユカは、面白いような、困ったような、複雑な顔をするのでした。
「……友達。仲間、かあ」
フラップは、ビルの間の袖看板の裏に隠れつつ、その光景を見ていました。
その胸になぜだかこみ上げてくる、いやにさみしい気持ちを噛みしめながら。
*
時刻は、夕方の五時を刻んだところです。
部屋の本棚の奥から、しろさんがラボドアをくぐってやってきました。
ふう、と一息して、白衣のすそで額をぬぐいます。
研究の合間の休憩でしょうか。
「この間改めてスキャンした、フラップの肉体データ……
何度やっても解明しきれない器官があるのう。
あそこには間違いなく、フラップに秘められた底力の源が――」
ガチャ。
つと部屋のドアが開き、レンが入ってきました。
「ただいまー。フラップ、しろさん」
「おう、帰ったか、レン。今朝はやはり、バタバタしてたみたいじゃのう」
レンは、床にいたしろさんを見つけるなり、
彼の右手に乗せて、話をはじめました。
「今日は、みんなと博物館でさ、恐竜の化石をたくさん見てきたんだ。
プテラノドンの化石も見たよ。飛竜の骨って、あんなに細かったんだね。
ドラギィの骨も、もしかして細いのかな?
あーでも、昼間急に天気が悪くなってさ、何度も雷が鳴って怖かったな。
雨には降られなかったからよかったけど。あ、それからね――」
「あー、レンよ。話している途中ですまん。ほれ、フラップが……」
「フラップが、なに?」
フラップは、レンのベッドのそばの、出窓カウンターにちょこんと座っていました。
窓に映る一軒家の屋根のむこうに黄金色の夕陽が沈んでいくのを、
何もせず、ただぼんやりと見つめています。
その後ろ姿には、いつになく哀愁がただよっていました。
「フラップ、元気ないね?」
レンが声をかけると、フラップはやっとこちらを振り返りました。
泣いているようでした。
頬を伝う涙が、暮れゆく金色の夕陽の光に、切なくきらめいています。
「……お友達とは、楽しく過ごせたみたいですね。よかったです……」
全然よさそうな表情には見えません。
悲しそうであり、どこか悔しそうでもあり――。
「う、うん。楽しかったけど……何かあった?」
「いえ、べつに……なんにもないですよ。
あの後、他の人間にも見つからなかったですし。
……ただ、ぼくはひとりぼっちなんだなって、気づいただけです」
フラップが突拍子もないことを言い出すものだから、
レンは、頭の中にはてなマークが大量に浮かび上がりました。
「ひとりぼっちって……どうしてそんな? ぼくや、しろさんがいるのに……」
「そういう意味じゃなくて。…………」
何かを言いよどんだまま、涙を指でぬぐうと、
フラップは、また窓のむこうをむいてしまいました。
「……ごめんなさい。ぼくのことは放っておいてください」
レンは、机の前に腰かけて、もんもんとしながら頬杖をつきました。
「なんだよ、もう……はっきり言ってくれなきゃ、わかんないよ」
「今朝、おぬしのところから戻って以来、ずっとあの調子じゃ」
しろさんが、机の上で腕組みをしながら言いました。
「わしにもくわしいことは何も話さなんだ。ただ、放っておいてくれと言ってな。
よほど悩んでいることがあると見えるが、まあ、そのうち話してくれるじゃろ。
それまでわしらは、無理に声をかけてやらぬようにしよう。
ああいう場合は、下手に気づかうのもよくないしのう」
「そんなこと言われても、気になってしょうがないよ」
「そういう場合は、テレビでも観るのがええじゃろう!
ほれ、わしはいつも、このネズミパッドを携帯しておってな」
しろさんは、白衣の内ポケットから、ネズミサイズのタブレット端末を取り出すと、
ちょちょいと指で操作して、テレビを起動させました。
『――続いてのニュースです。本日の昼頃、みらい町の上空で、
謎の飛行生物が、またも目撃されました。
目撃者の証言によりますと、その生物は、ビル群の上空を飛行しながら、
激しく放電し、時折、上空に発生した雷雲から、
避雷針のように落雷を引き寄せていたとのことです。
こちらは、当時、歩行者によって撮影された映像になります』
「みらい町――今日、おぬしがうろついていた場所ではないか?」
映し出された映像には、翼らしいものを羽ばたかせた生物が、
ビル群の上空を飛び回りながら、
バチバチとすさまじい電気を放っている様子が、たしかに映っていました。
しかし、距離がかなり離れていたし、放電の光のせいもあって、
生物の姿がはっきりとらえられたわけではありませんでした。
「放電する飛行生物……何度見てもじつにケッタイじゃな!
近くで調べてみたいが、かなり身の危険を感じるのう。
警察や自衛隊も、この異例の生命体に、
どう対応すべきかいまだ迷っておるようじゃ。
何せ、人間に危害を加えるでもなく、
現れてはすぐ忽然と姿を消してしまうというからのう」
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