DRAGGY!ードラギィ!ー【フレデリック編連載中!】

Sirocos(シロコス)

文字の大きさ
34 / 145
②〈フリーナ編〉

7『友達を驚かす手は、一度に三手以上あるとすごい』

しおりを挟む
レンは、内心焦っていました。
フラップの元気がなくなって、もう三日が経ちます。
いくらレンやしろさんが呼びかけても、今やろくに返事を返しません。
ただ、力なく笑顔を返すだけ……。


今日は祝日。学校はお休みです。
レンは、最近耳にしなくなった例の放電飛行生物の行方を追うべく、
みらい町まで聞きこみ調査に出かけようとしていました。

「レンよ、本当に行くのか?
あれが本当にドラギィだという保証などないんじゃぞ」

レンの右肩に乗っていたしろさんが、
バッグに手帳やみらい町の地図をしまっていたレンに聞きます。

「だって、自分と同じように、スクールで下界落としを受けたドラギィが、
他にもいるかもしれないって、この間フラップが言ってたじゃない。
例の放電生物……あの映像の生き物は、フラップの仲間なんだよ」

「ただの早計じゃろう?  別生物の可能性も十分に――」

「あーもう!  とにかく、今日はフラップの仲間を見つけるんだ。
都会まで連れて行くのはかなりヤバいけど、フラップにも来てもらおう。
もしかしたらあの嗅覚で、仲間の匂いを嗅ぎつけるかもしれないから」

レンは、出窓のそばで相変わらず魂がぬけたように座っているフラップに、
手を差しのべました。

「さあ、行こうフラップ。いつまでもくよくよしたってしょうがない。
キミが修行を続けられるようにするためにも、仲間を探そう」


すると、フラップがゆっくりとこちらを向き、
覇気のかけらもない弱々しい声で答えました。

「……そんな、いいんですよ。ぼくのために、そこまでしなくても――」

「何をゆうちょる!」しろさんが出しぬけに威張りちらしました。
「レンはな、別におぬしのためにやっとるんじゃない。
自分自身のためにやっとるんじゃ。二匹目のドラギィ出会いたさにのう!」

「なっ、なっ!?」レンは驚きあきれてしまいました。
「違うってば、もう!  よくもそんな……ぼくはフラップのためを思って――」


ピンポーン!


インターホンが鳴りました。

こんな時にいったいだれが……
レンは、しろさんを肩からベッドに降ろし、玄関へ飛んでいきました。

ガチャ。

――さて、玄関ドアを開いたとたん、いったい何が起きたでしょう?

まず、レンの目に飛びこんできたのは……ユカの姿でした!
バッグ両手に、何やら真剣そうに眉根をひそめて、怒っているかのような。

「えっ、なっ、わわわわっ!!」

レンは驚きのあまり、慌てて二、三歩後ずさりし、ドスン! と尻餅。
言葉にならない気持ちが、次々あふれてきます。
相手は好きな子。だけれど、ケンカ中。そんな相手が、今、玄関に入ってきて――。

「ち、違うの、レン君。わたし、おどかしに来たんじゃ……あ、その……、
驚かそうとは思ってたけど、そんな意味じゃなくて……」

ユカは急いで説明しようとしますが、うまく言葉がまとまりません。
レンはその様子を見て、ポカンとしていました。

「あのね……その」ユカは目を泳がせて、もじもじします。
「こないだは、ごめんね、レン君」

「あ、いや……ぼくも、ごめん、ね?」

まさか、こんな思いがけない形で謝りあうことになるとは。
腰をぬかしたままでは格好がつきません。
レンは、痛めたお尻をさすりながら立ち上がりました。

「びっくり、した……連絡もなしに、突然、訪ねてくるから」

「や、約束も取りつけずに来ちゃって、いけなかったね……。
今日はね、レン君に見てほし――あ、ううん、
会ってほしい子がいるの!」

「会ってほしい子?  じゃあ、昨日隠してたのって……」

これでやっと、昨日から胸に抱いていた違和感が解消しました。

昨日の学校では、ユカと一度も話ができなかったのです。
お互いに目が合うことはあっても、ユカはすぐに目をそらします。
ただ、そのそらし方が、相手に冷たくするような素っ気ない感じではなくて、
申しわけなさそうな、それでいて悪戯っぽいような――
何か面白いことでも隠している風だったのでした。

フラップのこともあって、余計に混乱させられていたわけですが……。

「このバッグの中にいるの。
でもここじゃ、ちょっとあれだし、部屋に入ってもいい?
もしかして、お出かけするところだった?」

「あ、いや、いいの気にしないで!  上がって上がって。
(バッグの中?  いやいや、まっさか……そんなこと)」

もしかすると、もしかするような気がしました。
さすがに、そんな都合のよすぎることはあるわけないと、
この時レンは、まんまと高をくくっていたのです。

(新しい抱きぐるみを、持ってきてくれたってところだよね、きっと)

    *

「こんにちは、ユカだよ。今日はね、あなたに会ってほしい子がいるの!」

レンの部屋に入るなり、ユカはバッグを大きく開いてみせました。

するとどうでしょう。
その中から、黄色いドラギィがぴょこっと身を乗り出して、
陽気に手をふりふり、こう叫んだではありませんか。


「ハァーイ!  あたしフリーナ!  仲間に会えてよかったよ~!」


明るい部屋がさらに色味をまして、ぱあっと華やかになるような、
かん高くて、エネルギッシュで、茶目っ気たっぷりの声。


それを見たレンは、石になりました。あんぐりと大口を開いて。

とんだまさかの――があったのです!


フリーナの声は、フラップの耳の奥へと痛烈なほど鋭く浸透して、
気力もエネルギーも失いかけていた全身をバチのように叩き起こし、
彼の首を素早い鞭のように振り向かせたのです。

「えっ、えっ……今、なんて名前を言いました?」

次の瞬間、フラップの胸にどっとあふれてきた感情。それは――



それは、でした。



しかも驚くべきことに、フリーナの気持ちも同じだったのです。

「うっそ……その声。それに、この部屋に広がる、覚えのある匂い……。
もしかして、もしかして、もしかしてキミ!  フラップ!?」


「フリーナだ、フリーナがいる!!」


「あ~~~ん!  フラップ~!!」


フラップは弾丸のように飛び上がり、フリーナ目がけて一直線!
二匹は強く強く抱きしめ合い、感動の再会を分かちあっているようでした。


「ええ~~っ!  ふたりとも、知りあいだったの?」

ユカは仰天しました。フラップを驚かせるつもりが、こっちが驚かされています。
――いいえ、もっと驚いている人物が、およそいました。


「こいつはおったまげじゃ……そいつはドラギィではないか!  
いったいどこで見つけてきたんじゃ!?」

レンのベッドの上で、しろさんが何度もこすった目をこらして、
黄色いドラギィの姿を見つめていました。


「――も、もうぼく、何がなんだか……」

レンは、何から驚けばいいのか、頭の判断が追いついていません。


「会いたかったよ、フリーナぁ……!」

「あたしもだよ、あたしも……嬉しいよう」


フラップとフリーナが、幸せそうに頬をすり合わせています。

「よかったね、フラップ!  フリーナも!  大好きな友達同士なんだね!
よかったね……ぐすん。本当によかったね」

いつの間にやら、ユカの瞳に涙がにじんでいました。

今日ここに来るまで、ゆらぐ決意を何度も固め直し、
ようやくレンに謝ることができた……今、その気持ちが報われたのでした。
しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

14歳で定年ってマジ!? 世界を変えた少年漫画家、再起のノート

谷川 雅
児童書・童話
この世界、子どもがエリート。 “スーパーチャイルド制度”によって、能力のピークは12歳。 そして14歳で、まさかの《定年》。 6歳の星野幸弘は、将来の夢「世界を笑顔にする漫画家」を目指して全力疾走する。 だけど、定年まで残された時間はわずか8年……! ――そして14歳。夢は叶わぬまま、制度に押し流されるように“退場”を迎える。 だが、そんな幸弘の前に現れたのは、 「まちがえた人間」のノートが集まる、不思議な図書室だった。 これは、間違えたままじゃ終われなかった少年たちの“再スタート”の物語。 描けなかった物語の“つづき”は、きっと君の手の中にある。

童話短編集

木野もくば
児童書・童話
一話完結の物語をまとめています。

あだ名が242個ある男(実はこれ実話なんですよ25)

tomoharu
児童書・童話
え?こんな話絶対ありえない!作り話でしょと思うような話からあるある話まで幅広い範囲で物語を考えました!ぜひ読んでみてください!数年後には大ヒット間違いなし!! 作品情報【伝説の物語(都道府県問題)】【伝説の話題(あだ名とコミュニケーションアプリ)】【マーライオン】【愛学両道】【やりすぎヒーロー伝説&ドリームストーリー】【トモレオ突破椿】など ・【やりすぎヒーロー伝説&ドリームストーリー】とは、その話はさすがに言いすぎでしょと言われているほぼ実話ストーリーです。 小さい頃から今まで主人公である【紘】はどのような体験をしたのかがわかります。ぜひよんでくださいね! ・【トモレオ突破椿】は、公務員試験合格なおかつ様々な問題を解決させる話です。 頭の悪かった人でも公務員になれることを証明させる話でもあるので、ぜひ読んでみてください! 特別記念として実話を元に作った【呪われし◯◯シリーズ】も公開します! トランプ男と呼ばれている切札勝が、トランプゲームに例えて次々と問題を解決していく【トランプ男】シリーズも大人気! 人気者になるために、ウソばかりついて周りの人を誘導し、すべて自分のものにしようとするウソヒコをガチヒコが止める【嘘つきは、嘘治の始まり】というホラーサスペンスミステリー小説

【完結】玩具の青い鳥

かのん
児童書・童話
 かつて偉大なる王が、聖なる塔での一騎打ちにより、呪われた黒竜を打倒した。それ以来、青は幸福を、翼は王を、空は神の領域を示す時代がここにある。  トイ・ブルーバードは玩具やとして国々を旅していたのだが、貿易の町にてこの国の王女に出会ったことでその運命を翻弄されていく。  王女と玩具屋の一幕をご覧あれ。

神ちゃま

吉高雅己
絵本
☆神ちゃま☆は どんな願いも 叶えることができる 神の力を失っていた

僕らの無人島漂流記

ましゅまろ
児童書・童話
夏休み、仲良しの小学4年男子5人組が出かけたキャンプは、突然の嵐で思わぬ大冒険に! 目を覚ますと、そこは見たこともない無人島だった。 地図もない。電波もない。食べ物も、水も、家もない。 頼れるのは、友だちと、自分の力だけ。 ケンカして、笑って、泣いて、助け合って——。 子どもだけの“1ヶ月サバイバル生活”が、いま始まる!

ノースキャンプの見張り台

こいちろう
児童書・童話
 時代劇で見かけるような、古めかしい木づくりの橋。それを渡ると、向こう岸にノースキャンプがある。アーミーグリーンの北門と、その傍の監視塔。まるで映画村のセットだ。 進駐軍のキャンプ跡。周りを鉄さびた有刺鉄線に囲まれた、まるで要塞みたいな町だった。進駐軍が去ってからは住宅地になって、たくさんの子どもが暮らしていた。  赤茶色にさび付いた監視塔。その下に広がる広っぱは、子どもたちの最高の遊び場だ。見張っているのか、見守っているのか、鉄塔の、あのてっぺんから、いつも誰かに見られているんじゃないか?ユーイチはいつもそんな風に感じていた。

四尾がつむぐえにし、そこかしこ

月芝
児童書・童話
その日、小学校に激震が走った。 憧れのキラキラ王子さまが転校する。 女子たちの嘆きはひとしお。 彼に淡い想いを抱いていたユイもまた動揺を隠せない。 だからとてどうこうする勇気もない。 うつむき複雑な気持ちを抱えたままの帰り道。 家の近所に見覚えのない小路を見つけたユイは、少し寄り道してみることにする。 まさかそんな小さな冒険が、あんなに大ごとになるなんて……。 ひょんなことから石の祠に祀られた三尾の稲荷にコンコン見込まれて、 三つのお仕事を手伝うことになったユイ。 達成すれば、なんと一つだけ何でも願い事を叶えてくれるという。 もしかしたら、もしかしちゃうかも? そこかしこにて泡沫のごとくあらわれては消えてゆく、えにしたち。 結んで、切って、ほどいて、繋いで、笑って、泣いて。 いろんな不思議を知り、数多のえにしを目にし、触れた先にて、 はたしてユイは何を求め願うのか。 少女のちょっと不思議な冒険譚。 ここに開幕。

処理中です...