DRAGGY!ードラギィ!ー【フレデリック編連載中!】

Sirocos(シロコス)

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③〈フレドリクサス編〉

10『幸せに満たされたいなら、カレーが一番』①

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フラップとフリーナは、
それぞれの落第の理由と、これまでの経緯を、親友フレディに話しました。

フレディは、気弱で泣き虫というたったそれだけのせいで落第になった経緯を、
親友たちと人間たちに、涙を交えながら話しました。

この場面で、フラップとフリーナが、
「何だよそれ!」「ヒドイ!」以外の言葉をかける余裕は、ありませんでした。
なぜって、フラップもフリーナも、まったく予期しないことでしたから。
スクールでも主席クラスの成績優秀者だったフレディなら、
余裕で合格できると、信じて疑わなかったのです。

「理由は分からないの!?」と、レンが聞くと、

「理由は、その……ぐすっ……分からない」フレディはそう答えました。

彼の修行の課題は、精神力をみがき、泣きぐせを直すこと。
といっても、昔からのクセを正す取り組みなんて、生半可ではいきません。

「それにしてもキミが、本当にあの小野寺に捕まってたなんて」
レンは、少し深刻ぎみな表情をして言います。
「やっぱりあいつ、ドラギィのことを知ってたんだ。すごい偶然……。
でも、話を聞くかぎり、協力できそうなやつじゃないよね、ゼッタイに」

「フレディは」フラップが聞きました。
「鍵のかかった牢屋みたいなのに入れられてたんでしょ?  鳥かご、ていうの?
そんな場所から、どうやって脱出したのさ?」

「それは……」涙をふきふき、フレディは答えにくそうに言いました。
「その……す、すっごく暴れたんだ。そしたら、ぐすっ、
たまたま、錠がゆるかったから、ぐすん、錠がポトリと落ちて、扉が……。
でも、かなり痛い思いを、したから、のたうち回るうちに、無意識に巨大化して、
ぐすん、ヨシくんの部屋……めちゃくちゃに、しちゃったんだよ」

「じゃあ、その背中のケガ」と、フリーナが聞くと、

「あ、これは、脱出したあと、黒い鳥に、ぐすっ、突っつかれたんだ。
手当てしてくれて、ありがとう」

「いやあ、それよか」フリーナは言いました。
「すぐに発見できてよかったヨ!  フレディを探すうちに、
空から滝みたいなのが降ってくるのが見えたの。それで、見つけられたんだよ!
あれって、フレディの能力だよね? 
疲れてぐったりしてたはずなのに、すごいよう」

「あ、あれは、その……」フレディは、また歯切れの悪い言葉を漏らしました。
「た、ただの雨じゃなかったっていうか、その、ぐすん……
そう、あの強い雨が、ぼくを、ひっく、叱咤しったしたんだと思う。負けるなって。
それで、ぼくは、ぐずっ、残った力を振りしぼって……
ホントに、ここまで、ぼくだけの、力で、なんとかしたんだよ……
大変だった、ううぅ」

何かを隠しているような言動が続きますが、辛い目にあったばかりで、
こうして泣いている相手にたいして、あれこれ追及するのはよくないと、
一同は思ったのでした。

「まあ、まあ、おぬしも相当、大変だったみたいじゃが、もう安心じゃ」

しろさんが、レンの右肩の上から声をかけてきました。

「おぬしの修行課題はたしか、泣きぐせを治す、じゃったか?
それがドラギィの学生にとって、どんな意義があるかは謎じゃが、
そんな難題を突きつけられたとしても、
この部屋には、これだけの味方がそろっておるんじゃ。
泣きぐせだろうが、なんだろうが、解決の糸口は必ず見つかるはずじゃ。
もちろん、わしも協力を惜しまん。というわけじゃから――」

むふふふ……。
いつものように気味の悪い笑い方をしてから、こう言いました。

「水を操るおぬしの能力についても、わしに研究させてくれい!
先ほどのデモンストレーションは、じつに興味深かった!
両手から水を発生させた後、超能力のごとく、空中で意のままに動かすとは。
フリーナとはまるで真逆じゃな。完ぺきに力の制御ができておる感じじゃ」

「チョットォ!  わざわざ言わないでよう!」フリーナはプンプンしました。

「ぐすん、研究?  ぼくを?  ぐすっ、まあ、別に構わないよ。
ぐすん、ここに居させてもらえるなら。けれど――」

持ち上げられて少し気をよくしたフレディは、左腕で涙をぬぐうと、

「キミはいったいだれなんだ?  見たところ、白いネズミに見えるけど」

「ああ、この子はネズミ博士のしろさんだよ」と、フラップが言うと、

「フレデリック博士じゃ」と、しろさんは強調しました。
「まあ、おぬしらドラギィのことを研究させてもらうついでに、
ここに研究所を構えさせてもらっておるだけじゃ」

「たしか家賃は、週に一度の天竺チーズ――だったよね」タクが言いました。

「そんな契約はしておらんかったはずじゃがのう……
いつでも食わせてやるとは言ったが」

「あれさ、おれたちもいっぺん食わしてもらったけど、めっちゃウマいよな!」

ジュンが、もっかい食いたい!  と言おうとしたその時でした。

トントントン!  だれかが部屋のドアをノックしたのです。

「レン~?  今入ってもいい~?」

お母さんです!  一階のお店から、レンたちの様子を見に来たのです。
ふと電子時計を見れば、もう夕方の六時半ではありませんか。

「いつものとこ!  いつものとこ!」

レンが小さな声で指示すると、フラップがフレディの手を取って、
「ネズミサイズに!」と小声でささやきました。
フレディは、人間のオトナから身を隠す、という行為の重要さを、
すでにヨシの家で予習済みでしたから、
フラップとフリーナが隠れる常套じょうとう手段であるベッドの下のスペースへ、
フラップの手に引かれるに任せてついていきました。

ガチャ。
レンのお母さんが、バンダナキャップにエプロン姿で廊下にいました。

「市原君、浜田君。もう夜七時を過ぎちゃってるけど、大丈夫?」

「あー、すんません、おれら居座っちゃって!」

「夜八時までには帰るからって、二人とも親には伝えました」

「ああ、そうなんだ。じゃ、ついでだからさ、今夜は家でご飯食べちゃいなよ。
おばさん、まだお店の仕事があるから面倒見らんないけど、
今夜は、《わけあり》が出たからさ。みんな、好きに温めて食べちゃって」

スパイシーなカレーと煮こんだ野菜のニオイがしみついた、レンのお母さん。
フラップとフリーナも、お母さんのニオイが大好きです。

「最近は妙に暑いし、食欲落とさないようにしなきゃね。
だから、我が家の旨辛カレーで、ヒーヒー言っていきなっ!」

お母さんはそう言って、右腕に力こぶを作ってみせるのでした。

子どもたちは、もう拳を振り上げます。「「「やーりぃー!」」」

夜まで多忙なお店の厨房では、お母さんやアルバイトの人がカレーを作る段階で、
たまにちょっぴり焦がしたり、香辛料の配分を間違えたりして、
メニューとしての品質から少しずれたものが、できてしまうことがあります。
それが、レンの家で言う《わけあり》のカレーなのです。

しかし、レンとドラギィたちは、たま~に出るこのわけありカレーを、
喜びの意味をかねて『おこぼれカレー』と呼んでいます。
少しばかり品質がずれた程度なら、絶品であることに変わりないのですから。
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