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④〈フロン編〉
3『よそ様の家に、勝手にカメラを仕かけちゃダメ!』②
しおりを挟むしろさんは、この奇妙な男性をモニター越しに見ながら、
隣に立っていたフラップにたずねます。
「――フラップよ。なんじゃ、あの人物は。
雰囲気といい、物言いといい、奇妙キテレツではないか」
「なんでぼくに聞くんですか?」
「おぬしが一番、坂本家での生活が長いじゃろ。
サカモト一番の店内を拝見したのは、これがはじめてではあるまい?」
「しろさんだって、ぼくと同じくらい長く住んでるじゃないですか」
前に、レンに連れられて店内を見せてもらった記憶が、
フラップにはたしかにありました。
もっともそれは、お客さんも家の人もだれもいない休業日のことでしたが。
「ぼくだって、あの人の顔ははじめて見ましたよ――」
そこまで答えると、フラップは急にひとりで考えこみました。
奇妙な感情が胸にこみ上げてきたからです。
モニターに映る男性の横顔のアップを見ていると、
どうしたことなのか、胸の中に懐かしさが湧いてくるのです。
親しくなったわけでも、いっしょに暮した覚えがあるわけでもないのに。
(本当にはじめてなのかな、ぼく。どこかで会ったような気がする)
*
それからというもの、古杉先生は、本当に『サカモト一番』の常連になりました。
住んでいる場所が、ちょうどこの店に近かったのと、
お店のカレーをえらくお気に召したのが理由にありました。
週にニ回は必ず来るくらいのよいお客さんなのですが、奇妙なことに、
レンがお店の手伝いに立つ日には必ず来ることにしているようでした。
先生は、もしかしたら、レンのことがとても気に入ったのかもしれませんね。
まあ、レン自身、もっと先生と交流を深めたいと願っていたのもあって、
自分のお手伝いの予定を教えてはいたのです。
しかしそれでも、一日も逃さず、しかもいそがしくない時間を選んでまで、
自分に会いに店へとやってくる古杉先生は、たいした物好きに見えました。
先生と会うたびにする話題といえば、
『闇竜と魔法少年』をはじめとした人気の児童小説のことや、
最近話題のアニメや漫画のこと、好きなゲームやら趣味のことやら。
そんな他愛もない交流を繰り返すうち、
レンはどんどん先生と仲よくなりました。おまけに、先生自身から、
「下の名前で呼んでもいいよ」というお許しをもらって、
とうとう、彼のことを『シロウ先生』と呼ぶまでになったのでした。
そんなある日のこと、ミステリーに興味を示しやすいシロウ先生に、
レンのお母さんがこんな話題を切り出してきたのです。
「そういえば、レンったら『なんでも調査隊』なんてものを、
学校の友達とやってるんですよ~」
「ん~? なんでも調査隊」
ちょうどカレーを食べ終わって水を飲み干した先生が、
面白いネタをつかんだような怪しい瞳で微笑みました。
「学校の子たちから、近所で起きている変わった事件のネタを集めてて。
でね、これだっていうのを選んで、真相解明に努めてるとか、なんとか。
危なっかしいからよしなさいって何度も言ってるんだけど。ねえ、レン?」
カウンター席をふいているレンを見るお母さんの視線は、
ちょっぴり冷ややかでした。
「えーっと……ただの遊びでやってるようなものだから、
危険なことには首をつっこまないようにしてるつもり、ですけど」
「へぇ~、そうなんだ」シロウ先生は、言いました。
「じゃあさ、こんなウワサは知ってる? 〈赤黄青の不思議なコウモリ〉」
レンは、心臓をわしづかみにされたかと思い、ピタリと硬直しました。
そして真っ先に、部屋にいる三匹のドラギィたちの姿を思い浮かべ、
それから背筋に、ぞわっと、冷たいものが走ったように思えたのです。
「ここ最近、うさみ町でひそかに話題になってるみたいでね。
カラフルで、とてもコウモリとは思えない姿の生き物が、
たまに町の上を悠然と飛んでいく姿を見かけるって」
「そ、そんなウワサがあるんですか? 知らなかったなあ、オレ……」
「そうなの? ここんところ有名になってるって聞いたものだから、
てっきり、知ってるもんだと思ってたんだけどな」
一瞬、シロウ先生がこちらの反応を見て、
何かを試そうとしているように見えましたが、レンは気のせいだと思いました。
「シ、シロウ先生。一応、聞いてもいいですか? それ、だれが流しました?」
「ん? 僕も人づてに聞いたからさぁ。
ネットでも調べてみたけど、出どころが分かんないんだよね、コレ。
でさ、もし気が向いたらでいいから、調査してみてほしいんだな、キミたちに」
「あ、はい……仲間と相談してみます、へへへ」
レンは、必死に平静を取りつくろいました。
けれど、胸の中の心臓はとても正直で、硬くて鋭いわしの足の中で
けん命にもがいているみたいに、ドクドクと激しく脈打っています。
嫌な汗が、背中一面をじっとりと湿らせてきます。
(どうして? ドラギィたちが町の人に見つからないように、
みんなで出かける時にはいつも気をつけてきたはずなのに。
だれがウワサを流したのかな? もしかして……小野寺のしわざ?)
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