90 / 145
④〈フロン編〉
5『美しい生物には、美しい満月がよく似合う』②
しおりを挟む
(また、これだぁ……!)
フラップは両腕で顔を隠す防御姿勢を取っていました。
だれの差し金かも分からない、白く発光しながら包囲してきたコウモリの軍勢。
しかし奇妙なことに、こちらがひるんでいる数秒の間に、
飛び回るコウモリたちの姿がだんだんと赤みをおびてくるように見えました。
(変色、してる?)
フラップをすっぽり囲んで飛び回るコウモリたちは、
今や燃えるような朱色の灯りを身体に灯していました。
これは、いったいなんのメッセージなのでしょう?
求愛、なんて考えるのは愚の骨頂。なら、何かの警告でしょうか?
(どうする? 追いはらった方がいいかな?
フリーナとフレディの様子も分からないから、心配だし)
フラップは、身体の中で休止させていた炉を叩き起こし、
ふつふつと煮えたぎるような力を練り上げていきました。
レッド種だけが持ちうる、炎の源となる秘密の器官です。
(いくぞ……それ、どうだーっ!)
フラップは、口から炎を放射しました。
まだ修行の途中なので、一瞬で途切れてしまうほどの情けない炎ですが。
メラメラと輝く炎の熱は、たった今当たった少数のコウモリたちを、
跡形もなく一瞬で消し飛ばしました。
その様子は、さながら手品師が使うフラッシュペーパーのようでした……。
(フレディは、こいつらが生き物じゃないって見抜いてた。
だったらこのまま全部、ぼくの炎で消してやる!)
フラップは、幾度にわたって火を吹きました。
息継ぎをはさみつつ、無我夢中に何度も、何度も。
普通のレッド種なら、こんなに時間をかけずとも済むでしょうに――。
「ん? あれ、もういないぞ」
残りわずかとなっていたコウモリたちが、こつ然と消え失せていました。
どういうことなのでしょう?
でもこれでようやく、フリーナとフレディの様子を確認できました。
(ああっ、ふたりもコウモリたちに囲まれて見えなくなってる!
でも、ぼくの時と違って、コウモリたちの光る色が違うな。
フリーナの包囲網は黄色で、フレディのほうは水色。――)
もしかして! フラップは直感の命ずるままに叫びました。
「フリーナ! フレディ!
こいつらは、色におうじた力をぶつけると、消える仕組みなのかもしれない!
フリーナはスパークで、フレディは水爆弾で攻撃してみてーっ!」
すると、ふたつの包囲網の中から声が返ってきました。
「なーるほド! なんだか分かんないケド、やってみるヨー!」
「ぼ、ぼぐもっ! 今そうじようどっ、思っでだどころだぁ! うわぁ~ん!」
二匹の行動は、五秒と待たずに現れました。
黄色く光るコウモリたちの中心から、まばゆい電気の光がほとばしります!
金色に輝く小さな花火のような稲妻を受けて、コウモリは一匹残らず消えました。
一方、水色に光るコウモリたちの中からは、大量の水が炸裂しました!
包囲していた無数のコウモリが、濡れた身体の重みに耐えられずに落ちていきます。
騒ぎは、すっかり落ち着いたように思えました。
フレディは開放されたそばから、濡れたコウモリたちの上にポトリと降りました。
それから、消えずに草地に転がったまま動かないそれらをながめながら、
彼はこう言ったのです。
「ぐすん、やっぱりだ。こいつらは……ただの紙だぞ」
「ホントだぁ~。ユカちゃんの家にあった折り紙に、ちょっと似てル~」
「でも、紙だって? ホントにそう言った?」
フラップとフリーナは、フレディのそばへ駆けつけました。
「ちょっと待ってよ――ぼく、
前にこれと似た術を、どこかで見たことがある」
「ああ、フラップの――ぐすっ……言う通りだよ」
フレディは、ほほを濡らす涙をふいて、こう言いました。
「これは……ドラギィの術だ。
それも、ぼくらのスクールで習うより、ずっと高度なものだよ。
これは……そうだ、『ユニバーシティ』のレベルの術だ。ということは――」
「「あっ!」」
三匹の周囲に転がっていたコウモリたちが、今になってかき消えました。
それから、すぐ近くから伝わってきた強い気配に、
三匹はそれぞれ引きつけられるように顔をむけます。
一本杉のすぐ近くに、羽の生えた一匹の生き物が浮いていました。
神々しいような満月の光を背にして。
コウモリでもなければ、鳥でもありません。
けれど頭には、二本の凛々しい角がありました。立派な雄ジカのような角が。
細長いしっぽの先についているのは毛の房。
全身がつやつやとした毛におおわれた、犬のような、竜のようなもの――。
ドラギィ、でした。
ただし、フラップたちよりも一回り大きくて、成熟したような体型でした。
フラップたちより大きい姿になっているのではありません。
彼こそは、れっきとした大人のドラギィでした。
背中は淡い夜空のような薄紫色で、お腹は若干青みがかった白色。
深い秘密を内側に閉じこめたような黒い瞳でこちらを見下ろし、
ミステリアスな微笑みを浮かべています。
「――先生であるこのわたしの術を、よく破ったね」
月下に現れたドラギィは、言いました。
※一日ずれての大幅遅れの更新となってしまい、申しわけありませんでした!
実は先日から怪我のため入院していた関係で自宅になかなか戻れず、
その他いろいろな都合で更新が遅くなってしまいました。
怪我の方はたいしたことはございませんので、どうぞご心配なく!
今回は大事なかったためほっとしておりますが、
私にとってはちょっと嫌なGWとなってしまいました💦
それでは、今後ともよろしくお願いいたします!
しろこ
フラップは両腕で顔を隠す防御姿勢を取っていました。
だれの差し金かも分からない、白く発光しながら包囲してきたコウモリの軍勢。
しかし奇妙なことに、こちらがひるんでいる数秒の間に、
飛び回るコウモリたちの姿がだんだんと赤みをおびてくるように見えました。
(変色、してる?)
フラップをすっぽり囲んで飛び回るコウモリたちは、
今や燃えるような朱色の灯りを身体に灯していました。
これは、いったいなんのメッセージなのでしょう?
求愛、なんて考えるのは愚の骨頂。なら、何かの警告でしょうか?
(どうする? 追いはらった方がいいかな?
フリーナとフレディの様子も分からないから、心配だし)
フラップは、身体の中で休止させていた炉を叩き起こし、
ふつふつと煮えたぎるような力を練り上げていきました。
レッド種だけが持ちうる、炎の源となる秘密の器官です。
(いくぞ……それ、どうだーっ!)
フラップは、口から炎を放射しました。
まだ修行の途中なので、一瞬で途切れてしまうほどの情けない炎ですが。
メラメラと輝く炎の熱は、たった今当たった少数のコウモリたちを、
跡形もなく一瞬で消し飛ばしました。
その様子は、さながら手品師が使うフラッシュペーパーのようでした……。
(フレディは、こいつらが生き物じゃないって見抜いてた。
だったらこのまま全部、ぼくの炎で消してやる!)
フラップは、幾度にわたって火を吹きました。
息継ぎをはさみつつ、無我夢中に何度も、何度も。
普通のレッド種なら、こんなに時間をかけずとも済むでしょうに――。
「ん? あれ、もういないぞ」
残りわずかとなっていたコウモリたちが、こつ然と消え失せていました。
どういうことなのでしょう?
でもこれでようやく、フリーナとフレディの様子を確認できました。
(ああっ、ふたりもコウモリたちに囲まれて見えなくなってる!
でも、ぼくの時と違って、コウモリたちの光る色が違うな。
フリーナの包囲網は黄色で、フレディのほうは水色。――)
もしかして! フラップは直感の命ずるままに叫びました。
「フリーナ! フレディ!
こいつらは、色におうじた力をぶつけると、消える仕組みなのかもしれない!
フリーナはスパークで、フレディは水爆弾で攻撃してみてーっ!」
すると、ふたつの包囲網の中から声が返ってきました。
「なーるほド! なんだか分かんないケド、やってみるヨー!」
「ぼ、ぼぐもっ! 今そうじようどっ、思っでだどころだぁ! うわぁ~ん!」
二匹の行動は、五秒と待たずに現れました。
黄色く光るコウモリたちの中心から、まばゆい電気の光がほとばしります!
金色に輝く小さな花火のような稲妻を受けて、コウモリは一匹残らず消えました。
一方、水色に光るコウモリたちの中からは、大量の水が炸裂しました!
包囲していた無数のコウモリが、濡れた身体の重みに耐えられずに落ちていきます。
騒ぎは、すっかり落ち着いたように思えました。
フレディは開放されたそばから、濡れたコウモリたちの上にポトリと降りました。
それから、消えずに草地に転がったまま動かないそれらをながめながら、
彼はこう言ったのです。
「ぐすん、やっぱりだ。こいつらは……ただの紙だぞ」
「ホントだぁ~。ユカちゃんの家にあった折り紙に、ちょっと似てル~」
「でも、紙だって? ホントにそう言った?」
フラップとフリーナは、フレディのそばへ駆けつけました。
「ちょっと待ってよ――ぼく、
前にこれと似た術を、どこかで見たことがある」
「ああ、フラップの――ぐすっ……言う通りだよ」
フレディは、ほほを濡らす涙をふいて、こう言いました。
「これは……ドラギィの術だ。
それも、ぼくらのスクールで習うより、ずっと高度なものだよ。
これは……そうだ、『ユニバーシティ』のレベルの術だ。ということは――」
「「あっ!」」
三匹の周囲に転がっていたコウモリたちが、今になってかき消えました。
それから、すぐ近くから伝わってきた強い気配に、
三匹はそれぞれ引きつけられるように顔をむけます。
一本杉のすぐ近くに、羽の生えた一匹の生き物が浮いていました。
神々しいような満月の光を背にして。
コウモリでもなければ、鳥でもありません。
けれど頭には、二本の凛々しい角がありました。立派な雄ジカのような角が。
細長いしっぽの先についているのは毛の房。
全身がつやつやとした毛におおわれた、犬のような、竜のようなもの――。
ドラギィ、でした。
ただし、フラップたちよりも一回り大きくて、成熟したような体型でした。
フラップたちより大きい姿になっているのではありません。
彼こそは、れっきとした大人のドラギィでした。
背中は淡い夜空のような薄紫色で、お腹は若干青みがかった白色。
深い秘密を内側に閉じこめたような黒い瞳でこちらを見下ろし、
ミステリアスな微笑みを浮かべています。
「――先生であるこのわたしの術を、よく破ったね」
月下に現れたドラギィは、言いました。
※一日ずれての大幅遅れの更新となってしまい、申しわけありませんでした!
実は先日から怪我のため入院していた関係で自宅になかなか戻れず、
その他いろいろな都合で更新が遅くなってしまいました。
怪我の方はたいしたことはございませんので、どうぞご心配なく!
今回は大事なかったためほっとしておりますが、
私にとってはちょっと嫌なGWとなってしまいました💦
それでは、今後ともよろしくお願いいたします!
しろこ
0
あなたにおすすめの小説
14歳で定年ってマジ!? 世界を変えた少年漫画家、再起のノート
谷川 雅
児童書・童話
この世界、子どもがエリート。
“スーパーチャイルド制度”によって、能力のピークは12歳。
そして14歳で、まさかの《定年》。
6歳の星野幸弘は、将来の夢「世界を笑顔にする漫画家」を目指して全力疾走する。
だけど、定年まで残された時間はわずか8年……!
――そして14歳。夢は叶わぬまま、制度に押し流されるように“退場”を迎える。
だが、そんな幸弘の前に現れたのは、
「まちがえた人間」のノートが集まる、不思議な図書室だった。
これは、間違えたままじゃ終われなかった少年たちの“再スタート”の物語。
描けなかった物語の“つづき”は、きっと君の手の中にある。
あだ名が242個ある男(実はこれ実話なんですよ25)
tomoharu
児童書・童話
え?こんな話絶対ありえない!作り話でしょと思うような話からあるある話まで幅広い範囲で物語を考えました!ぜひ読んでみてください!数年後には大ヒット間違いなし!!
作品情報【伝説の物語(都道府県問題)】【伝説の話題(あだ名とコミュニケーションアプリ)】【マーライオン】【愛学両道】【やりすぎヒーロー伝説&ドリームストーリー】【トモレオ突破椿】など
・【やりすぎヒーロー伝説&ドリームストーリー】とは、その話はさすがに言いすぎでしょと言われているほぼ実話ストーリーです。
小さい頃から今まで主人公である【紘】はどのような体験をしたのかがわかります。ぜひよんでくださいね!
・【トモレオ突破椿】は、公務員試験合格なおかつ様々な問題を解決させる話です。
頭の悪かった人でも公務員になれることを証明させる話でもあるので、ぜひ読んでみてください!
特別記念として実話を元に作った【呪われし◯◯シリーズ】も公開します!
トランプ男と呼ばれている切札勝が、トランプゲームに例えて次々と問題を解決していく【トランプ男】シリーズも大人気!
人気者になるために、ウソばかりついて周りの人を誘導し、すべて自分のものにしようとするウソヒコをガチヒコが止める【嘘つきは、嘘治の始まり】というホラーサスペンスミステリー小説
【完結】玩具の青い鳥
かのん
児童書・童話
かつて偉大なる王が、聖なる塔での一騎打ちにより、呪われた黒竜を打倒した。それ以来、青は幸福を、翼は王を、空は神の領域を示す時代がここにある。
トイ・ブルーバードは玩具やとして国々を旅していたのだが、貿易の町にてこの国の王女に出会ったことでその運命を翻弄されていく。
王女と玩具屋の一幕をご覧あれ。
ノースキャンプの見張り台
こいちろう
児童書・童話
時代劇で見かけるような、古めかしい木づくりの橋。それを渡ると、向こう岸にノースキャンプがある。アーミーグリーンの北門と、その傍の監視塔。まるで映画村のセットだ。
進駐軍のキャンプ跡。周りを鉄さびた有刺鉄線に囲まれた、まるで要塞みたいな町だった。進駐軍が去ってからは住宅地になって、たくさんの子どもが暮らしていた。
赤茶色にさび付いた監視塔。その下に広がる広っぱは、子どもたちの最高の遊び場だ。見張っているのか、見守っているのか、鉄塔の、あのてっぺんから、いつも誰かに見られているんじゃないか?ユーイチはいつもそんな風に感じていた。
僕らの無人島漂流記
ましゅまろ
児童書・童話
夏休み、仲良しの小学4年男子5人組が出かけたキャンプは、突然の嵐で思わぬ大冒険に!
目を覚ますと、そこは見たこともない無人島だった。
地図もない。電波もない。食べ物も、水も、家もない。
頼れるのは、友だちと、自分の力だけ。
ケンカして、笑って、泣いて、助け合って——。
子どもだけの“1ヶ月サバイバル生活”が、いま始まる!
ぽんちゃん、しっぽ!
こいちろう
児童書・童話
タケルは一人、じいちゃんとばあちゃんの島に引っ越してきた。島の小学校は三年生のタケルと六年生の女子が二人だけ。昼休みなんか広い校庭にひとりぼっちだ。ひとりぼっちはやっぱりつまらない。サッカーをしたって、いつだってゴールだもん。こんなにゴールした小学生ってタケルだけだ。と思っていたら、みかん畑から飛び出してきた。たぬきだ!タケルのけったボールに向かっていちもくさん、あっという間にゴールだ!やった、相手ができたんだ。よし、これで面白くなるぞ・・・
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる