DRAGGY!ードラギィ!ー【フレデリック編連載中!】

Sirocos(シロコス)

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④〈フロン編〉

6『助けをもとめて月を見上げることもある』

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 フラップ、フリーナ、フレディの視界が、じんわりとにじんできました。
スカイランドにいた頃、彼にはどれほどの恩を受けたことか。
問題児である三匹が、これまでスクールの生徒としてやってこれたのは、
まさしく、彼のおかげだったのです。

「おや、こんなところでわたしに会えたのが意外だとでも言いたげだね」

 新たに現れたドラギィは、口を開きっぱなしの三匹にたいして、
親しみをこめた穏やかな口調で言いました。

「まあ、無理もない。人間界にいるドラギィは、
卒業試験に失敗した生徒だけだと思いこんでいただろうからね。
でも、わたしのような者もいる。君たちの修行を見守る者としてね」

「……フロンせんせい」フラップがようやく第一声をもらしました。

「ごめんなさい。ぼくたち、落ちちゃいました……試験に」

 三匹は涙を浮かべました。
人間界にすっかり慣れてきた頃合いでした。それでも、フロン先生の顔を見ると、
自分たちの中の何かがこれまでになく救われる思いになってくるのです。

「いいんだよ、君たち。これも仕方のないことだ。
それよりも、下界落としにされた君たちが、こうしてともに行動し、
いっしょにこの人間界でおだやかに暮らしている姿を見て、
わたしはむしろ、感心しているよ」

 その言葉に胸がいっぱいになった三匹は、
理解したように少しだけ大きいサイズになった先生の胸に招かれるようにして、
一斉にその中に飛びつき、泣きじゃくりました。
どれだけ長く泣いたか分からなくなるくらいに。



 フロン先生は、文字通りフラップたちのスクールの恩師でした。
様々なことを授業で教えてくれたのです。飛び方や、スカイランドの知識や、
裏世界を繋ぐ通り道の見つけ方と開き方、未知の場所でのサバイバル方法――。
それに、それぞれにハンディキャップを背負ったフラップたちが、
おたがいの心の負担を支えあいながら成長できるよう、
友達として行動しあうようにすすめてくれたのも、彼でした。

「まったく、校長も無情なことをなさるものだ」

 フロン先生は、愛すべき三匹の生徒たちを見回して言いました。
気のすむまで泣いたあと夜風に涙を乾かした三匹の目は、
フロン先生の顔をじっと見上げています。

「まだ若い学童である君たちを、
ドラギィのいない人間界に送りこむなんて、過酷なことこの上ない」

「でも、これも決まりなのでしょう?」と、フレディが聞きました。

「ああ、そうだよ。筆舌ひつぜつにつくしがたいほど問題のある制度だ。
わたしはね、最近いろいろあって、スクールの教師から、
修行者たちを各地で見守る、修行の観測役員へと転身したんだ。
これが大変な仕事でね、やることは観測することだけじゃないんだ。
ドラギィスクールの運営側の立場でもあるのだから」

 スクールを運営する側の立場――。

「ただ、いずれにせよ、教師であった頃から、
この制度にたいして口出しできる立場じゃない。
だから、君たちをスカイランドに連れて帰ることもできない。少なくとも今は」

「じゃあぼくたち……がんばるしかない、ですね」
 フラップは肩を落としながら言うのでした。

「――ところでサ、さっきのコウモリの大群は、
やっぱりせんせいの術だったんだネ。
どうしてあんなことしたノ~? アタシたちびっくりしちゃった」

「すまなかったね。観測役員として、君たちの力を試す必要があったんだ。
それには、何の前触れもなく行うことが重要だったから」

 三匹の子どもたちは、ヨシがまた、くろさまとグルになって、
自分たちを捕まえようとしていると思っていました。ですから、
あれが敬愛するフロン先生のしわざなのだと分かって、ほっとしたのです。

「――まあ、先ほどの君たちが見せた力や、
ここ最近の君たちの様子を遠くから観察してきた結果、
多少なりとも、自分たちのやるべきことに取り組んでいると分かったよ。
ただ、思いのほか修行がはかどっていないようにも見えるね」

 げげっ!

 図星でした。フロン先生は、先ほどまでとは少し打って変わって、
両腕を胸の前に組み、真剣なまなざしで生徒たちを見ていました。

「意外なことに、修行に協力してくれる者たちが、君たちのそばにいるようだね。
これにはわたしも驚かされたよ。……にもかかわらず、
君たちはまだ目ぼしい修行の成果を上げられずにいるようだ」

「い、今はただ……ちょっとつまづいてるだけですよう」
 フラップはあわてて弁解しました。

「ぼくたち、レンくんのおかげで人間界の生活ができているんです。
レンくんは、ぼくたちがここで修行しやすいように、支えてくれています。
だから、まだまだこれからなんです、きっと。うん!」

「――そう。まさにその人物だよ。
こうしてわたしが君たちの前に姿を見せた理由はね」

 フロン先生の瞳が、キラリと鋭く光ったように見えました。
それは、先生が生徒たちに重要なことを指摘する時の目つき。
これを見たスクールの生徒たちはみんな、
どんなに逃げたくなるような話にも、まるで魔法にかけられたみたいに、
静かに静かに耳を傾けるようになるのでした。

「本来、ドラギィは人間たちから姿を隠して生きるべきだ。
めずらしい物事にたいして欲が深い人間は、われわれを決して野放しにしない。
君たちが今まさに強い恩を感じているあのレン少年も、
もしかすれば、この先君たちを自分の都合のよいおもちゃするつもりかもしれない」

「「「おもちゃ~!?」」」

 三匹は、とんでもないというような調子で叫びました。

「たとえば、君たちの首に小さな首輪をつけて、
巨大化しないようにおさえつけ、飼い犬のように自分のそばにとどめながら、
大勢の人間たちへの見世物にしはじめたらどうする?
または、フシギ発明家であるフレデリックというネズミの御仁ごじんに、
君たちがスカイランドへ逃げ出さないように何らかの道具を作らせ、
その道具を使って君たちを一生、言いなりの家来にするつもりだとしたら、
いったいどうする?」

「そんなこと、あり得ないってば~!」フリーナが険しい顔で抗議します。

「少なくとも君たちは、そう断言できるのだろうね。
しかし、われわれ修行の観測役員は、スクールの威信いしんにかけて、
どんな人間であろうと厳正げんせいな判断を下さなければならないんだよ。
よってだ――」

 フロン先生は、ふわっと上に浮かび上がりながら、
下にいる三匹の生徒たちにこう告げました。

「明日から五日間、われわれ修行の観測役員は、
坂本レン少年の人間としての器を計ることにした。
もしも五日間のあいだに、あの少年の中にまごう事なき心の正しさと、
われわれドラギィにとっての害となりえない証が、見られなかった場合――」

 ごくりっ。




「君たちを即刻そっこく、レン少年のもとから引き離す」




「「「ウソだあ!!」」」

 フラップたちは雷にでも撃たれたような表情でした。


「そして君たちを、今後スクールの監視下かんしかに置く予定である、
人間のよりつかない山奥へと連れていく。
君たちが人間の目を気にすることなく、集中して修行にはげめるように。
それが、校長みずから下された決定なんだ。
――あと、このことはレン少年に言ってはならないよ。
君たちから事情を話すと、彼の自然な心のありようを観察できなくなる。
そんな恐れがあるからね」

 すっかり困り果ててしまいました。
レンがいい人間である証を見せるなんて、どうやったらいいのでしょう?
そんな容赦のない決定事項じこうにしたがうなんて、嫌に決まっています。

「お願いですからそんなの、やめてください!
ぼくたちじゃ、どうしようもないですよう!」

「ぼくもや、やっと……素敵な居場所を見つけられたと思ったのにぃ……」

「アタシの大事な大事な○○○をあげるよゥ!
だから、レンくんと引き離すなんてヤメテ~!」

 フロン先生は、生徒たちを見下ろしながら、
内心申しわけなさそうにまぶたを重たくして、こう答えました。

「……人間は悪意を持った恐ろしい生き物。たしかにそれがドラギィの教えだ。
しかし、われわれスカイランドに生きるすべてのドラギィは、本当のところ、
この世界に満ちる人間たちの心の本質ほんしつを知り、叶うことならば、
多くの人間と友好な関係を築きたい……そう願っているんだ。

今までスクールが、キミたちとあの少年との交流を、
断ち切ろうとしなかったのは、あの子の中に、
キミたちを本気で支えようとする意志を認めたからなんだ」

 でも、スクール運営の立場として、このままにするわけにはいかないから、
そろそろフラップたちとレンの関係を、終わらせようと言うのでしょうか?

「もし、今回の審査で、レン少年が今後も危険ではない者だと判定されれば」

 判定されれば……?

「レン少年を特別なドラギィの保護者として、
これからもキミたちが彼といっしょにいることを、認められるだろう。
そうなることを、キミたちは心から願い続けるといい――」


 突然、フロン先生の姿が煙のように消えてなくなってしまいました。
彼が授業の現場からいなくなる時と、同じ消え方でした。


 しん、としました。どこからか聞こえてくる虫たちの鳴き声。


 最後にはげますようなフロン先生の言葉とは反対に、
フラップたちはただただ不安をつのらせるばかりでした。

「……スクールの監視下になる山奥、だってさ」

「つまり、レンくんから引き離されたら、
ぼくらは、フロン先生とその仲間たちに見張られて、
もうどこにも飛んでいけなくなるってことだ。
もうレンくんの部屋にも……ここへすらも戻ってこられないだろうな」

「そ、そんな……アタシ、耐えられないよゥ」

 まさか、こんな事態におちいってしまうとは……
三匹の小さなドラギィは、ただぼう然と月を見上げるしかありませんでした。
スカイランドから見えるのとまったく同じ。切なくなるような満月のことを。
 

 ※本日も更新が遅い時間になってしまい、申しわけありません!
  なるべく18:00~20:00の間には更新できるように努めます!!💦
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