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第二章『お宝さがしの真実』

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キャンプ主催者や引率者たちが寝泊まりする、一際大きなテント。

それが、リーダーテント。このテントの前に、

今回の参加者たち二十八名が、班ごとに固まって体育座りしていた。

熱中症対策に、みんな帽子をかぶり、水筒の用意もぬかりない。


タスクとトキオが教えてくれたのだが、

今年は例年に比べて、女子の参加者が急増したらしい。

言われてみれば、女子の数がかなり多いようにも思える。

ざっと見渡してみても、二十八人のうちの半数以上を占めているようだ。

大人たちは偶然だと言い張るが、いつもは男子よりも少ないらしい。

男子側からしたら、ちょっぴり居心地が悪いのだが……。


ハルトとスズカは、ケントを班長とした班のなかで、後ろのほうに座っていた。

ハルトは、自分の後ろに座るスズカの様子を気にして、

たまにチラリと振りむいていた。

スズカは、貸してもらった帽子のつばを目深にし、

今にも泣きだしそうな顔で、人目をはばかるように地面を見つめている。


(――これで、よかったんだよね?)

と、何度も自問する自分を、ハルトはちょっぴりほこらしく思った。


さて、このサマーキャンプには、六人の大人の引率者たちがついていた。

そのなかでも最年長者のクロワキ氏が、キャンプの主催者とされていた。

あとの五人は、みんな二十代から三十代の若い人たちばかりだった。

その若い人たちが、一班ごとに一人ずつ割り当てられて、

テントや荷物などを管理したり、子どもたちの面倒を見たりするのだ。


ハルトの班には、モニカさんという若い女の人がついていた。

愛らしい黒髪のおさげに、首もとには爽やかな空色のスカーフと、

ことにおしゃれをしていた。

一番目を引くのは、赤ぶち眼鏡だろうか。

明るくて、気さくで、だれもが親しみやすい性格をしている。

おまけに、スタイルもばっちりときた。


気になるところといえば、彼女の名前だ。

彼女に限らず、引率者は全員、いかにも日本人の顔なのに、

外国人のような名前なのだ。


そのモニカさんが、

子どもたちの間をゆっくり歩いてきて、ハルトを見下ろしてきた。


「聞いたよ、ハルトくん。スズカさんに帽子を貸してあげたんだね」

「うん、まあ……」

「えらいなあ。あなた、将来いい大人になれそう。ドラゴン大好きハルトくん」


ハルトがどんな少年なのかは、ここへ来る前のバスの中で、

ひとりずつマイク片手に自己紹介をしたときに、自分ですでに周知ずみだった。

でも、こうもいたずらっぽく言われると、いくぶん気恥ずかしいものがある。


「ねえ、ハルトくんって、女の子には優しくするタイプ?」

「いや、どうかなあ……」

「そっか……でもさ、

このキャンプが素敵なファースト・ステップになるといいね」


ファースト・ステップ?  はじめの一歩ってこと?  いったいなんの?


そうこうしているうちに、リーダーテントのなかから、

このキャンプの主催者、クロワキ氏が子どもたちの前に姿を現した。


「あ、クロワキさんがいらっしゃった。じゃあね。

お楽しみゲーム、きっと気に入ってもらえると思うからね」


モニカさんは行ってしまった。なんだったんだろう?

それにしても、あの人もそうとうきれいだ。

あんな人と将来、結婚できたらと思うと、

胸の奥に甘酸っぱい気持ちが広がっていく。


      *


「さてと、参加者のみなさん。わたしが、キャンプ主催者のクロワキです」


クロワキ氏は、子どもたち全員に聞こえるように、

キャンプ場にしっかりひびく声で挨拶をした。

ややふっくらとしたお腹に、左右に流した爽やかな茶髪。

桃色のワイシャツの上にセピア色のベストと、なかなかの存在感を放っている。

しかし、何より特徴的なのは、

黒光りする金縁サングラスと、左腕の金の腕時計だ。

そのせいかもしれないが、どこかの会社のベテラン社長のような風格がある。

実際に会うのははじめてだ。それにしても、主催者みずからゲームの発表とは。


(あの人が直々に、お楽しみゲームを発表するの?)

(ちょっと背筋伸びちゃうよねえ?)

(あのお腹さ、うちのパパにそっくり!)


案の定、子どもたちのひそひそ声が波をうった。

ただのキャンプ主催者ではない独特な雰囲気を、

みんな感じ取っているのかもしれない。


クロワキ氏は最初、

今回の子どもたちのキャンプ参加にたいする喜びを語っていたが、

途中から自分の好きな食べ物や、趣味なんかを紹介しはじめた。


大好きな釣りの話では、


「いやあ~、その昔ね、アブラボウズという巨大魚と、

静岡の海で格闘したことがあったんですけどね。

わたしってば未熟なもんだったから、力負けして海に引きこまれて、ドボン!

その日は真冬だったから、もう冷たいのなんのって!」

という経験を、ジェスチャーを交えて見事に語りつくし、

退屈しがちな子どもたちを笑いで引きつけた。


その一方で、左右に立ちならぶキャンプ引率者たちは、

クロワキ氏にたいして並々ならぬ誠意のまなざしをむけながら、

じっと整列していた。

そんな異様な光景でさえ、クロワキ氏の笑いありの思い出話のおかげで、

子どもたちの注意をまぬがれていたのだ。


「すみませんね、こんなに暑いのに前置きが長くなってしまって。

毎度、わたしの思い出話を子どもたちにお話するのが、たまらなく好きでして」


やっと本題に入るようだ。

ゲームの話に入るまで、ざっと十分近くかかったのでないだろうか。


「今回は、お宝さがしゲームを行いましょう!

ルールはとっても簡単。これから一班ごとに、宝の地図と鍵をお渡しします。

宝の地図は、それぞれ違う場所をしめしていますので、

ふたつ以上の班が鉢合わせになることはないですよ~。ですので、

みなさんはただ自分の班のメンバーと力をあわせて、お宝を探せばオーケー。

ではでは、みんなで楽しく、お宝さがしに乗り出していってくださいねー!」
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