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第16話 お兄ちゃん、それアウト【兄視点】
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──夕焼けが街を包み、俺はようやく自宅に帰り着いた。
「ただいま~」
玄関を開けた瞬間、キッチンからバタバタと足音が聞こえてくる。
「お兄ちゃん~! おかえり!」
エプロン姿の妹、神田姫花が笑顔で駆け寄ってきた。ダークブラウンのボブヘアがふわっと揺れて、まるでCMみたいにキラキラしてる。
「ご飯ね、ちょうど今できたところだよ! それとも……」
一瞬の沈黙のあと、イタズラっぽく目を細めてこう続ける。
「ご飯にする? それとも……ひ・め・か?」
なんか昭和のテンプレが飛んできたけど、これが姫花の“あざと可愛さ”でもある。
「そうだな……姫花にするよ」
「……は?」
一瞬で室温が5℃下がった。
声のトーンが氷点下だった。
「……何言ってるの? バカなの?」
冷たい視線に射抜かれ、俺の心は見事に粉砕された。
「……ご飯にします」
素直に敗北を認めた俺は、しょんぼりしながら食卓へ。
ハンバーグにサラダ、味噌汁、そして――
「おっ、卵焼きじゃん!」
思わずテンションが上がった。
「うん、安城さんのを見様見真似で作ってみたんだ」
姫花が少し得意げに微笑む。
ひと口食べると、ふわっふわで優しい味。しかも、見た目もきれいにまとまってる。
「……うまっ! 姫花、天才かよ!」
(我ながら、さすが妹だ……)
「“さすが妹”って何その上から目線? 『さすが姫花』って言いなさいよね」
拗ねる妹もまた、最高にかわいい。
「お兄ちゃん、元気になってよかった。安城さんのおかげ?」
「そう、俺の“推し”なんだよ」
「え~なにそれ!」
そう言いつつも、姫花は嬉しそうだった。
昼休みにあった出来事を軽く話すと、姫花はぽつりと言った。
「……安城さんって、すごいね。今度、家に招待しないとね。ところで、お兄ちゃんはまたバスケやるの?」
「わかんねーけどな」
たわいもない会話を続けていたら、食事はいつの間にか完食していた。
「ごちそうさま~」
「お兄ちゃん、私お風呂入るからね!」
ドアの向こうからの声は、明らかに「間違っても入ってくるなよ」の圧が込められていた。
(……昔は“お兄ちゃん一緒に入ろ~”って言ってたのに。思春期ってやつは……)
などと感傷に浸っていたら、いつの間にかウトウトしていた。
目が覚めると、少し経っていた。
「やっべ、風呂入ってなかった……」
そのとき、数分前の妹からの警告はきれいさっぱり脳内から消えていた。
のそのそと廊下を歩き、風呂場のドアを――
「……っ!?」
バフッ!!
開けた瞬間、ものすごい勢いでタオルが飛んできた。
「今入ってるってばーっ!! 何してんの、バカ兄!!」
湯気と怒声とタオル。
これが三点セットで飛んでくるとは、思ってもみなかった。
「ご、ごめんっ!」
その声は、真冬の海よりも冷たかった。
それからしばらく――
神田姫花さんは、俺に目すら合わせてくれなかった。
(人間という生き物は、忘れる生き物である……)
今日も我が家は、世界でいちばんあたたかい場所だった――
(ただし風呂場を除く)
「ただいま~」
玄関を開けた瞬間、キッチンからバタバタと足音が聞こえてくる。
「お兄ちゃん~! おかえり!」
エプロン姿の妹、神田姫花が笑顔で駆け寄ってきた。ダークブラウンのボブヘアがふわっと揺れて、まるでCMみたいにキラキラしてる。
「ご飯ね、ちょうど今できたところだよ! それとも……」
一瞬の沈黙のあと、イタズラっぽく目を細めてこう続ける。
「ご飯にする? それとも……ひ・め・か?」
なんか昭和のテンプレが飛んできたけど、これが姫花の“あざと可愛さ”でもある。
「そうだな……姫花にするよ」
「……は?」
一瞬で室温が5℃下がった。
声のトーンが氷点下だった。
「……何言ってるの? バカなの?」
冷たい視線に射抜かれ、俺の心は見事に粉砕された。
「……ご飯にします」
素直に敗北を認めた俺は、しょんぼりしながら食卓へ。
ハンバーグにサラダ、味噌汁、そして――
「おっ、卵焼きじゃん!」
思わずテンションが上がった。
「うん、安城さんのを見様見真似で作ってみたんだ」
姫花が少し得意げに微笑む。
ひと口食べると、ふわっふわで優しい味。しかも、見た目もきれいにまとまってる。
「……うまっ! 姫花、天才かよ!」
(我ながら、さすが妹だ……)
「“さすが妹”って何その上から目線? 『さすが姫花』って言いなさいよね」
拗ねる妹もまた、最高にかわいい。
「お兄ちゃん、元気になってよかった。安城さんのおかげ?」
「そう、俺の“推し”なんだよ」
「え~なにそれ!」
そう言いつつも、姫花は嬉しそうだった。
昼休みにあった出来事を軽く話すと、姫花はぽつりと言った。
「……安城さんって、すごいね。今度、家に招待しないとね。ところで、お兄ちゃんはまたバスケやるの?」
「わかんねーけどな」
たわいもない会話を続けていたら、食事はいつの間にか完食していた。
「ごちそうさま~」
「お兄ちゃん、私お風呂入るからね!」
ドアの向こうからの声は、明らかに「間違っても入ってくるなよ」の圧が込められていた。
(……昔は“お兄ちゃん一緒に入ろ~”って言ってたのに。思春期ってやつは……)
などと感傷に浸っていたら、いつの間にかウトウトしていた。
目が覚めると、少し経っていた。
「やっべ、風呂入ってなかった……」
そのとき、数分前の妹からの警告はきれいさっぱり脳内から消えていた。
のそのそと廊下を歩き、風呂場のドアを――
「……っ!?」
バフッ!!
開けた瞬間、ものすごい勢いでタオルが飛んできた。
「今入ってるってばーっ!! 何してんの、バカ兄!!」
湯気と怒声とタオル。
これが三点セットで飛んでくるとは、思ってもみなかった。
「ご、ごめんっ!」
その声は、真冬の海よりも冷たかった。
それからしばらく――
神田姫花さんは、俺に目すら合わせてくれなかった。
(人間という生き物は、忘れる生き物である……)
今日も我が家は、世界でいちばんあたたかい場所だった――
(ただし風呂場を除く)
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