隣の席のオッドアイギャルは俺の心の声が聞こえるらしい

夕凪けい

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第21話 偶然の出会いと、白いワンピース

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(うわっ……人、多すぎ……)

休日のショッピングモールは想像以上に混んでいて、俺・神田ゆういちはすでに人混みに酔いそうだった。

「お兄ちゃん、こっちこっち~!」

無邪気にはしゃぐ妹・姫花。今日は彼女の服を買いに付き合っている。

「お兄ちゃん、もっとテンション上げて!買い物は楽しまなきゃ!」

「いや、流石にこの人の多さは……」

俺は――人混みが、嫌いだ。
ただでさえ疲れるのに、なんでわざわざ自分から疲れに行くのか、意味がわからない。
すれ違う人の波。押し寄せる騒音。まるで体力を吸い取られる呪いの陣みたいだ。

けれど、世の中にはいるらしい。
この雑踏すら「活気」と呼んで楽しめる、特殊な人種が。まるで理解できない。いや、したくもない。

(……俺とは別の生き物だと思うことにしよう)

そう心でつぶやきながら、俺はそっとため息を吐いた。そんな俺に姫花は、満面の笑みで俺にささやく。

「姫花ね、可愛い服ほしいから一緒に選んでよ!」

そんな流れで、肩を組まれ、半ば強制的に入ったのは──
レディース専門店だった。
完全に場違い。けれど姫花は楽しそうで、俺はただ黙って後ろをついていく。

──そんな時だった。

店の奥、マネキンの隣に飾られた白いワンピースに目が留まった。

(……これ、安城が着たら絶対かわいいよな?……)

つい、心の中で妄想してしまった。金髪にオッドアイの推しヒロイン。
ふわりと揺れるスカート、陽だまりの中で微笑んで──

(いや待て待て、てか、俺休日まで推しのこと考えてんの?バカじゃん俺)

そのとき。

「――あれ? 安城さんだ!!」

突如、隣を歩いていた姫花が声を上げた。

次の瞬間、手を大きく振りながら、人波をかき分けて駆け出していく。

「あ、姫花……おい、ちょっ、急に走るなって!」

止める間もなく、彼女はすでに“推し”の元へ一直線。

「安城さーん!」

その声に気づいたのか、前方で立ち止まって振り返ったのは――まさにその人、安城恵梨香だった。

「……姫花ちゃん、こんにちは」

黒のトラックジャケットに、スリムなデニムパンツ。普段の制服姿とは違い、どこかスポーティーな雰囲気を纏った彼女が、そこにいた。

(……あれ? この服装、どこかで見たような……?)

ふと、そんな既視感がよぎる。けれど、思い出せそうで思い出せない。

(……いや、気のせいか?)

「うわぁ……安城さんの私服、初めて見た!!」

姫花が、目を輝かせながら安城に近づいていく。

「かっこいい系なんだね!? でも安城さんなら、もっと女の子っぽい服装も絶対似合うと思うんだけどな~!」

その言葉に、安城はほんの一瞬だけ目を伏せてから、ぽつりと口を開いた。

「……私、そういうの……似合わないの」

少しだけ寂しげに、でもどこか吹っ切ったような声だった。

「剣道、ずっとやってきたから。なんか、そういう可愛いのとか、ずっと縁がなくて……」

安城の言葉に、姫花が「そんなことないよ~!」と明るく返すその隣で、なぜか俺も――気づけば、口を開いていた。

「いや、絶対似合うだろ?」

その言葉が自分の口から出たとき、思わず内心で驚く。

(……え? 今の、心の声じゃなくて……口に出してた!?)

いつもなら、こんなセリフは心の中で“推し活”としてつぶやくだけなのに。
けど、もう止まらなかった。言葉が勝手に、前のめりにあふれてくる。

「むしろ安城が似合わなかったら、もはや服のほうが悪いだろ」
「顔、めっちゃ可愛いし。何着ても絶対似合うと思うぞ」

その瞬間――彼女の目が、見開かれた。

「……っ!?」

普段、俺の“本音”は心の声でしか伝わらない。
それを直接、真正面から浴びせられた安城は、まるで仮面を剥がされたみたいに動揺を隠せない。
頬がみるみるうちに赤くなって、目は宙を泳ぎ、口元は小さく震えていた。

(あ、やばい。やっちまった……)

でも――止まらない。

俺は、さっき見かけた白いワンピースのことを思い出して、口を開く。

「そういえばさ、安城が着たら、すっげー似合いそうな白いワンピースがあったんだよ」

勢い任せで、まるで店員のセールストークみたいに流暢に言葉が出てくる。

「良かったら、試着してみないか?」

自分で言いながら顔が熱くなるのを感じる。でも――

彼女は、それを断らなかった。

むしろ――驚くほど、まんざらでもなさそうな顔をしていた。

目を伏せ、ほんの少しだけ微笑みながら、ぽつりとつぶやく。

「……わかったわよ。でも……似合ってなくても、笑わないでね?」

その声が、どこか恥じらいを含んでいた。
俺は力強く頷いた。

(当たり前だ。似合うのは確定事項なんだから)

――むしろ、問題はそこじゃない。

(似合いすぎて……俺の顔が、スケベな顔にならないかだけが心配なんだよ……!!)

叫びたい気持ちを押し殺しながら、俺は内心で自分を叱った。

推しがワンピースを着る――そんな尊すぎるイベントが、いま、目の前に迫っていた。

そう言って、安城は試着室に向かった。
カーテンが閉まる。
その場に、急に静寂が降りた。

(……ヤバい楽しみすぎる。緊張して俺の心臓の音がうるさい……!)
カーテンが──ゆっくりと開く。

「……ど、どうかしら……?」

その声とともに、視界に飛び込んできたのは――
白いワンピースに身を包んだ、“推し”の姿だった。

金髪にオッドアイ。普段はクールな“剣姫”のイメージが強い彼女が、
いまはまるで――
童話から抜け出してきたお姫様のように、そこに立っていた。

「……めっちゃ、可愛いよ……」

まただ。口に出てた。

(うそ、なんで……また言ってる!?)

いつもなら“心の声”で留めておくはずの俺が、
今日はどうかしてる。

「やばい……想像を遥かに超えてる……」

止まらない。
今日の俺には、ブレーキなんて最初からついてなかったらしい。

ついているのは、アクセルだけ。
心の声が、全部、言葉になって零れていく。

そんな俺の暴走(?)を前に、安城は顔を真っ赤にしながら、ぷいっと視線を逸らす。

(も、もう……なによ、“可愛い”って……)

心の中で、ちょっとだけ拗ねたように呟く彼女の声が――聞こえた気がした。

──やがて、試着が終わり。
安城は、静かにワンピースをラックへ戻す。

「……やっぱり、私には似合わないわ。ごめんなさい」

その言葉に、俺は思わず息を呑んだ。

(いやいやいやいや、何言ってんの!?)

誰がどう見ても、似合ってた。
いや、“似合ってた”じゃない。

伝説級だった。

「そんなことないって……」

思わず口をついて出る。
もっと見ていたかった。もっと笑ってほしかった。
……なのに、もう“姫”は見納めだ。

けれど安城は――

「いいの。今日は……見せただけで、充分だから」

その言葉は、どこか照れくさそうで――でも、どこか嬉しそうだった。

(……やっぱり、興味はあるんだ。女の子らしい服)

それを見せる勇気が、ほんの少しだけ芽生えただけ。その“勇気”を俺に見せてくれたのが、なんだか無性に嬉しかった。

そして――

「お兄ちゃん~! これ買うのに決めた~!」

姫花が、満面の笑みで戻ってくる。

買い物を終え、帰ろうとした――その時。
彼女は、とんでもない爆弾を落とした。

「ねぇ、安城さん。今日、うち来ない?」

「えっ?」

安城が思わず目を丸くする。
……俺は、内心で思わず叫んだ。

(でかした、妹……!!)

人生で初めて、妹に感謝のガッツポーズを捧げた日だった。
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