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第121話 交差する決意と銀色の指輪
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「――愛理を、救いに行く」
そう決めた瞬間、胸の奥に残っていた迷いが、すっと消えた。
安城星梨奈から“転写”された、愛理の過去。
それを見て、俺はようやく理解した。
彼女が、なぜ俺にあんなことをしたのか。
なぜ、あそこまで歪んだ形でしか、俺を愛せなかったのか。
――理由は、そこにあった。
ずっと一緒にいたはずなのに。
俺は、彼女たちがそんな過去を抱えていることを、知らなかった。
いや……違う。
知ろうと、してこなかったんだ。
俺はずっと、
自分という視点だけで世界を見ていた。
「自分だけが、苦しい過去を背負っている」
そんなふうに、どこかで思い込んでいた。
でも、違った。
誰もがそれぞれの苦しみを抱えていて、
それを隠すために、仮面を被って生きている。
その事実に気づいた瞬間、
自分の浅さが、嫌というほど胸に刺さった。
俺は情けなくなり、下唇を強く噛み締める。
――それでも。
あいつらは、そんな過去を抱えたまま、
中学時代の俺を、確かに救ってくれた。
愛理のやり方を、肯定することはできない。
けれど……理解してしまう自分がいる。
そして、過去の俺は、
確かに、救われた。
その事実だけで――もう、十分だった。
だからこそ、俺は思った。
(彼女を……救いたい)
理由なんて、それで十分だった。
今日は土曜日。
剣道部の練習日だ。
――夢の最後。
愛理は、あんなことを言っていた。
「最後に……やることが、できたの」
「私が、私の意思で」
「私の手で――
彼女を、地獄に叩き落とさなきゃいけない」
……あいつは、向かう。
間違いなく、安城のところへ。
当然、安城恵梨香は道場にいる。
そして――愛理も、そこへ向かう。
胸の奥が、ざわついた。
「急がないと……」
俺はそう呟き、そのまま学校へ向かって駆け出した――
その瞬間。
「はいは~い♪ ちょっと待って~」
背後から、場違いなほど明るい声が飛んできた。
振り返ると、そこにいたのは安城星梨奈だった。
いつもの余裕そうな笑顔で、なにかを差し出してくる。
「はいこれ! 私から君にプレゼント~」
反射的に、それを受け取る。
「……なんだこれ?」
手のひらの上に乗ったそれを見て、思わず眉をひそめた。
「指輪?」
銀色の指輪。
装飾はシンプルだが、不思議と目を引く存在感がある。
見た目以上に、ずしりと重い。
まるで――ガジェットか、発明品みたいな質感だった。
「これはね~」
星梨奈は、楽しそうに笑って言う。
「ただのお守りだよ?」
「……お守り?」
そんなわけがない。
彼女が、意味のないものを渡す人間じゃないことくらい、もう分かっている。
少しの付き合いだが、この指輪には“何か”がある。
そう直感している俺を見ても、星梨奈は気にした様子もなく、明るい調子で続けた。
「今から戦いに赴く戦士への、せめてもの私からの選別さ」
そう言って、にこっと笑う。
俺は、手の中の指輪を見つめた。
ずしり、と指先に伝わる重み。
……冗談みたいな言い方だけど。
これは、彼女なりの応援なのかもしれない。
そう思った瞬間、胸の奥が、じんわりと熱くなった。
「ありがとうな」
そして、前を向く。
「それじゃ、俺行ってくるわ!」
「うん。私も、あとで向かうとするよ」
短く言葉を交わし、俺はその場を後にした。
目的地は――学校。
俺は、愛理を救う。
そして、安城を守る。
そう心に決めた瞬間、足取りが自然と速くなった。
迷っている暇はない。今は、一秒でも惜しい。
そのまま学校へ向かおうとした、その途中――
視界の端に、見覚えのある姿が映る。
「あれ? ゆういち、どうしたの?
休日にこんなところで」
聞き慣れた声。
振り返ると、そこに立っていたのは親友の如月聖だった。
――まずい。
この件に、聖を巻き込みたくない。
無意識に、そう思ってしまう自分がいた。
だから俺は、わざとはぐらかすように答える。
「ちょっと野暮用でさ。今から学校に行くんだ」
言い終えてから気づく。
自分でも驚くほど、声が焦っていた。
……全く。
親友というのは、どうしてこうも鋭いんだ。
聖は一瞬だけ、俺の顔をじっと見つめた。
冗談も、からかいもない――真剣な視線。
そして、静かに言う。
「僕も、ついて行っていいかな?」
理由は聞かない。
事情も詮索しない。
――昔から、そうだ。
聖はいつだって、「話したくなるまで隣にいる」タイプの人間だった。
俺は、答えに詰まりながら、胸の奥で小さく息を呑む。
……やっぱり、敵わないな。
理由も、事情も、聞いてこない。
昔からそうだ。
――話したくなるまで、黙って隣にいる。
俺と聖は、並んで学校へと急いだ。
道中、俺は事情をかいつまんで話す。
愛理が――安城のところへ、喧嘩をふっかけに行ったかもしれない、ということを。
……あくまで、俺の予想であってほしい。
そう願わずにはいられなかった。
校門をくぐり、剣道部の道場へ向かう途中。
俺は、気づかなかった。
その背中を、少し離れた場所から、じっと見つめる視線があったことに。
黒羽冬花。
「……あれ? 神田っちと如月さん、なにしてるんだろ」
首をかしげ、少しだけ考え込む。
そして――にやり、と小さく笑った。
「ちょっと気になるし、見に行ってみようかな」
「神田っちを安城さんから略奪する、いいヒント見つかるかもしれないし」
そんな物騒なことを呟きながら、
彼女は、何食わぬ顔で二人の後を追い始めていた。
――もちろん、俺たちはそんなことに気づくはずもない。
一本道を進む。
この先を抜ければ、剣道部の道場だ。
そのときだった。
「まさか、ゆういちだけじゃなく――聖まで一緒とはな」
背後から響いた、聞き慣れすぎた声。
俺と聖は、同時に足を止める。
誰の声かなんて、もう分かっている。
目の前で、一人の男がゆっくりと立ち上がり、
重たい視線をこちらに向けた。
「……ここから先は、行かせないぜ」
道を塞ぐように立つ、その男。
整った顔立ち。
俳優顔負けのスタイル。
――俺の、元親友。
真田蓮也だった。
そう決めた瞬間、胸の奥に残っていた迷いが、すっと消えた。
安城星梨奈から“転写”された、愛理の過去。
それを見て、俺はようやく理解した。
彼女が、なぜ俺にあんなことをしたのか。
なぜ、あそこまで歪んだ形でしか、俺を愛せなかったのか。
――理由は、そこにあった。
ずっと一緒にいたはずなのに。
俺は、彼女たちがそんな過去を抱えていることを、知らなかった。
いや……違う。
知ろうと、してこなかったんだ。
俺はずっと、
自分という視点だけで世界を見ていた。
「自分だけが、苦しい過去を背負っている」
そんなふうに、どこかで思い込んでいた。
でも、違った。
誰もがそれぞれの苦しみを抱えていて、
それを隠すために、仮面を被って生きている。
その事実に気づいた瞬間、
自分の浅さが、嫌というほど胸に刺さった。
俺は情けなくなり、下唇を強く噛み締める。
――それでも。
あいつらは、そんな過去を抱えたまま、
中学時代の俺を、確かに救ってくれた。
愛理のやり方を、肯定することはできない。
けれど……理解してしまう自分がいる。
そして、過去の俺は、
確かに、救われた。
その事実だけで――もう、十分だった。
だからこそ、俺は思った。
(彼女を……救いたい)
理由なんて、それで十分だった。
今日は土曜日。
剣道部の練習日だ。
――夢の最後。
愛理は、あんなことを言っていた。
「最後に……やることが、できたの」
「私が、私の意思で」
「私の手で――
彼女を、地獄に叩き落とさなきゃいけない」
……あいつは、向かう。
間違いなく、安城のところへ。
当然、安城恵梨香は道場にいる。
そして――愛理も、そこへ向かう。
胸の奥が、ざわついた。
「急がないと……」
俺はそう呟き、そのまま学校へ向かって駆け出した――
その瞬間。
「はいは~い♪ ちょっと待って~」
背後から、場違いなほど明るい声が飛んできた。
振り返ると、そこにいたのは安城星梨奈だった。
いつもの余裕そうな笑顔で、なにかを差し出してくる。
「はいこれ! 私から君にプレゼント~」
反射的に、それを受け取る。
「……なんだこれ?」
手のひらの上に乗ったそれを見て、思わず眉をひそめた。
「指輪?」
銀色の指輪。
装飾はシンプルだが、不思議と目を引く存在感がある。
見た目以上に、ずしりと重い。
まるで――ガジェットか、発明品みたいな質感だった。
「これはね~」
星梨奈は、楽しそうに笑って言う。
「ただのお守りだよ?」
「……お守り?」
そんなわけがない。
彼女が、意味のないものを渡す人間じゃないことくらい、もう分かっている。
少しの付き合いだが、この指輪には“何か”がある。
そう直感している俺を見ても、星梨奈は気にした様子もなく、明るい調子で続けた。
「今から戦いに赴く戦士への、せめてもの私からの選別さ」
そう言って、にこっと笑う。
俺は、手の中の指輪を見つめた。
ずしり、と指先に伝わる重み。
……冗談みたいな言い方だけど。
これは、彼女なりの応援なのかもしれない。
そう思った瞬間、胸の奥が、じんわりと熱くなった。
「ありがとうな」
そして、前を向く。
「それじゃ、俺行ってくるわ!」
「うん。私も、あとで向かうとするよ」
短く言葉を交わし、俺はその場を後にした。
目的地は――学校。
俺は、愛理を救う。
そして、安城を守る。
そう心に決めた瞬間、足取りが自然と速くなった。
迷っている暇はない。今は、一秒でも惜しい。
そのまま学校へ向かおうとした、その途中――
視界の端に、見覚えのある姿が映る。
「あれ? ゆういち、どうしたの?
休日にこんなところで」
聞き慣れた声。
振り返ると、そこに立っていたのは親友の如月聖だった。
――まずい。
この件に、聖を巻き込みたくない。
無意識に、そう思ってしまう自分がいた。
だから俺は、わざとはぐらかすように答える。
「ちょっと野暮用でさ。今から学校に行くんだ」
言い終えてから気づく。
自分でも驚くほど、声が焦っていた。
……全く。
親友というのは、どうしてこうも鋭いんだ。
聖は一瞬だけ、俺の顔をじっと見つめた。
冗談も、からかいもない――真剣な視線。
そして、静かに言う。
「僕も、ついて行っていいかな?」
理由は聞かない。
事情も詮索しない。
――昔から、そうだ。
聖はいつだって、「話したくなるまで隣にいる」タイプの人間だった。
俺は、答えに詰まりながら、胸の奥で小さく息を呑む。
……やっぱり、敵わないな。
理由も、事情も、聞いてこない。
昔からそうだ。
――話したくなるまで、黙って隣にいる。
俺と聖は、並んで学校へと急いだ。
道中、俺は事情をかいつまんで話す。
愛理が――安城のところへ、喧嘩をふっかけに行ったかもしれない、ということを。
……あくまで、俺の予想であってほしい。
そう願わずにはいられなかった。
校門をくぐり、剣道部の道場へ向かう途中。
俺は、気づかなかった。
その背中を、少し離れた場所から、じっと見つめる視線があったことに。
黒羽冬花。
「……あれ? 神田っちと如月さん、なにしてるんだろ」
首をかしげ、少しだけ考え込む。
そして――にやり、と小さく笑った。
「ちょっと気になるし、見に行ってみようかな」
「神田っちを安城さんから略奪する、いいヒント見つかるかもしれないし」
そんな物騒なことを呟きながら、
彼女は、何食わぬ顔で二人の後を追い始めていた。
――もちろん、俺たちはそんなことに気づくはずもない。
一本道を進む。
この先を抜ければ、剣道部の道場だ。
そのときだった。
「まさか、ゆういちだけじゃなく――聖まで一緒とはな」
背後から響いた、聞き慣れすぎた声。
俺と聖は、同時に足を止める。
誰の声かなんて、もう分かっている。
目の前で、一人の男がゆっくりと立ち上がり、
重たい視線をこちらに向けた。
「……ここから先は、行かせないぜ」
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――俺の、元親友。
真田蓮也だった。
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