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第一章
放課後の勉強会
しおりを挟む次の日放課後、みんなで勉強会をすることになった。
窓の外では、また雨が降り出している。
ぽつ、ぽつ……と静かにリズムを刻む音が、
教室の空気を柔らかく包み込んでいる様だった。
机を5つくっつけて、みんなで机を囲むように座る。
ぺらっとノートを開いたものの、目の前の英単語よりも雨の音のほうがよっぽど頭に入りやすかった。
「おいひなた、そこ違うぞ」
隣の席から瑠夏が私のノートをのぞきこんでくる。
持っていたシャーペンで間違っている箇所をトントンと叩きながら、いつものように少しだけ呆れた顔。
「“study”の過去形は“studied”な。
語尾のyがiに変わる」
「あっ、そっか。
ありがとう、瑠夏先生」
「ふっ、まったく。
どんだけやっても抜けてんだよなぁ」
強がりっぽく言いながらも、ノートの端に私の分まで小さく書いてくれる瑠夏が、なんだか優しく見えた。
そんな中、蛍がふと顔を上げる。
「そういえばさ、昨日すごい雨降ったけど、ひなたちゃんと帰れた?」
「え?」
私が顔を上げると、周りの視線が一斉にこっちに向いた。
天音も手を止めて、悠理は少しだけ口元で笑っている。
「確か昨日傘持ってなかったよね?」
「う、うん……。
昨日は帰ってたら丁度ちょっと降り出しちゃって…。
濡れちゃったから雨宿りしてたの」
「へぇ?
一人で?」
蛍の声が、ほんのり楽しそうに跳ねる。
「えっと……その……」
口ごもっていると、悠理がページをめくるような仕草で口を開いた。
「俺がたまたま通りかかってな。
困ってるみたいだったから、拾ってやったんだよ」
その“拾ってやった”の言い方が、なんかもうズルい。
「拾われたの!? 」
蛍が机に身を乗り出してくる。
「ち、違うくはないけど…。
ホントに偶然だったの!
ね、悠理?」
「まぁ、偶然ってやつだな」
軽く肩をすくめる悠理。
その瞬間、瑠夏が無言でペットボトルのキャップをぎゅっと閉めた音がした。
「……ふーん、偶然ね」
視線はノートに落としたまま。
その横で、天音は静かに笑っていた。
優しいけど、どこか複雑な表情。
私は、なんでかこの空気がいたたまれなくなってペンを握り直した。
「ま、ひなたが無事ならよかったよ」
天音が穏やかに言って、またノートにペンを走らせる。
その声に瑠夏も小さくうなずいて、ようやく空気がいつもの穏やかさに戻った気がした。
悠理はというと、そんなみんなを見て軽く笑いながら
「…平和だな、ホント…」って呟いていた。
その横顔は、やっぱり少し大人びて見えた。
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