俺の隣にいるのはキミがいい

空乃 ひかげ

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第一章

雨宿り

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 天気予報では「夜から小雨」って言ってたはずなんだけど…。
 空はもう容赦なくグレー一色だった。

 下校途中、ぽつ、ぽつ……と制服の肩に冷たい感触が落ちる。
 「え、うそ、降ってきた……!」
 慌てて空を見上げた瞬間、雨脚は一気に強まった。

 傘、持ってない!
 朝はあんなに晴れてたのに……!

 仕方なく、近くの商店街のアーケードの端に駆け込む。
 屋根の下に入るころには、前髪も少し濡れていて制服の袖口がしっとり重たくなっていた。

「……ついてないなぁ、ホント」
 思わずため息が漏れる。

 その時、ふと視界の端に誰かの影が差し込んだ。
 振り向くと、そこには片手に傘を持った悠理が立っていた。

「おやおや、雨宿り中のひなたさんじゃん。
 まさかのノーガード戦法か?」
 軽い口調。
 でも目の奥は、ちゃんと優しい。
 そういうところ、ずるいなって思う。

「うぅ……油断してた。
 降らないと思ってたのに」
「ま、梅雨ってやつは気まぐれだからな」

 そう言って悠理は、鞄からタオルを取り出した。
 ふわっと洗濯したばかりの柔軟剤の香りがする白いタオル。

「ほら、これ使ってないから使いな。
 今日部活休みだったし」
 部活って、確か天音と同じ剣道部だったっけ?
「え、でも……」
「風邪ひかれたら後味悪いだろ?」
 言いながら、ためらいもなく私の頭にそのタオルをそっと当ててきた。

「ちょ、ちょっと、自分で拭けるよ!」
「動くなって。
 ……ほら、前髪びしょびしょ」
 軽く笑いながら、タオルで私の髪を優しく押さえる悠理。
 その仕草があまりに自然で、ドキッとして思わず目を逸らした。
 悠理はただ親切にしてくれてるだけ!
 そう心の中で唱えて平静を装った。

「……ありがと」
「どういたしまして。
 さて、帰るか」

「え、でも私傘が…」
「俺のに入ればいいだろ」
「へっ!? 
 そ、それは……」
「まさかこの雨の中、走って帰る気か?」
「う……いや、それは……」

 結局、言い返せなくて。
 悠理が差し出した傘の下に、そっと入り込む。

 思ったより距離が近くて、
 悠理の肩越しに見える街灯の光が、雨粒の中できらきら揺れていた。

「…もう少しこっち寄らないと、濡れるぞ」
「う、うん……」
 少し詰め寄ると、悠理の傘が私の方にぐっと傾けられる。
 その分、彼の右肩が少し濡れていた。

「悠理、そっち濡れてるよ……」
「気にすんな。
 こんなのすぐ乾く」
「でも…」
「それより、おまえが風邪ひいたら天音と瑠夏に怒られんだろ?」
「……ふふ、確かに」

 肩を並べて歩くたび、
 傘の端を叩く雨の音がやさしく重なっていく。

 静かな雨の道。
 濡れたアスファルトの上を、ふたりの足音だけが響いていた。
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