俺の隣にいるのはキミがいい

第一章

穏やかな時間

　【天音side】

　最初は驚いた。
　肩にふわりと、ひなたの髪と頭が触れた瞬間息を飲んでどうしたらいいのかわからなくなった。

　でも、ほんの数秒後――
　そのままでいると、ひなたの寝息が静かに聞こえてきた。

　気持ちよさそうに安心した顔で眠ってる。
　少しだけ上がる口元が普段よりずっと穏やかで、無防備で。

「……ホント、油断しすぎだよ」
　小さく呟いて、耳まで赤くなるのを感じながら苦笑する。

　肩にかかる重みが、やけに愛おしかった。
　動かすのがもったいなくて、そのままそっと姿勢を変える。
　窓の外の光が、ひなたの髪に反射してきらめいた。

　それを見つめながら、俺は小さく笑って誰にも聞こえないくらいの声で囁く。

「……おやすみ、ひなた」

　バスの揺れに合わせて、ひなたの頭が少しだけ動く。
　それでも俺は、肘置きに腕を置いて流れゆく街の景色を窓から眺めていた。
　穏やかな表情で、ずっと彼女を支え続ける姿勢で。
　俺はゆっくりと目を閉じてこの時間を静かに味わっていた…。