俺の隣にいるのはキミがいい

空乃 ひかげ

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第一章

帰りのバス

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 バスがゆっくりと動き出す。
 窓の外には、夕暮れのオレンジ色が広がっていた。
 一日中歩き回って、足が少し重い。
 でも、心の中はずっとぽかぽかしていた。

「ひなた、疲れたろ? 
 今日は結構歩いたもんな」
 隣の席の天音が、新品の水が入ったペットボトルを差し出してくれる。
「うん……ありがとう。
 動物たち可愛かったね」
「モルモット触った時嬉しそうだったね」
「えへへ……。
 最初は噛まれるんじゃないかって怖かったけど、
 凄く大人しくて可愛いかった」

 言いながら笑って、ひと口水を飲む。
 それだけで、少し身体の奥の疲れが溶けていくようだった。

 バスの中は、もう半分くらいの人が寝ていて静かだった。
 前の席では瑠夏と他の子が何か話してる声が小さく聞こえて、
 そのリズムが子守唄みたいに心地よかった。

「……眠い?」
 天音の声が少し近くで聞こえる。
「うん……ちょっとだけ」
 そう答えながら、目を閉じた瞬間――身体が自然と傾いた。

 あ、やば……と思ったときにはもう遅くて、
 私の頭は天音の肩に軽く当たっていた。

「っ……」
 天音の肩がぴくっと動いた気がする。
 ご、ごめん……って言わなきゃと思ったけど、
 瞼が重くて言葉が出てこなかった。

 代わりに天音の温もりだけが、すぐそばにあった。
 春の日差しみたいに優しくて、安心できて――
 気づけば私はそのまま意識が遠のいていった。

 完全に眠り落ちる前に聞こえたのは、         
 天音の小さな息使いだけだった。
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