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第二章
花火
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夜の海は昼間より少し静かで、風が頬を撫でるたびに潮の匂いがふわりと漂った。
「あっ、戻ってきた!」
蛍が手を振っているのを見つけて、私はビニール袋を掲げて笑った。
「ただいまー!
花火、いっぱい買ってきたよ!」
隣でハルくんが、もう一つの袋を持ち上げる。
「ほれ。
あとみんなの分のジュースな。
冷えてるぞ」
「うわ、マジっすか!?
陽翔さん、太っ腹!」
悠理が嬉しそうに声を上げて、瑠夏も少し照れくさそうに笑った。
「はる兄、ありがとな。
気ぃ遣わせちまって」
「いいって。
こういう時くらい兄貴面させろよ」
ハルくんは冗談めかして言いながら、笑う。
その笑顔は昼間の“圧ある兄”じゃなくて、どこか優しい“ひとりの大人”の顔をしていた。
「ひな、これ持ってけ」
「うん。
ありがと、ハルくん」
私は受け取った缶ジュースを持って、蛍たちの元に駆け寄った。
みんなで花火を開けて、それぞれ手持ち花火を何本か持って、天音がチャッカマンで火をつけてくれる。
夜空の下に煌めく花火は、凄く綺麗だった。
みんなで笑ってそれぞれ楽しむ。
これぞ青春って感じがする。
花火が後半に差し掛かって来た時、ちらりと後ろを振り返る。
石段の上で、ハルくんが腰を下ろして遠くの波を眺めていた。
手には私がもらったのと同じ缶ジュースを持って。
優しく海を見つめている様だった。
――なんか、ちょっとだけ寂しそう。
胸の奥が、きゅっと締めつけられた。
やっぱり兄とか、年上とか歳が離れてるって事もあってか、ハルくんだけ少し遠くにいる気がした。
「……ハルくん」
私は手に持っていた手持ち花火を握りしめてそっと近づいた。
砂を踏む音に気づいて、ハルくんが顔を上げる。
「ん?
どうした、ひな」
「何でそこで見てるの?」
「いや、若い奴らの邪魔しても悪ぃかなって思ってな」
ハルくんは苦笑しながら缶を指で弾いた。
「俺が入ると、空気固くなるだろ」
「そんなことないよ」
私は小さく首を振って、花火を彼の前に差し出す。
「ねぇ、これ一緒にやろ。
今日は、“お兄ちゃん”とか“年上”とか関係なし」
ハルくんが少し驚いたように私を見る。
けれど、すぐにふっと優しい笑みが浮かんだ。
「……お前、ほんと強くなったな」
「なにそれ、褒めてる?」
「もちろん」
立ち上がったハルくんは私の花火を受け取る。
2人で皆の元に戻って、ハルくんも混ざって笑い合う。
小さな火花が、皆の間で弾けた。
良かった…ハルくん楽しそう。
ぱちぱちと火花が夜に散って、海の音と混ざり合う。
途中で何個か吹き出し花火もやった。
「うわー!
見てひなた!
めっちゃキレイ!」
「ホントだ……!」
皆それぞれキラキラした顔で静かに花火を見つめていた。
それを横目で見ていた私は、小さく笑って夜空を見上げる。
――こんな時間がずっと続けばいいのに…。
火の粉が、まるで星みたいにきらめいて――
気づけば、ハルくんもみんなの輪の中で自然と溶け込んでいる様だった。
いつもはお兄ちゃんって感じなのに、この時は何だか私たちと変わらない少年の様に見えた。
最後の線香花火を付けて、皆で勝負する。
「最後まで残ってたやつが勝ちな」
悠理がそう言った瞬間、みんな真剣な顔つきになる。
みんなで輪になってしゃがみ、静かに最後の線香花火を見つめた。
それが何だか面白くて、胸の奥がくすぐったくなって、私は肩を揺らして笑ってしまった。
「あっ…!」
一番最初に落としたのは私。
「ひなたが笑うから落ちたんだろ?」
目の前にしゃがんで線香花火を真剣に見ていた瑠夏も、火を落とした私を見てふっと笑う。
その振動か、瑠夏の火も落ちてしまった。
「あ、やっちまった…」
心なしか少し残念そう。
その後、蛍・天音・悠理と次々に火が落ちていき、最後まで残っていたのはハルくんの線香花火だけだった。
「やっぱ俺が一番強かったな」
最後まで火が萎むまで生き残っていたハルくんの花火。
流石ハルくんと似て、生命力が強いな。
ハルくんは小さく笑って
「んじゃ、今日はこれでお開きだな」
と、花火を片付けながら立ち上がった。
「やっぱ終わった後は、何か寂しくなるよね~」
みんなで片付けていると、蛍が名残惜しそうに呟く。
「うん…さっきまであんなに明るくて、賑やかだったもんね」
それに頷いて、私も寂しく思う。
それを聞いてか、ハルくんは
「また来年ここに来ればいいし、花火ならいつでも俺ん家の庭ですればいいさ。
来年…またみんなで海来ようぜ。
俺が連れてってやる」
ニッと笑って安心させる様な、でも無邪気な笑顔だった。
「そうだね!
じゃあまた、来年楽しみにしとこー!」
蛍の声に、私も瑠夏も天音も悠理も微笑みながら頷く。
来年も、こうしてまたみんなと過ごせるといいな…。
夏の夜の風が、残っていた花火の匂いを優しくさらっていった。
「あっ、戻ってきた!」
蛍が手を振っているのを見つけて、私はビニール袋を掲げて笑った。
「ただいまー!
花火、いっぱい買ってきたよ!」
隣でハルくんが、もう一つの袋を持ち上げる。
「ほれ。
あとみんなの分のジュースな。
冷えてるぞ」
「うわ、マジっすか!?
陽翔さん、太っ腹!」
悠理が嬉しそうに声を上げて、瑠夏も少し照れくさそうに笑った。
「はる兄、ありがとな。
気ぃ遣わせちまって」
「いいって。
こういう時くらい兄貴面させろよ」
ハルくんは冗談めかして言いながら、笑う。
その笑顔は昼間の“圧ある兄”じゃなくて、どこか優しい“ひとりの大人”の顔をしていた。
「ひな、これ持ってけ」
「うん。
ありがと、ハルくん」
私は受け取った缶ジュースを持って、蛍たちの元に駆け寄った。
みんなで花火を開けて、それぞれ手持ち花火を何本か持って、天音がチャッカマンで火をつけてくれる。
夜空の下に煌めく花火は、凄く綺麗だった。
みんなで笑ってそれぞれ楽しむ。
これぞ青春って感じがする。
花火が後半に差し掛かって来た時、ちらりと後ろを振り返る。
石段の上で、ハルくんが腰を下ろして遠くの波を眺めていた。
手には私がもらったのと同じ缶ジュースを持って。
優しく海を見つめている様だった。
――なんか、ちょっとだけ寂しそう。
胸の奥が、きゅっと締めつけられた。
やっぱり兄とか、年上とか歳が離れてるって事もあってか、ハルくんだけ少し遠くにいる気がした。
「……ハルくん」
私は手に持っていた手持ち花火を握りしめてそっと近づいた。
砂を踏む音に気づいて、ハルくんが顔を上げる。
「ん?
どうした、ひな」
「何でそこで見てるの?」
「いや、若い奴らの邪魔しても悪ぃかなって思ってな」
ハルくんは苦笑しながら缶を指で弾いた。
「俺が入ると、空気固くなるだろ」
「そんなことないよ」
私は小さく首を振って、花火を彼の前に差し出す。
「ねぇ、これ一緒にやろ。
今日は、“お兄ちゃん”とか“年上”とか関係なし」
ハルくんが少し驚いたように私を見る。
けれど、すぐにふっと優しい笑みが浮かんだ。
「……お前、ほんと強くなったな」
「なにそれ、褒めてる?」
「もちろん」
立ち上がったハルくんは私の花火を受け取る。
2人で皆の元に戻って、ハルくんも混ざって笑い合う。
小さな火花が、皆の間で弾けた。
良かった…ハルくん楽しそう。
ぱちぱちと火花が夜に散って、海の音と混ざり合う。
途中で何個か吹き出し花火もやった。
「うわー!
見てひなた!
めっちゃキレイ!」
「ホントだ……!」
皆それぞれキラキラした顔で静かに花火を見つめていた。
それを横目で見ていた私は、小さく笑って夜空を見上げる。
――こんな時間がずっと続けばいいのに…。
火の粉が、まるで星みたいにきらめいて――
気づけば、ハルくんもみんなの輪の中で自然と溶け込んでいる様だった。
いつもはお兄ちゃんって感じなのに、この時は何だか私たちと変わらない少年の様に見えた。
最後の線香花火を付けて、皆で勝負する。
「最後まで残ってたやつが勝ちな」
悠理がそう言った瞬間、みんな真剣な顔つきになる。
みんなで輪になってしゃがみ、静かに最後の線香花火を見つめた。
それが何だか面白くて、胸の奥がくすぐったくなって、私は肩を揺らして笑ってしまった。
「あっ…!」
一番最初に落としたのは私。
「ひなたが笑うから落ちたんだろ?」
目の前にしゃがんで線香花火を真剣に見ていた瑠夏も、火を落とした私を見てふっと笑う。
その振動か、瑠夏の火も落ちてしまった。
「あ、やっちまった…」
心なしか少し残念そう。
その後、蛍・天音・悠理と次々に火が落ちていき、最後まで残っていたのはハルくんの線香花火だけだった。
「やっぱ俺が一番強かったな」
最後まで火が萎むまで生き残っていたハルくんの花火。
流石ハルくんと似て、生命力が強いな。
ハルくんは小さく笑って
「んじゃ、今日はこれでお開きだな」
と、花火を片付けながら立ち上がった。
「やっぱ終わった後は、何か寂しくなるよね~」
みんなで片付けていると、蛍が名残惜しそうに呟く。
「うん…さっきまであんなに明るくて、賑やかだったもんね」
それに頷いて、私も寂しく思う。
それを聞いてか、ハルくんは
「また来年ここに来ればいいし、花火ならいつでも俺ん家の庭ですればいいさ。
来年…またみんなで海来ようぜ。
俺が連れてってやる」
ニッと笑って安心させる様な、でも無邪気な笑顔だった。
「そうだね!
じゃあまた、来年楽しみにしとこー!」
蛍の声に、私も瑠夏も天音も悠理も微笑みながら頷く。
来年も、こうしてまたみんなと過ごせるといいな…。
夏の夜の風が、残っていた花火の匂いを優しくさらっていった。
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