俺の隣にいるのはキミがいい

第二章

車内の余韻

【陽翔side】

　車の窓を開けて、窓枠に肘をついて吹き込んでくる風を感じる。
　涼しいけど、夏の夜特有の蒸し暑さが残っていた。
　波の音がまだ耳の奥に残っている。

　助手席ではひなたが窓の方に頭を預けて、小さく寝息を立てていた。
　後ろの座席からも、蛍たちの寝息がかすかに聞こえる。
　みんな、今日めっちゃはしゃいでたもんな。
　昼間のはしゃぎっぷりを思えば、無理もない。

　ハンドルを握る手に、潮風が混じった空気が触れる。
　窓の外に流れる街灯のオレンジが、リズムを刻むみたいにフロントガラスを横切っていく。

「……ホント、でかくなったな」

　思わず独り言が漏れた。
　子どもの頃、泣きながら俺の後ろを追いかけてきた小さな影が今ではこうして仲間と笑い合ってる。
　誰かに心を預けて、ちゃんと支え合えるようになっている。

　その事がなんだか誇らしくもあり、少しだけ寂しくもあった。

「もう…俺が傍にいなくても大丈夫だな」

そう呟いて、苦笑する。
言葉にした瞬間、胸の奥が少しだけチクリと痛んだ。
守るのが当たり前だった時間が、いつの間にか過去になってる。
チラッとスヤスヤ寝ているひなたを横目に見た。
前まではコイツの笑顔を見て安心してたのに、今じゃその笑顔の理由が俺じゃない誰かになってる。

……ま、それでいいんだ。
それが“成長”ってやつだろ。

バックミラー越しに、後部座席の瑠夏達をちらりと見る。
アイツ等も、全員良い奴だ。
それぞれ真面目で不器用で、でも優しい。
ひなたの事、ちゃんと大切にしてくれてる。
俺がいちいち口出ししなくても、ちゃんと支えてくれる。

今日１日みんなを見てそう思った。
フロントガラスの向こう、夜空に瞬く星を見上げながら
俺は小さく息を吐いた。

「……ひなたが今幸せなら、それでいい。
楽しそうにしてるの見れて、安心したわ…」

そんな独り言と共に、小さく笑って今日1日の事を静かに思い出す。
アクセルをゆっくり踏み込んで、安全運転で帰路に向かう。
車内には、穏やかな寝息とタイヤがアスファルトを滑る音だけが響いていた。