俺の隣にいるのはキミがいい

空乃 ひかげ

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第二章

変わる日常

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 あの日から、俺は喧嘩をやめた。
 正確に言えば、毎回買っていた挑発も“買わなくなった”んじゃなくて、心底“興味がなくなった”。
 殴るより、守る方がずっと怖くて、ずっと大事だって気づいたから。

 それでも最初の方は、真昼と海にからかわれた。
 「瑠夏~、どうしちゃったの?
  牙抜けちゃったの?」
 「あれか?
 “例の幼馴染”の影響か?」

 真昼は退屈そうに毎回飴を舐めながら、俺の両肩に腕を通して抱き着いてくるし、
 海はニヤニヤと笑みを浮かべながら俺の顔を覗いてくる。

 でも、俺は何も言わなかった。
 殴る代わりに、少し笑って流す。
 それが、昔の俺なら絶対できなかったことだったろう。

 けど、今のこの感じが不思議と嫌じゃなかった。

 ひなたと一緒にいる時間が増えて、自然と笑うことも増えた。
 放課後、一緒に帰ることが日課みたいになって――
 他愛もない話をして、駄菓子を食べながら歩く。

「ねぇ瑠夏、今日もまたスルメ買ったの?
 好きだね」
「何だよ…文句あんのかよ」
「別にないよ。
 ……でも、匂いは強いけどね?」
「おい、それは言うなって」
「ははっ」

 そんな何気ない会話が、前よりもずっと心地よかった。
 ――殴らなくても、こんなに毎日楽しいんだ。

 ーーーーー

 放課後、笑いながら歩く俺たちの姿を遠くで見てる影があった。
 あの日、一緒に戦った仲間――
 海と真昼。

「……変わったな、アイツ」
「だね~。
 なんか別人みたい」
「…まぁ、あれでいいんじゃないか? 
 瑠夏の奴、めっちゃ嬉しそうだし」

 海が俺とひなたの後姿を見つめながら、小さく笑うと
 真昼も飴を舐めながらふっと笑った。
「そうだね…。
 ちょっと寂しいけど。
 …ねぇ、僕たちもそろそろ落ちつく?」
「そうだな…。
 これから受験もあるし、真面目に勉強して同じとこ行くか?」
「いいね!
 瑠夏も一緒なら絶対楽しくなるよ!」
「…瑠夏も一緒…は、多分無理だろうな」
「え?
 何で?」
「何となく…そう思っただけだ」
 よくわからなくて首を傾げる真昼に、海は小さく笑みを浮かべて、目を閉じた。

 ーーーーー

 それからは二人も、喧嘩をやめたと聞いた。
 喧嘩をやめた最初は、真昼が退屈そうにしてたけど…俺が変わるのを見て、
 自然と「こっちの生き方も悪くないかも」って笑うようになった。

 そして中三の冬。
 白い息が空に溶ける放課後、ひなたが少し照れくさそうに言い出す。

「ねぇ、瑠夏。
 最近の瑠夏、ホントに変わったね。
 なんて言うか…元々優しかったけど、もっとすごく優しくなったというか…。
 あ、私だけじゃなくて他の人に対してもね」
「……そりゃ、元が悪かったからな」
「そんなことないよ。
 昔の瑠夏も、優しかったよ。
 ただちょっと、不器用なだけ」

 くすりと口元に手を添えて笑うひなたの姿とその言葉に、胸の奥がじわっと熱くなった。

「……ありがとな」
「ははっ、どういたしまして」

 俺はその笑顔を見ながら、心の中でまた一つ誓った。
 もう二度と、あの手を汚すようなことはしない。
 この笑顔を守れるように生きていく――そう、強く思った。
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