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第三章
自分の本当の気持ちに向き合う時
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【悠理 side】
「……ふぅ、お疲れさん」
体育祭も終わり、いつもの日常で落ち着き出した部活終わりでの出来事。
剣道部の稽古が終わり、防具を外すと一気に汗が噴き出した。
面を外して乱れた髪をかき上げると、隣で同じように着替え始めていた天音が涼しい顔でこちらを見ている。
「お疲れ様、悠理。
今日の稽古、いつもより少し……気迫が尖ってたね」
「……そうかよ。
別に、いつも通りだろ」
俺は素っ気なく返して、垂を解く。
体育祭が終わってから、どうにも自分の中に拭いきれない”淀み”のようなものがあるのは自覚していた。
あの日、ひなたの足の怪我に気づけなかったこと。
天音や瑠夏が、俺の知らない場所であいつを支えていたこと。
それを思い出すたびに、竹刀を振る手に余計な力が入ってしまう。
「ひなたのこと、考えてた?」
天音のその一言に、着替える手が止まった。
図星をつかれた時、特有の嫌な沈黙が更衣室に流れる。
「……あいつ、無茶しすぎなんだよ。
怪我してまで走りやがって」
俺は努めて冷静に、あくまで『友達として心配している』というトーンで言葉を継いだ。
「俺はさ、お前らにあいつが逃げ場を無くすような真似が面白くないって言っただろ。
お前とか瑠夏が、あいつを追い詰めてんのが見てて腹立つんだわ」
すると、天音がクスクスと喉を鳴らして笑った。
その笑いには、いつもの温和な穏やかなものとは違う…どこか冷ややかな鋭さがあった。
「悠理。
君はまだ、そんな言い訳で自分を騙してるんだな」
「……あ?」
「”逃げ場を無くすのが面白くない”。
一見、ひなたを思いやった綺麗な言葉だけど……それ、本音じゃないでしょ」
天音が剣道着を脱ぎ、俺の目をまっすぐに見据えた。
その瞳は、剣を交えている時と同じくらい射抜くような鋭さを持っていた。
「悠理が腹を立てているのは、俺達がひなたを追い詰めているからじゃない。
……ひなたが俺達に向ける表情の中に、君が入り込めない『特別』があったから。
そうでしょ?」
「…………」
「それを世間では”嫉妬”って呼ぶんだよ、悠理」
心臓の奥が、ドクンと跳ねた。
喉元まで出かかった反論が、天音の圧倒的な「確信」に押し戻される。
「俺は、ただ……あいつに変な気を遣わせたくないだけで……」
「まだ言う?
ひなたを守るヒーローのフリをして、一番ひなたを独占したいと思ってるのは……悠理自身だろ」
天音がカバンを肩にかける。
「自覚がないのは罪だ。
でも、気づかないフリをしてるならもっとタチが悪い」
俺は何も言い返せなかった。
天音の言う通りだ。
俺はあいつを自由にしてやりたいと言いながら、誰よりもあいつを自分の視界の中に、手の届く場所に閉じ込めておきたがっている。
あの体育祭のラスト、二人が去った校門を見つめていた時のあの胸をかき乱すような苦い感情。
それが何なのか、本当はもう答えは出かけてる。
でも、それを認めるのが怖い。
「……天音」
「何?」
「……お前、性格悪いな」
「はは、悠理にだけは言われたくないよ。
……でも、一つだけ忠告。
いつまでもそうやって傍観者でいたら、自分の本当の気持ちに気付いた時にはもう手遅れになってるかもしれないよ」
天音はそれだけ言い残して、更衣室を出ていった。
1人残された部屋で、俺はベンチに座り込み天井を仰ぐ。
湿った空気が肺にまとわりつく感じがした。
「……嫉妬、か」
その言葉を口の中で転がしてみる。
苦くて、熱くて、どうしようもなく惨めな響き。
膝の上でギュッと握り拳を作った手に力を籠める。
ひなた…お前が俺の隣で笑ってる。
それだけで俺は満足するし、良いと思ってた。
でも、今は瑠夏と天音がお前の両サイドに立ってて、俺1人だけが見えない壁で遮られてる感じだ。
少し離れた場所から3人を見てる。
それが前までは普通だったし、当たり前だった。
俺は蛍と一緒にあの3人の恋愛模様を楽しんで、時に突っついて…。
それを見るのが楽しかったのに、いつの間にかそれが苦しくなってる。
あの2人がひなたの事を好きなのは初めて出会った、あの花見の時から分かってただろ。
それなのに…一緒に過ごす時間が多くなればなるほど、ひなたが無邪気に俺に笑いかけてくれるその空間が、こんなにも居心地良いなんて…。
そりゃ、あいつらも惚れるわけだわ。
だから尚更…。
俺は、ひなたの事どういう気持ちで傍に置いときたいんだ?
友達?
それとも…。
天音との会話で、また頭の中も感情もぐちゃぐちゃになる。
遠くから聞こえる運動部の掛け声。
俺は自分の本当の気持ちという、一番厄介な敵と向き合わなきゃいけないことをようやく認めざるを得なかった。
「……ふぅ、お疲れさん」
体育祭も終わり、いつもの日常で落ち着き出した部活終わりでの出来事。
剣道部の稽古が終わり、防具を外すと一気に汗が噴き出した。
面を外して乱れた髪をかき上げると、隣で同じように着替え始めていた天音が涼しい顔でこちらを見ている。
「お疲れ様、悠理。
今日の稽古、いつもより少し……気迫が尖ってたね」
「……そうかよ。
別に、いつも通りだろ」
俺は素っ気なく返して、垂を解く。
体育祭が終わってから、どうにも自分の中に拭いきれない”淀み”のようなものがあるのは自覚していた。
あの日、ひなたの足の怪我に気づけなかったこと。
天音や瑠夏が、俺の知らない場所であいつを支えていたこと。
それを思い出すたびに、竹刀を振る手に余計な力が入ってしまう。
「ひなたのこと、考えてた?」
天音のその一言に、着替える手が止まった。
図星をつかれた時、特有の嫌な沈黙が更衣室に流れる。
「……あいつ、無茶しすぎなんだよ。
怪我してまで走りやがって」
俺は努めて冷静に、あくまで『友達として心配している』というトーンで言葉を継いだ。
「俺はさ、お前らにあいつが逃げ場を無くすような真似が面白くないって言っただろ。
お前とか瑠夏が、あいつを追い詰めてんのが見てて腹立つんだわ」
すると、天音がクスクスと喉を鳴らして笑った。
その笑いには、いつもの温和な穏やかなものとは違う…どこか冷ややかな鋭さがあった。
「悠理。
君はまだ、そんな言い訳で自分を騙してるんだな」
「……あ?」
「”逃げ場を無くすのが面白くない”。
一見、ひなたを思いやった綺麗な言葉だけど……それ、本音じゃないでしょ」
天音が剣道着を脱ぎ、俺の目をまっすぐに見据えた。
その瞳は、剣を交えている時と同じくらい射抜くような鋭さを持っていた。
「悠理が腹を立てているのは、俺達がひなたを追い詰めているからじゃない。
……ひなたが俺達に向ける表情の中に、君が入り込めない『特別』があったから。
そうでしょ?」
「…………」
「それを世間では”嫉妬”って呼ぶんだよ、悠理」
心臓の奥が、ドクンと跳ねた。
喉元まで出かかった反論が、天音の圧倒的な「確信」に押し戻される。
「俺は、ただ……あいつに変な気を遣わせたくないだけで……」
「まだ言う?
ひなたを守るヒーローのフリをして、一番ひなたを独占したいと思ってるのは……悠理自身だろ」
天音がカバンを肩にかける。
「自覚がないのは罪だ。
でも、気づかないフリをしてるならもっとタチが悪い」
俺は何も言い返せなかった。
天音の言う通りだ。
俺はあいつを自由にしてやりたいと言いながら、誰よりもあいつを自分の視界の中に、手の届く場所に閉じ込めておきたがっている。
あの体育祭のラスト、二人が去った校門を見つめていた時のあの胸をかき乱すような苦い感情。
それが何なのか、本当はもう答えは出かけてる。
でも、それを認めるのが怖い。
「……天音」
「何?」
「……お前、性格悪いな」
「はは、悠理にだけは言われたくないよ。
……でも、一つだけ忠告。
いつまでもそうやって傍観者でいたら、自分の本当の気持ちに気付いた時にはもう手遅れになってるかもしれないよ」
天音はそれだけ言い残して、更衣室を出ていった。
1人残された部屋で、俺はベンチに座り込み天井を仰ぐ。
湿った空気が肺にまとわりつく感じがした。
「……嫉妬、か」
その言葉を口の中で転がしてみる。
苦くて、熱くて、どうしようもなく惨めな響き。
膝の上でギュッと握り拳を作った手に力を籠める。
ひなた…お前が俺の隣で笑ってる。
それだけで俺は満足するし、良いと思ってた。
でも、今は瑠夏と天音がお前の両サイドに立ってて、俺1人だけが見えない壁で遮られてる感じだ。
少し離れた場所から3人を見てる。
それが前までは普通だったし、当たり前だった。
俺は蛍と一緒にあの3人の恋愛模様を楽しんで、時に突っついて…。
それを見るのが楽しかったのに、いつの間にかそれが苦しくなってる。
あの2人がひなたの事を好きなのは初めて出会った、あの花見の時から分かってただろ。
それなのに…一緒に過ごす時間が多くなればなるほど、ひなたが無邪気に俺に笑いかけてくれるその空間が、こんなにも居心地良いなんて…。
そりゃ、あいつらも惚れるわけだわ。
だから尚更…。
俺は、ひなたの事どういう気持ちで傍に置いときたいんだ?
友達?
それとも…。
天音との会話で、また頭の中も感情もぐちゃぐちゃになる。
遠くから聞こえる運動部の掛け声。
俺は自分の本当の気持ちという、一番厄介な敵と向き合わなきゃいけないことをようやく認めざるを得なかった。
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