俺の隣にいるのはキミがいい

空乃 ひかげ

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第三章

カップルイベント

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学校の行事で訪れた、紅葉が美しい山の上にある神社。

色鮮やかな赤や黄色に染まった木々に囲まれて、空気は少しひんやりとしていて気持ちがいい。
けれど、私の目の前の空気は、それとは正反対に熱く火花が散っていた。

「おい、ひなたと行くのは俺だ。
天音、テメェはあっち行ってろ」
「それはこっちのセリフだよ、瑠夏。
ひなたをあんなに走らせて足を痛めさせた君より、俺の方がエスコートには向いてると思わない?」

神社の境内で行われている「カップル限定イベント」。
参加すると特別なお守りがもらえるらしくて、それがまた可愛いデザインで話題になっているんだけど……瑠夏と天音がどっちが私と行くかで絶賛言い争い中なのだ。

「あの、2人とも……そんなに揉めるなら、私1人で……」
「ダメだ!!」

2人の声が重なって、私はビクッと肩を揺らす。
蛍は「また始まったよ……」と遠くから呆れたように冷めた目で見ているし、周りの視線も恥ずかしくて私は困り果てていた。
その時。

「……ハイハイ、そこまでだ。
ひなたが困ってるだろ」
スッと2人の間に割って入ってきたのは、悠理だった。

いつものように飄々とした笑みを浮かべて、私の肩に軽く手を置く。
「そんなに決まらないんだったら、俺と行くか? 
ひなた」
悠理は冗談半分といった感じで、私にウインクしてみせた。

でも、今の私にとってはまさに助け船。
この気まずい場を収めてくれるなら、なんでもいい!

「うん、じゃあ悠理と行こうかな! 
行こう、悠理!」
「えっ、ちょ、ひなた……!?」
驚く悠理の腕を掴んで、私はそのまま早歩きで2人から離れた。

背後から
「ちょっと、待ってよ悠理!!」
「悠理、確信犯だろ……!」
という怒声が聞こえてきた気がしたけど、振り返る余裕なんてなかった。

「……すまん」
悠理が片手を顔の前に掲げて、ジェスチャーで2人に謝っているのが目の端に映った。

冗談のつもりだったんだろうに、私が引っ張って連れ出したから悠理もビックリしてるみたい。

「……ごめんね、悠理。
勢いで巻き込んじゃって」
少し落ち着いたところで腕を離すと、私はしょんぼりと肩を落とした。
せっかくの自由時間なのに、無理やり付き合わせちゃったかな……。

「別に。
俺が割り込んだ結果こうなったんだからいいさ。
ひなたが謝ることじゃないだろ」
悠理はそう言って、私の頭をポンポンと優しく撫でた。
その手の温かさに、さっきまでの焦りが少しずつ引いていく。

「で、どうする? 
本当に行くか?」
「えっ、いいの……?」
「まぁ、記念にいいんじゃねぇか? 
お守り、欲しかったんだろ?」

悠理が優しく微笑むから、私は甘えることにした。
2人で紅葉のトンネルを抜け、階段を登った先にある小さな祠へと向かう。

そこには1人の巫女さんが立っていて、私たちを見るとにこやかに迎えてくれた。
「カップルイベントに参加される方ですね。
こちらへどうぞ」
「あ、はい……よろしくお願いします」

案内された祠の前で、巫女さんがとんでもないことを言い出した。
「では、カップルさんは手を繋いで、お互いの好きなところをそれぞれ1つずつ言ってください。
そうすれば、神様も2人の仲を祝福してくださいますよ」

「「えっ!?」」

悠理と声が重なる。
手を繋ぐだけじゃなくて、好きなところを言う……!?
恥ずかしさに顔が熱くなる私を見て、悠理は少し戸惑っていたけど、意を決したように手を差し出してきた。

「……ここまで来たんだし、しょうがねぇな。
ほら、繋ぐぞ」
悠理の手が、私の手を優しく包み込む。
ただ繋ぐだけじゃなくて、指を絡ませる恋人繋ぎ。
……ドクン、と心臓が跳ね上がった。

「じゃあ、俺から言うぞ」
悠理が少し視線を逸らしながら、静かに話し始める。

「……ひなたの、いつも一生懸命で周りのことばっか考えてて、無邪気に笑って優しいところ。
……そういうとこ、いいなって思ってる」
「……っ、ありがとう」

悠理の言葉が真っ直ぐに胸に届いて、嬉しくて、視界がうるんだ。
次は私の番だ。

「えっと、私は……悠理の、いつも余裕があって大人っぽいのに、すごく優しいところが好き。
それから、私が困ってたら真っ先に気づいて助けてくれるところも……あと、ノリがいい所と、率先して行動してくれる所も……」

気づけば私は、悠理の好きなところをいくつも並べていた。
すると、横で聞いていた巫女さんがクスクスと小さく笑った。

「ふふっ、好きなところは1つだけで良かったのですが。
……よっぽど彼のことが大好きなんですね。
相思相愛で微笑ましいです」
「……えっ!? 
あ、いや、あの、これは……っ!」

「相思相愛」という言葉に、私は顔から火が出るほど赤くなった。
慌てて悠理の方を見ると、悠理も片手で顔を覆って「ん"ん"っ……」と呻くように喉を鳴らしている。

真っ赤になった耳元が、悠理の内心の動揺を物語っていた。
そしてにこやかな巫女さんに赤いお守りを差し出され、2人で受け取り踵を返す。

「……っ、行くぞ。
お守りもらったし」
「う、うん……っ!」

逃げるように祠を後にしたけれど、繋いだ手はまだ熱を持ったまま離れられなかった。
背後で微笑む巫女さんの視線が、いつまでも背中に刺さっているような気がして、私たちはしばらくの間、顔を合わせることができなかった。
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