俺の隣にいるのはキミがいい

空乃 ひかげ

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第三章

初めての嫉妬心

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体育祭が終わって、最初の登校日。
教室のドアを開けた瞬間、いつも以上の熱気に包まれていて驚いた。

「ねぇひなた! 
見たよ、最後のリレー!」
「瑠夏くんと天音くんと悠理くん、マジでカッコよすぎなかった!? 
3人のデッドヒート、映画みたいだったよね!」
「イケメンが3人揃って走ってる姿とか…マジで絵になる」

席に着く間もなく、クラスの女子たちに囲まれる。
どうやらあのアンカー対決は、私たちの学年だけでなく全校生徒の間で伝説級の話題になっているらしい。

「そ、そうだね。
……凄かったよね、3人とも」
苦笑いしながら答えるけど、なんだか朝から落ち着かない。
しばらくして瑠夏と天音が教室に入ってくると、熱狂はピークに達した。

「瑠夏くん、リレー優勝おめでとう!」
「天音、あんなに速いなんて知らなかったぜ!」
男女問わず、二人の周りには人だかりができていた。

瑠夏は「……まぁ、当然だろ」なんて言いながら、耳を赤くして少し照れたように笑っている。
天音も「みんなのおかげだよ、ありがとう」と、いつもの穏やかスマイルで丁寧に返していた。

……2人が褒められてる。
友達として、私も嬉しいはずなのに。
……なんだろう、この感じ。

胸の奥がチリリと痛む。
2人が他の子と笑ってるのなんて見慣れてるはずなのに…。
その笑顔がみんなに向けられているのを見ると、なんだかすごく……モヤモヤする。
理由がわからなくて、私は1人で首を傾げた。

「ひなた、おはよー……。
はぁ、もう疲れた」
昼休み、教室にやってきた悠理と蛍がぐったりした様子で現れた。

悠理はクラスメイトに褒め殺しにされて逃げてきたらしく、蛍も「あの三人との関係」をしつこく聞かれてゲンナリしている。

「大変だったんだね……」
軽く苦笑いして笑ってみせるけど、やっぱり胸のモヤモヤは消えない。
それどころか、悠理まで「みんなのもの」になってしまったような気がして、さらに心が重くなった。

――放課後。

今日は部活が休みだからと、珍しく5人揃って帰ることになった。
夕焼けが伸びる帰り道、いつもなら私が一番にお喋りするのに…今日はどうしても言葉が出てこない。

「「「……ひなた?」」」
不意に、3人の声が重なった。
瑠夏、天音、悠理。
3人が同時に、心配そうな顔で私を覗き込んでくる。

「どうしたんだ? 
どっか痛むのか?」
「足、まだ治ってないんじゃ……」
「顔色悪いね。
なんかあった?」

同時に発せられた言葉に、3人は一瞬お互いを見て驚いている。
でも、私は彼らの心配の言葉に答えられず、顔を上げられなかった。
自分の心の中にある、この「醜い感情」の正体が怖かったから。

「……ひなた」
隣で歩いていた蛍が、優しく肩に手を置いてくれた。

「どうしたの? 
何かあるなら言って?
無理にとは言わないけど…」
遠慮しつつも、蛍の優しい声に堰を切ったように言葉が溢れ出した。
俯いたまま、指先をいじりながら消え入りそうな声で白状する。

「……あのね。
今日、1日中……瑠夏たちがみんなに褒められてるのを見て、嬉しいはずなのにすごく胸が痛くてモヤモヤしたの」
「……え?」
「理由はわからないけど……私の方がずっと仲良しなのに、なんだか、みんなに取られちゃったみたいで……嫌だったの」

言い終えると、周囲がしんと静まり返った。
3人は目を見開いたまま、石像みたいに固まっている。
そして沈黙を破ったのは、蛍の叫び声だった。

「どえぇぇぇぇ!!?
ちょっ、ひなた、それマジ!? 
え、それってさ、みんなが取られて寂しくなっちゃった感じ!?」
蛍がテンションMAXで私に抱きついてくる。

「めっちゃ可愛いんですけど!! 
ちょっと男子たち、聞いた!? 
ひなたが嫉妬したんだよ! 
嫉妬!!」
「ほ、蛍……っ! 
恥ずかしいよ……」

顔に火が出るほど赤くなって熱くなる。
でも、蛍に言われてようやく気づいた。
あぁ、そっか。
このモヤモヤは、みんなを取られたくないっていう「嫉妬」だったんだ。

勇気を出して、3人の顔を盗み見る。
すると、三人はそれぞれ見たこともないような顔をしていた。

「…………っ」
瑠夏は口元を手で覆い、あさっての方向を向いて耳まで真っ赤にしている。

「うっ……」
天音は首の後ろをボリボリとかきながら、必死ににやけそうな口角を抑えようとして顔を歪ませている。

「……ぐっ……」
悠理は腕で顔の半分下を隠して、低く唸るように視線を逸らしていた。

3人の頭の上から湯気が出ているんじゃないかと思うくらい、全員が激しく動揺してるのが見てとれる。
ひなたが、自分たちのことで嫉妬してくれた。
その事実が、彼らの心臓にクリティカルヒットしたのが丸わかりだった。
私は照れくさくて、眉を下げて小さく笑った。

「……ごめんね。
私、クラスの子たちに嫉妬してたみたい。
独り占めしたいなんて、子供だよね」

――その瞬間、三人の限界が来た。

「……っ、クソ、可愛すぎんだろ……っ」
「……ひなた。
それ、自覚して言ってる……?」
「……あー、もう、ダメだ……」

悶えるように天を仰いだり、顔を覆い直したりする3人。
私の初めての独占欲は、思わぬ形で彼らの心を完全に撃ち抜いてしまったみたらしい。

夕陽に照らされた帰り道。
赤くなったのは、空の色だけじゃなかった。
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