俺の隣にいるのはキミがいい

空乃 ひかげ

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第三章

気づけなかった敗北感

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【悠理side】

「……なんだ、あいつ」

校門の向こうへ、ひなたの腕を引いて消えていった瑠夏の背中を見送りながら、俺は呆れたように首を傾げた。
強引にもほどがあるだろ。

ひなただって困惑してたし、何よりあんな必死な瑠夏なんて、今まで見たことがなかった。

「……なんだ。
瑠夏も気づいてたんだ」
ぽつりと、隣にいた天音が呟いた。
その声があまりに小さく、そしてどこか寂しげだったから俺は思わず聞き返した。

「あ? 
何がだよ」
「……」

天音は俺の問いにはすぐ答えず、二人が消えた場所をじっと見つめている。
その横顔には、いつもの穏やかなスマイルはない。
少しだけ眉を下げて困ったように、でもどこか敗北感を滲ませたような……そんな複雑な笑みを浮かべていた。
そして小さく呟くように口を開く。

「……ひなたが、足を怪我してること。
瑠夏も気づいてたみたいだ」
「……は?」
天音の言葉が、一瞬頭の中で理解を拒んだ。
怪我? 
ひなたが?

「俺だけが知ってると思ってたんだけどなぁ。
……やっぱり、幼馴染の目は騙せないね」
天音がふぅ、と小さく息を吐く。

その瞬間、俺の脳内に今日1日のひなたの姿がフラッシュバックした。
借り物競争の時。
騎馬戦で俺たちを見送る時。
そして、リレーのバトンを渡した瞬間。

「……あいつ、怪我してたのかよ!?」
気づけば、無意識にデカい声が出ていた。
隣で蛍が「えっ、ひなたが!?」と驚き、周囲の生徒が数人こちらを振り返る。

俺はハッとして口元を押さえ、沸き上がる動揺を必死に抑え込んだ。
……あいつ、隠すの上手すぎだろ。

「……いつからだ。
いつから怪我してたんだよ」
天音に向けた声が、自分でも驚くほど硬かった。

「応援合戦の途中。
俺がすぐ気づいて、昼休みみんなとお弁当食べる前にテーピングをしたんだ」
天音のその淡々とした説明が、俺の胸に鋭い棘のように突き刺さる。

午前中から?
あいつはそんな前から、痛みを隠して、俺たちの前で笑ってたのか?

……俺は、近くにいたはずなのに。
さっき、ひなたの頭を撫でて「心配すんな」なんて余裕ぶって言った自分の言葉が、滑稽すぎて反吐が出る。

「勝利を持ち帰ってやる」なんて、あいつの痛みに気づきもしないで、何がヒーロー気取りだ。
グッと握った拳に力が入る。

「……ひなた、大丈夫なの? 
走ったりして悪化してない?」
蛍がおろおろと天音に詰め寄ると、天音は優しく笑って返した。

「……大丈夫。
軽い捻挫だから、無理せず安静にしてればすぐ治るよ。
ひなたがみんなに心配かけるからって気にして黙ってたから、俺も言わなかったけど……。
瑠夏があぁして連れて行ったなら、まぁ心配いらないと思う。」

天音は自分に言い聞かせるようにそう言った。
だが、俺の中の渦は収まらない。

天音は気づいて、手当をしていた。
瑠夏は気づいて、強引に連れ帰った。

二人とも、ひなたの「嘘」を見抜いていた。
……俺だけだ。
あいつの強がりを真に受けて、何も知らずに隣で笑っていたのは。

「……チッ」
舌打ちが漏れた。
天音が知っていたことへの猛烈な嫉妬。
そして何より、自分だけが「外側」にいたことへの耐えがたい悔しさ。

いつもどこかで一歩引いて、高みの見物を決め込んでいたツケが回ってきたのか。
あいつを「特別な女の子」扱いして、逃げ場を無くすのが面白くないなんて、さっき騎馬戦で天音たちに言い放った言葉が今さら自分にブーメランのように返ってくる。

俺だって…正直あいつを独占したかったんだ。
あいつの痛みに一番に気づいて、あいつを守る権利が欲しかった。

夕闇が迫る校門の方を、俺はもう一度見つめた。
今頃ひなたは、瑠夏に背負われてあいつの上であいつにだけ弱音を吐いているんだろうか。

苦い。
口の中に広がる感情が、どうしようもなく苦かった。
俺は、まだ何も分かってない。
ひなたのこと。
……そして、自分の本当の気持ちも。

俺は二人が去った空っぽの空間を、苦虫を噛み潰したような顔でいつまでも見つめ続けることしかできなかった。
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