俺の隣にいるのはキミがいい

空乃 ひかげ

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第三章

自覚の芽生え

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【悠理 side】

「……たまには違う道から帰るか」

紅葉の遠足イベントが終わった数日後、部活が休みで時間を持て余した俺は珍しく、なんとなくいつもとは違う校舎裏の小道を通って帰ることにした。
剣道場の熱気とは対照的な、ひんやりとした夕方の空気が心地いい。

ふと、校舎の非常階段の端に小さな後ろ姿を見つけた。
見間違えるはずがない。
いつも見てる見知った後ろ姿…ひなただ。

いつもなら「よっ」と声をかけるところだが、その背中が小刻みに震えているのに気づいて俺は足を止めた。
……泣いてるのか?

静まり返った校舎裏に、かすかな啜り泣きが響いている。
その音を聞いた瞬間、胸の奥が鋭く締め付けられた。

気づけば俺は足を動かし、隣に座っていた。
驚いて顔を上げようとするひなたの肩を、そのまま自分の体の方へと強く引き寄せる。

「……悠理…?」
「何があったか知らねぇけど…。
泣きたい時は泣いとけ。
胸でも肩でも、いくらでも貸してやるから」

俺は空いた方の手で、ひなたの頬に伝う涙をそっと指先で拭った。
ひなたは一瞬目を見開いたけれど、俺だと確信すると安心したように力を抜いて俺の肩に頭を預けてきた。
シャツに伝わる涙の熱さが、ダイレクトに俺の心臓に響く。

しばらくの間夕闇が迫る校舎裏で、俺はただひなたの震えが収まるのを待った。
やがてひなたが鼻をすすりながら、ぽつりぽつりと話し始める。

「……瑠夏と天音がね、最近すごく言い合いが多くなっちゃって」
「……そうだな」
「私は、ただみんなで仲良く過ごしたいだけなのに……。
何だか上手くいかなくて。
もしかして、私のせいで2人が……って思うと……」

…やっぱりな、と思った。
ひなたは優しすぎる。
自分に向けられた好意が、仲間たちの均衡を崩していることに責任を感じて1人で抱え込んでいたんだ。
いつも太陽みたいに笑ってるこいつが、こんなに脆くて今にも消えてしまいそうな顔をして泣いてる。

……あぁ。
ダメだな、俺。

その瞬間、自分の中にあった「澱」がすとんと落ちて1つの確固たる形になった。
この泣き顔を、誰にも見せたくない。
この震える肩を、ずっと俺が支えていたい。
愛しくて、守りたくて、どうしようもない。

天音が言っていた「嫉妬」も「独占欲」も、全部本当だった。
俺は…ひなたが好きだ。
友達としてじゃない。
1人の女として、心底惚れてる。

瑠夏と天音……俺の大切な友達。
あいつらへの罪悪感が、一瞬だけ頭をよぎる。
でも、今目の前で泣いているこの子を笑顔にできるのが俺でありたいという願いは、もう消せそうになかった。

俺はひなたの小さな手を取り、その目を見つめて真っ直ぐに伝えた。

「……ひなた。
困った時はいつでも俺を頼れ」
「え……?」
「お前がどこにも逃げ場がねぇって思うなら、俺がそこになってやる。
俺がお前を、いつだって助けてやるから」

ひなたは驚いたように瞬きをして、それから少しだけ照れたように頬を染めていつもの柔らかい笑みを浮かべた。
「……ありがとう、悠理」

その笑顔を見た瞬間、俺の覚悟は決まった。
もう、傍観者じゃいられない。
その席には戻らない。

「立てるか?。
家まで送る」
「うん」

繋いだ手に少しだけ力を込める。
明日から、瑠夏や天音とどう向き合えばいいのかはまだ分からない。
でも、ひなたの涙を拭える特権だけは…誰にも譲りたくないと思った。
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