100 / 104
第三章
大切な思い出
しおりを挟む
【悠理 side】
「ただいま……」
玄関で靴を脱ぎ、自分の部屋へ戻る前にリビングのソファへ体を投げ出した。
神社の階段を往復したせいか、心地よい疲れが体に馴染んでいる。
カバンのサイドポケットから、今日手に入れたばかりの小さな包みを取り出した。
神社の巫女さんからもらった、カップルイベント限定のお守り。
紅葉の刺繍が施されたそれは、夕方のリビングの明かりの下で見てもやっぱりどこか特別に見えた。
……ひなたも今頃これ見てどう思ってんだろうな。
俺と行った事、後悔してなきゃいいけど…。
突然不安になって、乾いた笑いが出た。
あいつが俺の好きなところをいくつも挙げた時の、あの心臓を直接掴まれたような感覚が蘇る。
巫女さんが言った「相思相愛」なんて言葉、冗談だって分かっていても思い出そうとするだけで顔が熱くなる。
その時。
タタタッ、という軽い足音が廊下から響いてきた。
「おかえり、お兄ちゃん!」
勢いよくリビングに入ってきたのは、学校から帰って来ていたツインテールを揺らす妹の日和だった。
小学4年生のこの小さなお姫様の最近のマイブームは恋愛ドラマの鑑賞と、俺の交友関係のパトロールだ。
「日和、ただいま」
「あー!
お兄ちゃん、今何か見てたでしょ!
なになに、見せて!」
日和が目ざとく俺の手元に気づき、トトトッと詰め寄ってきた。
隠す間もなく、俺の手の中にあるお守りに日和の視線が釘付けになる。
「えっ、それ神社のお守り?
凄く可愛い!
でもそれ、確か……」
日和は自分のスマホを取り出して、神社の公式サイトを指差した。
最近の小学生は調べ物も早いな。
「それ、カップル限定のイベントでもらえるやつじゃん!
学校で話題になってるやつ!
え、今日お兄ちゃんの学校のイベントで行ったのってここの神社だったの!?
めっちゃラッキーじゃん!
で、お兄ちゃん誰と行ったの!?
ひなたちゃん?
やっぱひなたちゃんでしょ!」
キラキラとした好奇心の塊のような目が、俺を逃さない。
そういや、前に彼女役としてひなたを紹介したんだっけ…。
でもあれはあの日だけの1回きりだ。
ここで変にまた嘘をつくのも後がめんどいし…。
俺は冷や汗を垂らしながら、視線を逸らしてぶっきら棒に答えた。
「……別に、誰だっていいだろ。
たまたまイベントやってたから、記念にもらっただけだ」
「嘘だー!
記念だけでそんな大事そうに眺めないもん。
お兄ちゃん、顔赤いし」
「……っ、夕陽のせいだ。
ほら、あっち行け」
まぁひなたと行ったのは本当だからな…言わないけど。
日和はニヤニヤしながら、俺の周りをぴょんぴょんと跳ね回る。
「いいじゃん教えてよー!
お兄ちゃん、ひなたちゃんのこと大好きでしょ?
巫女さんに何て言われたの?
お似合いのカップルとか言われた?」
「……っ…。
うるせぇ」
手で顔を覆い、赤くなった顔を隠すように日和から距離を取る。
そんな俺を見て察したのか、日和は口元に手を添えてニヤニヤと笑っていた。
「へぇ、お兄ちゃんもやるねぇ。
2人がカップルイベントやってる所、見たかったなぁ」
「見なくてよろしい」
俺は溜息をつき、お守りを掌の中にぎゅっと握り込んだ。
こいつに隠してても全てお見通しなんだろうな。
日和が俺の隣に座り込み、少し真面目な顔をして覗き込んでくる。
「ねぇ、お兄ちゃん。
それ、お兄ちゃんにとって大事なもの?」
日和の純粋な問いに、俺は少しだけ自分の本音と向き合った。
今日、あの場所で天音や瑠夏からあいつを連れ出したのは、ただの助け舟だったはずなのに。
あいつの手を引いた時の感触、あいつが俺に伝えてくれた真っ直ぐな言葉。
それは俺が今まで隠してきた淀みを溶かして、確かな熱に変えてくれた。
「……あぁ。
大切な奴との、思い出だよ」
俺がそう答えると、日和は満足そうに「ふーん、やっぱりね」と笑った。
「ひなたちゃんにお嫁に来てもらえるように、しっかり頑張りなよ?
お兄ちゃん!」
「……お前、小4のくせに言うことがませてんだよ」
俺は日和の額に軽くデコピンしてから立ち上がった。
「もー!」
と怒る日和を横目で見て、軽く笑い荷物を持って自分の部屋に戻る。
綺麗に整頓された机の引き出しに、大切にお守りをしまう。
引き出しを締めた時、カチッと鍵がかかる音がした。
俺の心の中の、傍観者という鍵も今日でかかってしまった。
窓の外では、夜の帳が降り始めている。
明日、また学校であいつの顔を見るのが…今度は今まで以上に楽しみで、少しだけ怖い。
「ただいま……」
玄関で靴を脱ぎ、自分の部屋へ戻る前にリビングのソファへ体を投げ出した。
神社の階段を往復したせいか、心地よい疲れが体に馴染んでいる。
カバンのサイドポケットから、今日手に入れたばかりの小さな包みを取り出した。
神社の巫女さんからもらった、カップルイベント限定のお守り。
紅葉の刺繍が施されたそれは、夕方のリビングの明かりの下で見てもやっぱりどこか特別に見えた。
……ひなたも今頃これ見てどう思ってんだろうな。
俺と行った事、後悔してなきゃいいけど…。
突然不安になって、乾いた笑いが出た。
あいつが俺の好きなところをいくつも挙げた時の、あの心臓を直接掴まれたような感覚が蘇る。
巫女さんが言った「相思相愛」なんて言葉、冗談だって分かっていても思い出そうとするだけで顔が熱くなる。
その時。
タタタッ、という軽い足音が廊下から響いてきた。
「おかえり、お兄ちゃん!」
勢いよくリビングに入ってきたのは、学校から帰って来ていたツインテールを揺らす妹の日和だった。
小学4年生のこの小さなお姫様の最近のマイブームは恋愛ドラマの鑑賞と、俺の交友関係のパトロールだ。
「日和、ただいま」
「あー!
お兄ちゃん、今何か見てたでしょ!
なになに、見せて!」
日和が目ざとく俺の手元に気づき、トトトッと詰め寄ってきた。
隠す間もなく、俺の手の中にあるお守りに日和の視線が釘付けになる。
「えっ、それ神社のお守り?
凄く可愛い!
でもそれ、確か……」
日和は自分のスマホを取り出して、神社の公式サイトを指差した。
最近の小学生は調べ物も早いな。
「それ、カップル限定のイベントでもらえるやつじゃん!
学校で話題になってるやつ!
え、今日お兄ちゃんの学校のイベントで行ったのってここの神社だったの!?
めっちゃラッキーじゃん!
で、お兄ちゃん誰と行ったの!?
ひなたちゃん?
やっぱひなたちゃんでしょ!」
キラキラとした好奇心の塊のような目が、俺を逃さない。
そういや、前に彼女役としてひなたを紹介したんだっけ…。
でもあれはあの日だけの1回きりだ。
ここで変にまた嘘をつくのも後がめんどいし…。
俺は冷や汗を垂らしながら、視線を逸らしてぶっきら棒に答えた。
「……別に、誰だっていいだろ。
たまたまイベントやってたから、記念にもらっただけだ」
「嘘だー!
記念だけでそんな大事そうに眺めないもん。
お兄ちゃん、顔赤いし」
「……っ、夕陽のせいだ。
ほら、あっち行け」
まぁひなたと行ったのは本当だからな…言わないけど。
日和はニヤニヤしながら、俺の周りをぴょんぴょんと跳ね回る。
「いいじゃん教えてよー!
お兄ちゃん、ひなたちゃんのこと大好きでしょ?
巫女さんに何て言われたの?
お似合いのカップルとか言われた?」
「……っ…。
うるせぇ」
手で顔を覆い、赤くなった顔を隠すように日和から距離を取る。
そんな俺を見て察したのか、日和は口元に手を添えてニヤニヤと笑っていた。
「へぇ、お兄ちゃんもやるねぇ。
2人がカップルイベントやってる所、見たかったなぁ」
「見なくてよろしい」
俺は溜息をつき、お守りを掌の中にぎゅっと握り込んだ。
こいつに隠してても全てお見通しなんだろうな。
日和が俺の隣に座り込み、少し真面目な顔をして覗き込んでくる。
「ねぇ、お兄ちゃん。
それ、お兄ちゃんにとって大事なもの?」
日和の純粋な問いに、俺は少しだけ自分の本音と向き合った。
今日、あの場所で天音や瑠夏からあいつを連れ出したのは、ただの助け舟だったはずなのに。
あいつの手を引いた時の感触、あいつが俺に伝えてくれた真っ直ぐな言葉。
それは俺が今まで隠してきた淀みを溶かして、確かな熱に変えてくれた。
「……あぁ。
大切な奴との、思い出だよ」
俺がそう答えると、日和は満足そうに「ふーん、やっぱりね」と笑った。
「ひなたちゃんにお嫁に来てもらえるように、しっかり頑張りなよ?
お兄ちゃん!」
「……お前、小4のくせに言うことがませてんだよ」
俺は日和の額に軽くデコピンしてから立ち上がった。
「もー!」
と怒る日和を横目で見て、軽く笑い荷物を持って自分の部屋に戻る。
綺麗に整頓された机の引き出しに、大切にお守りをしまう。
引き出しを締めた時、カチッと鍵がかかる音がした。
俺の心の中の、傍観者という鍵も今日でかかってしまった。
窓の外では、夜の帳が降り始めている。
明日、また学校であいつの顔を見るのが…今度は今まで以上に楽しみで、少しだけ怖い。
0
あなたにおすすめの小説
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
還暦の性 若い彼との恋愛模様
MisakiNonagase
恋愛
還暦を迎えた和子。保持する資格の更新講習で二十代後半の青年、健太に出会った。何気なくてLINE交換してメッセージをやりとりするうちに、胸が高鳴りはじめ、長年忘れていた恋心に花が咲く。
そんな還暦女性と二十代の青年の恋模様。
その後、結婚、そして永遠の別れまでを描いたストーリーです。
全7話
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。
ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。
真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。
引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。
偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。
ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。
優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。
大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。
17歳男子高生と32歳主婦の境界線
MisakiNonagase
恋愛
32歳の主婦・加恋。冷え切った家庭で孤独に苛まれる彼女を救い出したのは、ネットの向こう側にいた二十歳(はたち)と偽っていた17歳の少年・晴人だった。
「未成年との不倫」という、社会から断罪されるべき背徳。それでも二人は、震える手で未来への約束を交わす。少年が大学生になり、社会人となり、守られる存在から「守る男」へと成長していく中で、加恋は自らの手で「妻」という仮面を脱ぎ捨てていく…
隣の家の幼馴染と転校生が可愛すぎるんだが
akua034
恋愛
隣に住む幼馴染・水瀬美羽。
毎朝、元気いっぱいに晴を起こしに来るのは、もう当たり前の光景だった。
そんな彼女と同じ高校に進学した――はずだったのに。
数ヶ月後、晴のクラスに転校してきたのは、まさかの“全国で人気の高校生アイドル”黒瀬紗耶。
平凡な高校生活を過ごしたいだけの晴の願いとは裏腹に、
幼馴染とアイドル、二人の存在が彼の日常をどんどんかき回していく。
笑って、悩んで、ちょっとドキドキ。
気づけば心を奪われる――
幼馴染 vs 転校生、青春ラブコメの火蓋がいま切られる!
ちょっと大人な物語はこちらです
神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な短編物語集です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる