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第三章
勝者への賞賛
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【瑠夏side】
体育祭もいよいよ大詰め。
グラウンドには西日が差し込み、土埃がオレンジ色に輝いている。
最終種目、クラス対抗リレー。
各クラスの精鋭が集まるこのレースには、俺、悠理、天音、そしてひなたと蛍も出ることになっていた。
「ひなた、心の準備はできてるか?」
召集場所の列に並ぶ前、ひなたに意地悪気にニヤッと笑ってひなたに声をかける。
緊張してるだろうと思ってたけど…。
本人は気合に満ちた顔で笑って言い返してきた。
「バッチリだよ!
この日の為に、蛍とバトン渡しの練習めちゃくちゃしたんだから!
瑠夏こそ、アンカーなんだからしっかりバトン受け取ってよね?」
「……当たり前だ。
俺がひなたからのバトン落とす分けねぇだろ」
ふっと笑って返すと、それに答えるように満面の笑みを向けてくる。
たくっ…そういう所がたまらなく可愛いんだっつーの…。
本人は無自覚だろうけど。
少し頬が熱くなるのを感じながら、俺は顔を逸らした。
ひなたの隣では蛍が
「私も負けないからね!
まだ白組が逆転できる可能性はあるしっ!」
と拳を胸の前で作って、火花を散らしている。
女子二人がそれぞれの位置へ向かうのを見送った後、残った俺たちの間には騎馬戦の時以上の重苦しい沈黙が流れた。
俺、天音、悠理。
なんの因果応報かは知らねぇけど、全員がアンカー。
もうこの3人で競うのは、宿命と呼んでもいいのでは?
このリレーの結果が今日1日の…いや、これまでの俺たちの「格付け」を決める……そんな錯覚さえ覚える。
「……瑠夏。
さっきの騎馬戦は引き分けだったけど、走る方は譲らないよ」
天音がハチマキを締め直しながら静かに、だが鋭く告げる。
「ハッ、勝手に言ってろ。
お前の背中を見るつもりはねぇよ」
「2人とも熱いな。
けど、俺もひなたの笑顔見たいし…負けられねぇな」
悠理がいつものように茶化すが、その目は全く笑ってない。
俺達の間で見えない火花が飛び散るが、時間は止まってくれない。
いよいよリレーが始まった。
ピストルの音が鳴り、第一走者が飛び出した。
レースは混戦だった。
蛍が猛烈な勢いで順位を上げ、天音の前の女子にバトンが渡った。
それと同じくらいのタイミングで紅組のバトンが、ひなたへと渡る。
ひなたが懸命に走るが、白組の女子と並行していた。
必死に、髪を振り乱してこちらに向かってくる。
「ひなた……!」
その姿を見た瞬間、胸の奥が熱くなった。
俺のために、チームのために、アイツはあんなに一生懸命走ってる。
俺が受け取るのは、ただのバトンじゃねぇ。
ひなたの「想い」そのものだ。
「瑠夏!!」
ひなたの叫び声と共に、掌にずしりと重みが伝わった。
「任せろ!!」
バトンを握りしめた瞬間、全ての雑音が消えた。
視界の端に、ほぼ同時に飛び出した天音と悠理の姿が見える。
「……っらあああ!!」
3人の足音が重なり、土を蹴り上げた。
コーナーを曲がっても、誰一人として譲らない。
横一線だ。
右側に悠理の気配、左側に天音の影。
負けられねぇ……ここで負けたら、俺は絶対後悔する!
足が折れようが砕けようが、構わねぇ。
走れ…!
…脳内でフラッシュバックする。
昼間の天音の告白、悠理の無自覚なスキンシップ、ひなたの「全員大切」という言葉。
それら全てが頭の中で混ざり合い、爆発的なエネルギーに変わる。
俺が一番、アイツを想ってる。
俺が一番、アイツを近くで見てきた。
俺が一番、アイツを幸せにできる!!
「うおおおおおぉぉぉ!!」
心臓が破裂しそうなほどの拍動。
肺が焼けるような熱さ。
ゴールテープが見えた瞬間、俺はさらに一歩、深く土を蹴った。
天音と悠理を、ミリ単位で引き離す。
その一歩が、勝負を決めた。
胸でテープを切り裂く。
「っしゃあぁぁ!!」
空に向かって片腕を高く突き上げた。
気付けば汗がどっと噴き出て、視界が滲む。
「……はぁ、はぁ……っ、クソ、速ぇな……」
悠理がその場に座り込み、悔しそうに…でもどこか晴れ晴れとした顔で笑っている。
天音も膝を突き、苦笑いを浮かべてこちらを見た。
「……完敗だ、瑠夏。
リレーでは、ね」
天音が立ち上がり、俺の肩を軽く叩いた。
「負けたのは認めるけど、これは走る速さの勝負だ。
恋愛の勝負は、まだこれからだから」
「……分かってる。
望むところだ」
俺は荒い息を整えながら、紅組のテントへと戻った。
そこには、今にも泣きそうなほど喜んでいるひなたが待っていた。
「瑠夏!!
凄い、凄かったよ!!」
ひなたが駆け寄ってくる。
「足、めちゃくちゃ速くて……ゴールした時、本当にカッコよかった!!」
照れたような、頬を少し赤く染めた満面の笑み。
今日1番の、俺だけへの賞賛。
「……っ」
心臓の鼓動が、走った後とは違う理由で跳ね上がる。
全身が熱い。
ひなたにストレートに「カッコいい」なんて言われるのは、反則だ。
「……ふん、当然だろ。
お前がバトン持ってきたんだからな」
嬉しくて堪らないのに、素直になれなくて顔を逸らす。
熱を持った頬を見られたくなくて、俺はひなたの頭をクシャっと、少し乱暴に…でも愛おしさを込めて撫でた。
「…ひなたも頑張ってたろ。
おかげで勝てた、ありがとな」
そう言うと、ひなたは一瞬キョトンとした後嬉しそうに「えへへ…」と笑っていた。
手のひらに触れる髪の感触が、柔らかい。
天音も悠理も、まだ近くにいる。
でも、今この瞬間だけはひなたの笑顔もこの温もりも、全部俺だけのもんなんだ。
俺の勝ち。
……今日は、これだけで十分だな。
体育祭もいよいよ大詰め。
グラウンドには西日が差し込み、土埃がオレンジ色に輝いている。
最終種目、クラス対抗リレー。
各クラスの精鋭が集まるこのレースには、俺、悠理、天音、そしてひなたと蛍も出ることになっていた。
「ひなた、心の準備はできてるか?」
召集場所の列に並ぶ前、ひなたに意地悪気にニヤッと笑ってひなたに声をかける。
緊張してるだろうと思ってたけど…。
本人は気合に満ちた顔で笑って言い返してきた。
「バッチリだよ!
この日の為に、蛍とバトン渡しの練習めちゃくちゃしたんだから!
瑠夏こそ、アンカーなんだからしっかりバトン受け取ってよね?」
「……当たり前だ。
俺がひなたからのバトン落とす分けねぇだろ」
ふっと笑って返すと、それに答えるように満面の笑みを向けてくる。
たくっ…そういう所がたまらなく可愛いんだっつーの…。
本人は無自覚だろうけど。
少し頬が熱くなるのを感じながら、俺は顔を逸らした。
ひなたの隣では蛍が
「私も負けないからね!
まだ白組が逆転できる可能性はあるしっ!」
と拳を胸の前で作って、火花を散らしている。
女子二人がそれぞれの位置へ向かうのを見送った後、残った俺たちの間には騎馬戦の時以上の重苦しい沈黙が流れた。
俺、天音、悠理。
なんの因果応報かは知らねぇけど、全員がアンカー。
もうこの3人で競うのは、宿命と呼んでもいいのでは?
このリレーの結果が今日1日の…いや、これまでの俺たちの「格付け」を決める……そんな錯覚さえ覚える。
「……瑠夏。
さっきの騎馬戦は引き分けだったけど、走る方は譲らないよ」
天音がハチマキを締め直しながら静かに、だが鋭く告げる。
「ハッ、勝手に言ってろ。
お前の背中を見るつもりはねぇよ」
「2人とも熱いな。
けど、俺もひなたの笑顔見たいし…負けられねぇな」
悠理がいつものように茶化すが、その目は全く笑ってない。
俺達の間で見えない火花が飛び散るが、時間は止まってくれない。
いよいよリレーが始まった。
ピストルの音が鳴り、第一走者が飛び出した。
レースは混戦だった。
蛍が猛烈な勢いで順位を上げ、天音の前の女子にバトンが渡った。
それと同じくらいのタイミングで紅組のバトンが、ひなたへと渡る。
ひなたが懸命に走るが、白組の女子と並行していた。
必死に、髪を振り乱してこちらに向かってくる。
「ひなた……!」
その姿を見た瞬間、胸の奥が熱くなった。
俺のために、チームのために、アイツはあんなに一生懸命走ってる。
俺が受け取るのは、ただのバトンじゃねぇ。
ひなたの「想い」そのものだ。
「瑠夏!!」
ひなたの叫び声と共に、掌にずしりと重みが伝わった。
「任せろ!!」
バトンを握りしめた瞬間、全ての雑音が消えた。
視界の端に、ほぼ同時に飛び出した天音と悠理の姿が見える。
「……っらあああ!!」
3人の足音が重なり、土を蹴り上げた。
コーナーを曲がっても、誰一人として譲らない。
横一線だ。
右側に悠理の気配、左側に天音の影。
負けられねぇ……ここで負けたら、俺は絶対後悔する!
足が折れようが砕けようが、構わねぇ。
走れ…!
…脳内でフラッシュバックする。
昼間の天音の告白、悠理の無自覚なスキンシップ、ひなたの「全員大切」という言葉。
それら全てが頭の中で混ざり合い、爆発的なエネルギーに変わる。
俺が一番、アイツを想ってる。
俺が一番、アイツを近くで見てきた。
俺が一番、アイツを幸せにできる!!
「うおおおおおぉぉぉ!!」
心臓が破裂しそうなほどの拍動。
肺が焼けるような熱さ。
ゴールテープが見えた瞬間、俺はさらに一歩、深く土を蹴った。
天音と悠理を、ミリ単位で引き離す。
その一歩が、勝負を決めた。
胸でテープを切り裂く。
「っしゃあぁぁ!!」
空に向かって片腕を高く突き上げた。
気付けば汗がどっと噴き出て、視界が滲む。
「……はぁ、はぁ……っ、クソ、速ぇな……」
悠理がその場に座り込み、悔しそうに…でもどこか晴れ晴れとした顔で笑っている。
天音も膝を突き、苦笑いを浮かべてこちらを見た。
「……完敗だ、瑠夏。
リレーでは、ね」
天音が立ち上がり、俺の肩を軽く叩いた。
「負けたのは認めるけど、これは走る速さの勝負だ。
恋愛の勝負は、まだこれからだから」
「……分かってる。
望むところだ」
俺は荒い息を整えながら、紅組のテントへと戻った。
そこには、今にも泣きそうなほど喜んでいるひなたが待っていた。
「瑠夏!!
凄い、凄かったよ!!」
ひなたが駆け寄ってくる。
「足、めちゃくちゃ速くて……ゴールした時、本当にカッコよかった!!」
照れたような、頬を少し赤く染めた満面の笑み。
今日1番の、俺だけへの賞賛。
「……っ」
心臓の鼓動が、走った後とは違う理由で跳ね上がる。
全身が熱い。
ひなたにストレートに「カッコいい」なんて言われるのは、反則だ。
「……ふん、当然だろ。
お前がバトン持ってきたんだからな」
嬉しくて堪らないのに、素直になれなくて顔を逸らす。
熱を持った頬を見られたくなくて、俺はひなたの頭をクシャっと、少し乱暴に…でも愛おしさを込めて撫でた。
「…ひなたも頑張ってたろ。
おかげで勝てた、ありがとな」
そう言うと、ひなたは一瞬キョトンとした後嬉しそうに「えへへ…」と笑っていた。
手のひらに触れる髪の感触が、柔らかい。
天音も悠理も、まだ近くにいる。
でも、今この瞬間だけはひなたの笑顔もこの温もりも、全部俺だけのもんなんだ。
俺の勝ち。
……今日は、これだけで十分だな。
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