対人恐怖症のメンダーと辺境の騎士 ~この恋は、世界のほころびを繕う~

Moonshine

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(やっと二人っきりになれたというのに、歩んで向かうその先は世界の終わりとは、我ながら情緒がない)

マティアスは暗い森を胸に恋人を抱き、歩みを進めながら、苦笑を浮かべドルマと出会ってからの日々を思い出していた。

声すらも聴く事ができなかった、衝立越しの第六の最初の出会い。
小さな手紙を交わすようになった幸せな日々。
月明りに映る、初めてドルマの可愛い顔。
とんでもない量を飲まされた牛乳の思い出が半分を占める、ドルマとの最初の外出。
初めて聞いた小さな声。
引き裂かれた日々。
そして、やっと心が通った塔での毎日。

魔獣の鳴き声が暗い森に響き渡る。 
ガサガサと暗闇の中で何かが横切ってゆく。

「ドルマ、君との初めての二人っきりのデートが、こんな物騒な所で申し訳ない。もっとロマンチックな美しい場がよかったな。第一の崖のてっぺんからの景色は恋人達の間で人気だそうだ。是非君と行ってみたい」

胸の中でドルマが小さく首を横に振った。

「マティ様、私は今、夢がかなっています。やっとこの世の誰もいない場所で、好きな人と二人っきりなんですから」

ぽつりとつぶやいたドルマの言葉が、マティアスの心の深い部分に響く。

先ほどまで大聖女の思考と対峙していたのも、大勢の神官や兵に囲まれていたのも、対人恐怖のドルマにとり大変な負担だったらしい。
ようやく息が着ける、とばかりに体を弛緩させて、ほうっと大きくため息をついた。

「紫のチョコレートをもってこなかったのが残念だね。ここを生きて帰る事ができたら、もう誰にも邪魔をさせないで、二人っきりで誰も来ないような場所に家を立てて、誰にも会わず一緒に暮らそうよ。君は家で繕い物をして、俺が外の事は全部するよ」

「…誰も来ないのですか?」

「誰も呼ばないが、ハンザだったら歓迎だ。だがカイルは騒々しいからごめんだ。レナはユールと一緒の時だけ入らせてやろうか」

胸元でドルマがクスクスと笑って言った。

「私、お館様には来て欲しいです」

「だめだよドルマ。ドルマが良くても俺がダメだ。父上はすぐにドルマを独り占めしようとするから、しばらくは呼びたくないよ」

「酷い方!ご自分のお父様なのに」

そして暗闇の中、二人で額をくっつけあって、笑いあった。

「…場所はどこがいいだろう。山奥のだれもこない場所がいいけれど、第六のテムジンの牧場のあるあたりはとても美しかったな。君は寒がりだから、南向きの小さな家で、居間には大きな暖炉をつけよう。赤い屋根に煙突は可愛いだろうな。庭にはそうだな、君が好きな花をどれでも育てて、君が家から一歩もでなくても、家の中よく花の姿が見えるように、大きな花にしようか」

「私は小さな花も好きです。大きな花も、小さな花も、たくさん育ててくれますか」

「ああ、もちろんだ。月の出る日は二人で花の中に腰掛けて、ハーモニカを奏でよう。ハーモニカに飽きたら二人で踊ろうよ。心配いらない、世界には私達二人っきりだ。ドルマを怖がらせるものは何もいないよ」

「マティ様、私踊った事がありません」

「それは好都合だ。君の最初のダンスを一緒に踊らせてもらえる栄誉を、私にくれないか?」

暗い森の、絶望への道を歩きながら、うっとりと、おそらくはやって来る事のない二人の幸せな未来を想像して、マティアスは幸せだった。

足場はどんどんと悪くなり、泥と枯れ葉でマティアスのブーツは重くなる。

ささやかな未来を想像する幸せも、二人には長く与えられてはいなかった。

「・・いっただろう、結界から近い場所だと」

遠くから瀧の落ちる大きな水音が聞こえてくる。
裏手にはいると、第11砦の大滝に入る岩場の渓谷に出たのだ。

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