対人恐怖症のメンダーと辺境の騎士 ~この恋は、世界のほころびを繕う~

Moonshine

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テムジンの牧場

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だれもいなくなった食堂の一角で、難しい顔をして考えこんでいたカイルだが、やがて閃いたようにつぶやいた。

「・・・もしかして、幌のついてる馬車の中でドルマちゃんが隠れたら、一緒にいけるんじゃないか?」

「おお! カイル! 貴方見直したわ!天才よ!それならドルマも一緒に行ける!」

カイルの前で心配そうに座っていたハンザはその場から立ち上がってカイルのアイデアを称賛した。
ハンザとカイルは、がっつりと握手を交わして実に嬉しそうだ。

「俺、幌馬車貸してくれそうな所に伝手があるんだよ。ちょっと聞いてくる」

「きゃー!カイル、あんたひょっとしていい男だったわけ?ドルマ絶対によろこぶわ、ありがとう!」

この二人、何の話をしているのかというと、急にきまったテムジンの実家の牧場行きについてだ。

ーーーーーーーーーーーーー

テムジンは、ワナワナと拳を震えさせて、激昂した。
目が完全に座ってる。

「ほ・・本当はそんなに牛乳が好きでないだと?????」

「えっと・・ああ・・そうなんだ、今まで言い出せなくて悪い・・」

マティアスは動揺しながらも、なんとか謝罪を口にする。

テムジンは、非常に心持ちが良い青年で、まだ少年と青年の間の可愛らしい見かけだ。
誰にでも親切で、真面目で、明るい。

だが、マティアスは知らなかったのだが、一つテムジンにはとても困った点がある。

テムジンは度を越した牛乳狂いなのだ。

マティアス達がテムジンに朝食の席で出会ってしまうと、いつも

「おい牛乳はもらったか?牛乳ならまだ少しあるぞ!」

と牛乳を押しつけられてしまう。
最初はなんとか付き合って飲んで、ドルマに風味を隠す裏技として教えてもらったハチミツやら砂糖やらを入れて誤魔化していたのだが、本当はあまり牛乳が好きではないマティアスは、ついにテムジンの圧に根を上げて、ぽろりと吐いてしまったのだ。

テムジンは大げさに天を仰いで地団駄を踏んで悲嘆にくれる。

「なんて事だ!!一体どうやったら牛乳が好きじゃないなんて、そんな育ちになるんだ? この世で牛乳ほど素晴らしい飲み物はないし、牛乳だけがあれば人は生きていけるんだ!」

「ああ・・そ、そうだな」

いつもは気の良いこのテムジンが、こと牛乳が絡むとちょっとおかしくなるのは、この第6では実は有名な事らしい。みんなニヤニヤしながら事の顛末を見守っている。

今度はしばらくうろうろしながらじっと足元を見つめて何かを考えていたテムジンは、何かを決心したように顔を上げると口を開いた。

「おい、マティ。先輩命令だ、次の休みに朝俺の実家の牧場にいくぞ」

「はあ?」

「次の花の日はお前ら非番だろう。お前ら3人、花の日の朝日が上がる前に、門の前の樫の木の前で騎馬で集合だ。わかったな」

そしてテムジンは、奥の席で食事をしていたハンザを見つけて声をかけた。

「ハンザも花の日は休みだろう? 一緒においでよ、カイルの馬にでも乗せて貰えばここからすぐだよ。俺のお母さんのミルクプリンは出来立てが最高なんだ。そのうちハンザの商会に持って行くつもりだったんだけど、最近おばあちゃんの調子悪くて」

友人達とおしゃべりに花を咲かせていたハンザは楽しそうに軽く答えた。

「あ、私プリン大好きよ!そうなの、うちの商会最近デザートに力を入れているのよ。いくいく、絶対いくわ!あ、でもさ、テムジンのおばあちゃんどこか悪いの?」

テムジンは、少し困ったように頭をかくと言った。

「どこか悪いっていうのかな。おばあちゃんすっかりボケちゃって、今俺の名前もわからないんだ。俺はすごいおばあちゃんっ子だったからショックなんだ」

ユールが遠慮がちに会話に加わってきた。

「テムジン、俺は遠慮しとくよ。残念だけど、俺の父が花の日の休日にあわせて第6のリンゴ酒のリンゴ酒醸造所の見学に来るので相手をしなくちゃいけないんだ。ついでに見合い相手と会う日にちもそろそろ決めたいんだろう」

「あー、そっか、それは残念だな。でも心配するな! 次の機会に必ず連れて行ってやるよ。俺の家の牧場の牛乳の搾りたてなんて飲んだ日にゃ、りんご酒なんてどうでもいいと思っちゃうけどな!」

食堂がどっと沸いた。
テムジンは大真面目に、自分の牧場の牛乳の方が、この第6のリンゴ酒よりも素晴らしいと信じて疑っていないのだ。

どこからか野次が飛ぶ。

「ダンダップ隊長、そろそろ出番ですよ!」

「おお、そうか、出番か」

こほん。と仰々しく咳払いをすると、ダンダップがぐるりと食堂を見渡して言った。

「みんな、よく聞け、いいか・・・リンゴ酒飲みすぎて…りんごろがった!!」

「ギャハハはは!」

「腹が痛い! 最高だ!」

「ヒー、もうやめてくれ、腹がちぎれる!!」

食堂は建物が揺るぐほどの大爆笑に包まれていた。
娯楽の少ないこの要塞では、ダンダップのくだらない冗談がこの上なく重宝されているのだ。

大爆笑の第6だが、どうもユール一人の表情がおかしい。
第6にユールの両親が様子を見にやってくる。少し前にユールがそう言っていた事はマティアスも覚えている。

「ユール、どうした」

「いえ、少し気になる事が」

マティアスは聞く姿勢に入った。

「確かに父はリンゴ酒醸造所を見に来るという理由で、私の様子を見に第6までやってくるのでしょうけれど、何かそんな理由ではなく、もっと切羽詰まった理由がある気がするんです。そもそも魔法伯領にはここのリンゴ酒醸造所よりもよほど大規模なワイナリーがある。はるばる魔法泊領から第6までやってくる理由が・・」

「親子だから、遠くまででもユールを訪ねて当然ではないのか? 恐らく単純にお前に会いたかったんだろう」

ユールは軽く横に首を振った。

「マティアス。俺の姉は俺よりよほど父と近い関係です。だが、姉が南に留学中、3年もの間ついぞ両親は姉を一度も訪ねた事などなかったんだ。姉の留学先は風光明媚な海の街だったというのにだ。魔術師という連中は頑固で偏屈で、ものぐさなんだよ」

「・・お前の気にしすぎだよ。きっと気が向いたんだろう」

「・・そうだといいのだが」

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