対人恐怖症のメンダーと辺境の騎士 ~この恋は、世界のほころびを繕う~

Moonshine

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マティアス

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遠くに空を裂くような、稲光が見える。
稲妻はやがて黒雲を呼び、嵐を呼んだ。

(ひどい嵐だ・・)

心を慰めるハーモニカの音色は、窓から吹き込んでくる嵐の暴風にかき消されてゆく。
マティアスはどうしても窓を閉める気分にはなれなかった。

床にうずくまって、ただただドルマを思って泣きたかった。みじめで、自暴的な気持ちに浸っていた。

(顔も良く見た事はない。声もほとんど聞いた事はない。ドルマの事は何も知らない。でも、・・私はドルマを、愛していたんだ)

一度心に沸き上がったその思いを認めてしまうと、今度は頬を伝う熱いそれを、止める気持ちにもなれなかった。

「どの面下げて」そう言った、レナの軽蔑した顔が目にうかぶ。

(私にはドルマを思って泣く権利すらありはしない。そして私には、辺境を守護する役目がある。だが、だが、会いたいんだ・・ドルマに会いたいんだ)

小さな雷が塔に落ちた様子だ。目の前に閃光が光る。
避雷針としても利用されている魔法塔に雷が落ちるのはよくある風景だ。
だが、中に閉じ込められているあの娘はどうしているだろう、こわがっていないだろうか、危ない所に立ってはいないだろうか。

(とても大切に思っていたのに・・会いたい、ドルマ、会いたい・・)

マティアスの奏でるハーモニカはどんどんと暗い調になってゆく。

若い頃からただ辺境を守る事ばかりの日々だったマティアスのそんな人生に、まるで一筋の月光のように現れた、可憐なドルマ。人と顔を合わせられないほど憶病で、無力で、甘い物が好きで、そしてとても優しい、繕い物が上手な可愛い娘。月明りのように、いつのまにかその手からすべりおちていくような儚いドルマ。

(私には、一人の娘に恋する事も許されないのだろうか)

風は荒れ狂い、大雨は執務室に容赦なくたたきつけてくる。マティアスは雨に濡れる事も風に吹かれる事もいとわずに、ただ窓際で、目の前の塔に向かって、ドルマとマティアスに無常な運命を叩きつけた世界に向かって、ハーモニカを吹いた。

そんな時だ。

(・・ドルマ?)

マティアスの心に真っすぐ届く、何か必死で、そしてとても暖かい、泣きたくなるような柔らかな思いが感じられた。
ドルマを前にすると、心にうかぶ気持ちだ。

(ドルマが私の事を思っている)

それはまるで、本能に訴えかけるような思いだった。

その次の瞬間、目の前が真っ白になるような閃光と、地面が割れるかのごとく轟音がひびきわたった。

塔に大型の雷が落雷したのだ。
マティアスはその場でうずくまった。

どのくらいそうしていただろうか。
塔の照明に使われている魔石が雷の魔力に反応して、全ての明かりが消えてしまっている。
あたりは星一つみえない、完全な闇だ。

マティアスは手探りで塔の方向を確認する。
闇に眼がなれてぼんやりとその黒くそびえたつ輪郭が見えた気がする。

(ドルマは大丈夫だろうか・・)

ふと外をみると黄色い光がみえた。
それは糸のように、蝶の羽ばたきのように、たよりなく、だが確実にこちらに向かっている。

そしてふと己の体からも黄色い光が出ているのが見えた。

そして、その固い糸のようなその光は、まっすぐにその頼りない糸をめざして進んでいる。

(一体何が・・)

見えるはずもない。ここから塔まで徒歩で半刻もある距離だ。

だというのに、暗闇の中、まっすぐ光の中に立っている娘の姿が見えた。泣いている。ドルマだ。

「ドルマ!!!」

おもわず体を窓に乗り出して、マティアスはあらん限りの力をふりしぼってドルマの名を呼んだ。

「マティ様!!!!」

ドルマの声が聞こえたと思った瞬間、マティアスの意識は真っ暗な世界に取り込まれていった。



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