ニューヨークの物乞い

Moonshine

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ピーターは、ギャラリー・マルビスのある、地下鉄の77丁目の駅の階段でいつも物乞いをしている、白杖の物乞いだ。

この国の物乞いは、非常に自己主張が激しい。
「いかにして私が物乞いとなったか」を演説するもの、人の袖を引っ張ってお金をねだるもの。
ほぼほとんどの皆は、不衛生な格好をしており、時には皮膚病をその放置して、膿んだ傷を晒しているものもいた。

まだ若い外国人の娘であった私にとっては、彼らは未知の恐ろしい存在だった。

できるだけ目を合わさずに、できるだけ足早に。
物乞いの人々の側を通る時は、いつも、コソコソと、話しかけられない様に、関わり合いのない様に、通り過ぎていた。

(私には、関わり合いがない人々だわ。)

小綺麗な格好で、毎日意気揚々と夢の職場へ出社する、人生で一番調子に乗っていた頃の私は、愚かにもそんな事を、本気で思っていたのだ。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

ピーターは、いわゆる私の中での一般的な物乞いとは違っていた。

ギャラリー・マルビスのある、77丁目の駅には、いくつもの出口がある。
人通りの多い方の東出口には、物乞いが2人いつも人に話しかけて、小銭をせびっていた。

例によって、まだ物乞いが怖かった私は、自然東出口は使わず、切符売り場のある西出口から、信号を渡って行くのが、私の通勤コーストなった。

ピーターは、階段に面した、そう人通りは多くないが、切符の自動販売機に近い西出口近くの階段で、いつも白杖を支えにして、静かにずっと座っていた。

大柄で、年とった物乞いが多い中、ピーターは、小柄で、それからまだ若かった。手にはいつもプラスチックの、アイスドリンク用のスタバの、透明の使い捨てのコップを持っていた。

。。この街の物乞いは、たくましい。
車椅子に座っていた物乞いが、通勤通学の通行人が通りすぎるラッシュアワーの稼ぎ時をすぎると、ひょっこり車椅子から立ち上がって、押して電車で移動した所をみた、など、鉄板の飲み屋でのツマミ話だ。

義足をわざわざ外して見せたり、ともかく人の同情を引く事で、収入を得ることに迷いはない。

白杖の物乞いを目にしたからと言っても、私は特に何も思わなかった。
目が不自由な様子にしていたら、余計に多くお金がもらえるというタイプの物乞いだろうと、勝手に思っていた。

あの日まで。
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